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143話目 そのネコミミは……?

今回から日常……ですが、異世界から帰還後の後日談が続きます。基本、コメディ寄りで。

「アブね……どうにか、間に合ったぜ……」


愛車(原付)を制限速度ギリギリでかっ飛ばし、勤務開始5分前に息を切らせてタイムカードに出勤時間を打刻したのは、見た目は金髪ヤンキー、中身は真面目な常識人の、聖家三女の遥ちゃんである。


「おんや~?珍しにゃあ。ハルにゃんが遅刻しそうににゃるなんて……ま、普段の品行方正さに目を瞑るけど、タイムカードはお着替え済ませてからが基本にゃよ?」


「すいませんメイド長。思わぬトラブルが発生してしまいまして……危うく無断欠勤するとこでした。いや、ホントにそれどころじゃなかったんですが……」


マジで、ついさっき剣と魔法の異世界から帰ってきたばかりの遥。肉体的には兎も角、リアルに血飛沫が舞い散り、人の命も儚く消えてゆく光景を間近に目にして、精神的疲労がピークに達していながら、それでもバイトに来たのである。


当然、光や小町が「今日ぐらい休んだら?」と忠告はしたのだが、急に休むと迷惑をかけるからと、帰宅した直後、愛車に跨がり急いで出勤したのであった。


「トラブルにゃあ?なんか気ににゃるから教えてほしーにゃあ」


「はは……なんて説明したらいいのやら……っと、急いで支度してきますね。っと、ふうっ!エアコンが気持ち良いなぁ~」


真夏の日中、被りっ放しだったヘルメットを取っ払い、店内の冷たい空気を髪と、汗が滴る項に取り込み、遥は新鮮な気分で大きく息を吐いた。とても、解放的に感じる瞬間である。非日常を濃厚に味わってきたばかりだからか、普段よりも一層すっきりと、のびのびと感覚が広がったようであった。


「ハルにゃん…………何があったんにゃん!?」


「は?一体、何をそんなに慌てて……」


さにゃえが瞳を昼間の猫のように瞳孔を縦に細くして見開き、遥の頭上を指差し身震いしていた。何がどうして……まるで、遥の頭に何かが生えているかのようなリアクションである。遥は、あまりに急いでいたので、異世界から妙な昆虫でもくっ付けてきてしまったかと思い、なんとなしに自分の頭を触れてみると……頭皮に到達する前に、ふにっとした感触があった。寝癖かな?と思った瞬間、()()()……ピクッと跳ねるような動作をした。それは、このメイドカフェ兼猫カフェである〝29Q〟に勤務している従業員なら誰にでも見覚えがある……猫が耳に違和感を覚えると反射的に行ってしまう、あの動作を思い起こさせた。


「……ある」


そう、あった。立派な、生の、ネコミミが。


摘まむと確かな皮とモフ毛の感触。作り物ではない、温もりがあり、血が通って脈打っている、人体?の一部分となっているネコミミが遥の頭に存在していた。


無言で見つめ合うさにゃえと、生肉ネコミミ付きの遥。どうしてそうなったかを聞きたいさにゃえ。どうしてこうなったか寧ろ自分が知りたい遥。互いにどんな言葉を発すればいいのか解らず、静止した空間に時計の音ばかりが響く。


やがて、張り詰め緊張感に耐えられなくなった遥が口を開き。


「……きゅ……急に変な腫瘍が出来たみたいなので早退させていただきます!」


脱兎……ならぬ、脱猫の如く逃走しようとした!


「んにゃ苦しい言い訳で(こんな面白いモノ)逃がすか!確保ー!店内のメイド全員!こっちこいにゃー!」


「全員呼ぶとか人でなし!大人気ない!仕事しろぉー!」


「そんな戯言、ネコミミに通じるか!だにゃ!こんなモフカワ逃す方が損失にゃー!」


哀れ……抵抗空しく、天然ハルにゃんは捕獲されたのであった。




数分後。聖家のリビングルームにて。


「およ?さにゃえちゃんからメールが来たよ希」


「遥ちゃん、なんかあったかな?……〝可愛いナマモノ、ゲットだぜ!〟?遥ちゃんと関係ないのかな?……」


添付されていたフォトデータを見て……双子は、思わず息を揃えて噎せた。そして、爆笑した。


「マジモンのネコミミ生えたとか……ツボに入った……」


「駄目……本年度の可愛いオブザイヤー最有力候補……」


「庇護欲と嗜虐心が、マグニチュード9オーバーで揺さぶられる……」


「死ぬ……全ケモナー男子が感動して死ぬレベル……」


翼のスマホに映る遥の姿は……少々着崩されたメイド服を纏いながら、床に女の子座りをさせられて、上目遣いで羞恥でピークに染まった表情をし、金髪から地毛色(黒)のネコミミを生やしたハルにゃんであった。しかもよくよく見ると……ネコミミと同色の尻尾がスカートの裾から覗いている……


「これ、確実に神様が言ってた〝スキル〟とかの影響じゃない?」


「そうだね。多分、自分のDNAを変えちゃう的な奴」


「趣味や嗜好や特技に合わせて付与されたらしいからね」


「なら、こうもなる……と。以上、解決」


「じゃ、そんな感じで返信しておく」


二人とも、女神様への思いやり接待で疲れていたので、対応が投げ遣りであった。「どーせ、遥ちゃんが捕獲された時点で異世界召喚されたのバレたよね?」「本当の事を教えたからって、世間は本気にしないよね?」な、ノリであった。




