142話目 帰宅
更新ギリギリ!
複雑な気持ちになりながらも、実鳥は変身ヒロインとなる運命を受け入れた。正直、ヴェルティエの身体に未練は全くなかったのだが、実鳥がヴェルティエの身体に戻れる事を、ガルミアが感涙して喜び、剣に感謝のハグをしながら隠れ家の庭を回転ダンスしながら駆け巡ったりしたからである。
……とても、変身魔法少女になるのが恥ずかしくて嫌だからとか拒否れない雰囲気だったのである。母を亡くして十四年も苦労したであろう娘を、ガッカリさせたりするとか、母親的に無理だったのだ。
「……そういや、姉さん達は?」
ガルミアに振り回されて、グッタリしながら実鳥に問う剣。ハッキリ言って、体力的にかなり無理をしている。平気そうに見えても、血は減っているし、全身筋肉痛だし、実姉に窒息させられそうにもなったのであるから。
「皆、先に帰ったよ。お姉ちゃんなんか、バイトだからって慌ててたし……気を利かせてくれたのかもだけど……」
「気?……そっか、ガルミアとゆっくり話す時間をくれたって事か。皆、粋なとこあるよなぁ」
「それだけじゃ、ないと思うけど……本当、自分の事を二の次に、棚上げし過ぎじゃないかな?……まあ、らしいって言えばらしいけども」
どうにも、乙女心を解しきれない剣であったが、実鳥はそんな剣が昔と、〝無銘の聖剣〟だった頃と本質的に変わっていないと感じ、呆れながらも嬉しく思うのであった。
「それはそれとして……私達って、不思議な関係だよね。運命に悪戯されまくってるよね?もし……お母さんが再婚していなくて、召喚された時に……剣さんが傍にいなかったらって考えると……」
「それなんだが……もしかしたら、俺達二人が召喚のタイミングで近くにいなかったら、召喚失敗してたんじゃないかとも思うんだよな。ほら、召喚の触媒ってヴェルティエの遺体が利用されてたろ?それには当然、折れた俺も刺さってた訳で……ま、この件については深く考えるのは止めておこう。責任は召喚者にある。それが全てだし、過ぎた事だ」
「もしかして……ううん、そうだね」
実鳥は、実鳥が召喚に姉妹を巻き込んだことを気に病まないようにと気遣ってくれたのだと感受した。
(心の機微には鈍感なのに、優しいのは相変わらずだなぁ)
「そうだ、ガルミア。王都の方なんだが、平民の居住区や貧民街を除いて壊滅させておいたから、今の内に守りを強固にしておけよ。あっちは地方から兵士や労働者を召集して防衛と再建に専念するだろうから、お前らの捜索や討伐に人員を割く余裕は無い筈だ。ま、近い内に他国の介入はあるだろうから用心しておけよ」
「は、はい!……て、王都を壊滅ぅ~!?」
ガルミア驚愕。剣が王都に後始末をしに出掛けていたのは知っていたが、それは再召喚への対策として、精々召喚魔法の研究資料の始末や、召喚魔法を使えそうな魔法使いの抹殺程度だろうと思っていたからだ。派手にやったとしても、研究施設の爆破が限度だろうと……やることが、ガルミアの想像の範疇を遥かに越えていた。
「ああ。桜が「やるなら徹底的に恐怖のドン底に叩き込むのであります!」とか言ってな。それで思いっきり隔絶した力の差を見せつけてきた。しかし……〝常闇之刃皇〟とか、厨二ネームよく思い付くよなぁ。剣皇は兎も角、常闇どっからきた?恐怖を抱かせるには闇とかベターかもしれないけれども」
(優しい……よね?いや、身内に対して甘過ぎだよね!桜ちゃんプロデュースで、王都壊滅させちゃったとか!)
「剣さん……それ、やり過ぎじゃ……」
「そうか?俺の警告を真に受けて逃げ出した連中や、一般庶民は殺してないし、最低限の配慮はしたつもりだが……王族貴族に兵士やら……一万人も殺っちゃいないだろ?ガルザートん時と比べたら大した事じゃねぇって」
「そうでした……十万以上の軍勢相手に無双したのは私でした……うわ……日本人の倫理観的に駄目な事をしてた……私なんて、警告すらせず不意討ちぶっぱだったし……」
暗い顔で、頭を抱える実鳥。今更ながら、前世で行った大量殺戮を良心と今世の常識が苛んでいるようである。
「あまり、気にしない方がいいぞ?勇者の運命やら使命に正面から向き合った結果なんだし。エルヴィアスの仕組み的に、何もかもは救えなかったんだからさ。それに、俺も共犯なんだから、一人で悩んで背負って苦しまなくていいんだからな」
「うん。でも……人殺し絶対駄目な価値観で十三年近く生きてきて、突然そういった記憶を取り戻しちゃったんだもの……自分の中での常識とか倫理とかぐちゃぐちゃにもなるよ……」
「実鳥も、そーゆーとこは変わんないよなぁ」
昔から、こうだったなぁと、剣は染々思った。
ヴェルティエは、対峙した問題に散々悩みつつ、決断したら迷わず実行する強さを持ちながらも、事を終えた後で、その結果に後悔するのが常であった。だがそれは、彼女の優しさと責任感の大きさ由縁でもあるので、面倒な性格だと思いつつ、剣は前世から好感を抱いていた。今更、言葉にする事でもないと思っているが。
「さて……あんまり遅くなると姉さん達が心配するだろうし、帰るとするか?俺の鍵、預かってるんだろ?」
既に、女神がゲートを製造するのに掛かると言っていた時間を二時間以上過ぎていた。あまり遅くなると、貴重な使用回数を消費して迎えが来てしまうかもしれない。