「ふむ……ウイングちゃんとホープちゃんも肯定したにゃあ……どうやら、本当にあるらしいにゃ、異世界」


「だから……そう言ったじゃないですかぁ~」


〝29Q〟の女子更衣室では、お仕事そっちのけでハルにゃんに対する事情聴取が行われていた。


取り調べメンバーはさにゃえメイド長を筆頭に、良識人サイドのちえみぃ先輩。それに、シフトに入ってないのに遊びに来ていた後輩のみやみゃーちゃん(変態ストーカー)である(メイド長判断で、覗き見させとく方が危なっかしいので、おさわり厳禁で入室させてあげた)。


「はぁ……はぁ……ハルにゃん義姉様の生ネコミミ……生ネコ尻尾……愛でたい……モフりたい……はみはみしたい……神様!こんな欠点のない美し可愛い義姉様をこの世に生み出してくれてありがとう御座います!今日ほど、貴方様に感謝を捧げたいと思った日は御座いません!」


「……アタシは感謝すんのと同じくらい、チキショーと思っているけどな……みやみゃー、鼻血止めないと、死ぬぞ」


みやみゃーは、既に一箱分のティッシュペーパーを紅く染め上げていた。だが、出血が停止する気配は全く無い!


「こんな時だけど、ハルにゃん……みやみゃーの事、少し平気になってるみぃ?」


「……こんなのでも、日常だと感じるぐらいに、殺伐……陰惨……理不尽……そんな世界を見てきたばかりですので……この程度の気持ち悪さだったかって、思っちゃったんですにゃん。気持ち悪いけどにゃん」


「二度ディスる程、大事でしたか!?あ……でも、義姉様になじられるのも幸せ……」


「……美少女の皮を被った名状し難いナニカだみぃ……それはそうと、ハルにゃんチェキッて構わぬみぃ?」


「……もう、メイド長に撮影されてるのでご自由にゃん。SNSに拡散だけはしないでほしいにゃん。じゃないと……社会的に抹殺されることになりますにゃん」


神秘の力と圧倒的物理破壊力を持つ義兄と、あらゆる電脳機器を自由自在に使いこなす双子義妹。この三人が本気になってしまえば、地球のあらゆる防衛力が無力と化す……本気になる時、それは、彼等の家族が危機に陥った時である。だからもし、遥のプライバシーな写真が拡散するだけでも、拡散主の身柄と社会的信用がどうなるか……遥は実際、三人が敵に対して容赦しない行動をするのを目にしてきたので、その復讐が苛烈であることを確信している……


「……とりま、ウイングちゃんとホープちゃんが慌ててないし、そのネコミミに害は無さそうだにゃあ。そもそも害のあるネコミミなんて、存在する筈ないけどにゃ!それに……金髪に黒ネコミミのコントラスト……芸術的にゃ!これを……バックヤードだけのものにしては……ネコミミ界にとって大損失だにゃ!」


「それって……このままフロアに出ろって事ですかにゃん!?無理!おさわり禁止だからって、本物だとバレたらどうしますにゃん!」


「大丈夫!ハルにゃんだけ試作衣装のお試し中って事にするからにゃあ!まぁ、今日だけにゃん。どうか、納得してほしいにゃあ……ホントに、ご主人様方に見て戴かないと勿体ないにゃあ……特別ボーナス出すからにゃ?」


「…………………今回だけですにゃん」


お金は大事!……なのであった。




その日〝29Q〟を訪れたネコミミ大好き紳士達は、奇跡を目撃した。


あまりにリアルにピクるネコミミを。


モフみが、毛並みが自然なネコ尻尾を。


それを、終始恥じらっている美少女メイドが装着しているのを。


それが、当日告知無しの試作衣装であり、大好評でありながら後に正式採用されず、当日来店した者しか目にできなかった事により、この日のハルにゃんは、伝説となった……




その日、帰宅した遥は、まだネコミミだった。


「剣!これ、どうすりゃいいんだ?戻し方が解らねぇんだよ!……!!?」


双子の「多分、魔法なんじゃない?」との投げ遣りな意見から、専門家である剣に意見を伺おうとした遥であったが……リビングでの光景を前に……硬直した。


剣は聖家に帰宅してから疲労で眠ったままで、リビングのソファーベッドで横になっていたのである。


実鳥に添い寝されて。


まるで、恋人みたいに。


「あ、はるるんおかえり~」


その傍らで、平然と縫い物をしている梓に対しても絶句である。


口ではどう言っていても、実際に他の女が剣に近寄って……どころか、密着しているのに!それでも揺らがない梓に、「これが正妻の余裕なのか?」と戦慄したのである。


「いや、スキルっての?本当に凄いよね~。何かね?手縫いの方がミシンよりずっと速く縫えちゃうんだけど!」


「……アタシは、外れスキルが当たっちまったよ……」


運による格差社会を実感し、遥は力無くへたりこむのだった。


「妹が、アタシより大人になってるし……」


お姉ちゃんとしても、ショックであった。


「はるるん……ネコミミがへたってて可愛い件」


「慰めにならねぇよ」






久々にメイドさんを登場させました!

たくさんネコミミを単語として登場させられて満足!

ハルにゃんに発現したスキルは、当然女神様の悪戯が原因です。本当は有用な希少スキルなのですが……それはまた別の話で。

これで令和元年の更新終了!

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