「あ……鍵ね、うん。預かってる。預かってます……けど、正直、これでいいかな?って感じなんですけども……」
「何だか、歯切れが悪くないか?あの女神様が、こっちの要求した機能に不備がある物を寄越すとは思えないんだが……」
「いえ……機能には、何も問題ない筈……なんだけども……」
そう言って、実鳥はカードキーを取り出して剣に手渡した。……何故か、顔を反らしている上に赤面までしながら。怪訝に思いながら剣はカードキーを確かめた。そのサイズと材質は注文通りの出来映えで、軽くて丈夫で文句なしのカードキーであった……大きな、そして下らない問題が一つだけあったが。
その問題とは……
「チクショー!確かに……デザインには細かい注文していなかったけどさっ!アウトだろっ!これはぁー!!」
「きゃあっ!?」
剣は思わず、カードキーをメンコのように地面に叩きつけた。そして図らずも判明するは、恐るべき女神謹製カードキーの強度。
つい、我を忘れて本気で地面と衝突させられたカードキーから、凄い風圧が発せられ、砂塵を巻き上げる程であったのだが……傷一つ刻まれはしなかった。因みに風圧で実鳥のスカートが盛大に捲れ上がったりしてたのだが、ラッキースケベ値が皆無に等しい剣には、砂塵が邪魔して見えていなかった。
「あの女神……そんなに下らない嫌がらせが大好きかぁー!?」
カードキーには、女神の写真がプリントされていた。それも、ごく普通なんかではなく、女神らしい神々しさは皆無……とは言えなくもなく、神秘的な美しさは、見る者によっては感じる事であろう。だか、それ以前に……
「持ち歩けるか!帰ったらアニ○イトカード用のシールを貼り付けてやるぁー!」
カードにプリントされている女神は……謎の白光線が発生するギリギリで、大事なところを写らないようにしているが、女豹のポーズで全裸に見える……アダルトグラビアさながらで、清純なJCが直視するのを躊躇って当然な、エロスであったのだ。
剣は荒く息を吐くと、実鳥にコレを受け取った際のアレやコレやを問い質した。まさかと思うが、小町にまでこんなデザインのカードを渡していないか確かめずには居られなったのだ。
「え……えっと、デザインは全員違うみたい。喜んでたのは、桜ちゃんだけだったかなぁ……他の皆、苦虫を口一杯に頬張って咀嚼しちゃったみたいな顔をしていたけど……因みに私のは、ヴェルティエ時代の私のコスプレした女神様……自分のコスプレされるとか、とんでもない羞恥プレイだよ!」
「だよな……困った女神様なんだよ。会う度に、微妙に神経を逆撫でしてくるんだ。まあ、兄の尊厳と精神的ダメージ以外に実害ないから、為すがままなんだけどさ。今回はそれ以上に助けられちまったし。正直、次は何をされるのか……」
「次、かぁ……実は、ゲート自体のデザインも、けっこうアレなんだよね……」
「……マジで?」
とっても嫌な気持ちになりながら、剣はカードキーを使用して、ゲートを出現させてみた。
「………これが、デフォルトなのかっ!?」
剣さんは、ゲートの前で四つん這いて突っ伏した!そりゃね……ゲートの大きさや頑丈さには拘ったけど……女神様よ、あんまりだ!
「……ファンシー過ぎる!」
ドアがハート型だし!ピンクだし!リボンやお菓子みたいな装飾が盛りだくさんだし!まるで……幼女向けマスコットキャラアニメの世界観だし!
「……これを使うと、どんなシーンもシリアスぶち壊しそうだよね……今、正に」
「……言うな。諦めて、さっさと、帰ろう……」
剣と実鳥は乾いた笑いを浮かべながら、ガルミアに振り向いた。
「ガルミア……また、直ぐに会いに来るからね!」
「その内、俺達の世界にも招いてやるからよ。あまり、無茶するんじゃねーぞ!」
二人を見送るガルミアの瞳には、相変わらず涙が浮かんでいた。だが、その表情は、とびきりの笑顔だった。ガルミアの背後には、彼女の仲間達もいつの間にか集まって、剣達を盛大に見送っていた。
「ママ!聖剣さん!……絶対だからね!……大好き!」
「ガルミア……私も、大好きだよ!」
「……ま、このデザインも、ハッピーエンドには悪くないか……」
二人がゲートと共に消えてからも、ガルミアは暫し、その場から動かず、物思いに耽っていた。
こことは違う世界に、確かに存在する母と、その家族を想って。自分を、家族と認めてくれて、笑顔を交わした大切な人達との再会を、心から願って。
「帰って、来たね……」
「だな。トータルして二十四時間も離れてなかったのに、えらく濃い一日だったな」
見慣れた風景。日常の空間。本当に安らげる場所へと、異世界の元勇者と、元聖剣は帰ってきた。
「うっ……ヤベ……もう、無理……すまん」
「えっ?ちょ、剣さん!?きゃふっ?」
自宅に戻り気が緩んだのか、剣は直立する力すら失い、実鳥に身体を預けるようにして倒れてしまった。実鳥は押し倒されるように剣を抱き止め……心臓が激しく跳ね上がるのを感じた。
「あ、あの……?こうゆうのは、梓さんの役目……あ」
剣は、安らかに寝息を吐いていた。本当に、身体も精神も限界突破していたようで、最後に、睡魔に負けてしまったらしい。
「もう、甘えさせてくれるんじゃなかったのかな?……仕方ないなぁ……でも、ありがとう。そして、ご苦労様でした。ゆっくり……おやすみなさい。……おにぃ……ちゃん」
時間がない!次回から夏休みだ!これしか書けない!




