140話目 壊滅
少々更新が遅れてしまいました。理由は……昨年の今頃と同じであります!
エルヴィアスには一つの大陸と無数の島々が存在し、数多の国が存在する。
大陸中央の高濃度魔力地帯を囲む十二の国家を大国、それ以外の国を一般的に小国と呼んでいる。
大国の中でも、大陸の中心から東西南北の四方に位置する国々はエルヴィアスの中でも歴史が古く、人族にとって魔族に対する守りの要として〝四頂守護国〟とも呼ばれている。その四頂の一角、西のリーイース王国では現在、建国以来最大と言える、国家存亡の危機が訪れていた。
始まりは昨夜、王都の複数の重要施設に対しての魔族による破壊工作と、それに併せ奴隷化されていた魔族の解放・奪還事件。更には、その事件を主導した魔族の組織によって、国王を拉致したと喧伝され、王国政府関係者は事実確認と被害確認、その対応に追われる事となった。
一晩明け、各施設の被害状況が判明し、再度の襲撃に備えて兵士の臨時配置、国王捜索部隊の編制等を急ピッチで進める混乱の中、それは、唐突に現れた。
「リーイースの民に告ぐ。これより、王が禁忌を犯した罰として、王都を破壊する。破壊は王城より開始する。命が惜しくば、直ちに王都中心区画より離れよ。逃げぬ者には、一切容赦はしない」
その声は風属性魔法に込められた言霊。凍てつくような、冷たく透き通った声が王都全体へと響き渡った。
言霊に込められた魔力により、その声を聞いた全ての者の感覚に、声の主の居場所が強制的に理解させられた。その時、屋外にいた誰もが、王城の上空に浮かぶ人影を見つめていた。幾万もの瞳が凝視する先……外套を纏った青年らしき人影が、文字通り、王都の全てを見下していたのである。
青年を見つめる誰もが、信じられない思いであった。魔法使いであれば空を飛ぶことや空中に浮かんで静止するのは不可能ではない。しかし、王城の上とは、即ち王の頭上である。そこにいるだけでも不敬であるのに、王都の破壊宣言まで行い、それを、王の犯した罪に対する罰だと言い放ったのだから……
殺されて当然。それがリーイース国民の共通認識であった。
リーイース王国に於いて、王とは最高権力者にして独裁者であり、身分制の頂点に立つ支配者である。これまでの歴史で独裁を善しとせず改革を目指した者や、革命を志し蜂起した民衆は少なからずいたが、その尽くが王の権力に、王国軍の軍事力の前に敗れ、見せしめとして残忍な方法で公開処刑されてきた。
王族・貴族は処刑される者を嗤い、愉悦し。搾取される側の平民達は、その恐怖から、いつしか抗う気力すら無くし、支配を受け入れ、耐えるだけの日々が続いていたのである。
だから、多くの者がこう思っていた。「なんて、馬鹿な事をする奴が」と。「どうせ、すぐに騎士やら兵士に殺されちまう」と。その想像を裏切らず、城の各所から数え切れない程の魔法の弾丸が、矢が放たれて青年に襲いかかった。
一人に対して、あまりにも圧倒的な数の暴威。過剰なまでの武力行使。それは既に、制圧ではなく処刑そのもの。青年を見上げていた貴族は「愚か者め」と嗤い。民衆すらも青年を「大言壮語の世間知らずか」と、気の毒そうに眺めるだけであった。
「……忠告はした。これより、断罪を開始する」
再び響き渡る言霊。それは先程とは異なり、聴いた者の正気を狂わせるような、怖気を覚えさせる殺気が含まれていた。
そして、その殺気は錯覚等ではないことは、直ぐに証明された。青年を襲った数百もの魔法は、青年に到達することすら叶わず、全てが反射されたのである。
しかも、単に反射した訳ではなく、倍以上の速度になって魔法を放った術者へと跳ね返された。致死の威力で魔法を放った直後であった為、速度が倍加された魔法に対してマトモな防御体勢をとることも出来ず、辛うじて避けるだけるのが精一杯であった。それも、一握りの者だけである。大半は自らの魔法に被弾して身を焼かれ、切り裂かれ、凍りつき、痛みに苦しみもがく叫び声が、王都中心部のあちこちから合唱のように反響していた。
「畏れよ。心に刻め。そして己が野望と欲望を戒めよ。過ぎたる欲は、周囲をも巻き込み破滅に至る。今日と言う日を招きしは、愚かな舵取りの結果であると知れ」
宙に浮かぶ人影から発せられる言葉に、魔法を跳ね返されて負傷した者達は恐怖に震え。国の政に携わる為政者達は憤慨して喚き散らし。圧政に苦しんでいた民衆は王都の外周へと避難しながら青年を讃え敬い。奴隷として虐げられていた獣人や魔族は、まるで、大いなる者を崇めるように、涙を流しながら青年を祈りを捧げていた。
さて……その青年、紛うことなき主人公の剣さんなのであるが、こうして、お城の上に浮かんでから、実は一切口を開いてはいなかった。
「我を畏れよ。幾星霜の果てまでも、夢幻と忘るることなかれ。故に、我が存在した証を、この地に穿ち、刻み込まん」
王都中に響き渡る言霊と同時に、その声は剣の耳に、外套に隠れ、襟首に仕込んである彼自身のスマートフォンのスピーカーから発せられていた。
「それでは兄様。打ち合わせ通り、例の奴をド派手にかまして下さいませ!」
この声は、剣にしか聞こえていない。通話主の意思次第で、通常通話と広範囲託宣モード(変声機能付き)を自在に切り替えられる……そんな神様スマホを借用している桜が声の主であった。
話は、ちょこっと時間を遡る。
地球へ帰還する前の後始末に、剣はリーイース王都に潜入し、ネウグルの魔法研究施設を襲撃していた。目的は研究資料の抹消及び強奪。併せてネウグルの研究や、その思想を受け継ぐ者の抹殺である。懲りずに再召喚されたりすると、非常に面倒だと思ったからだ。
その保険として、女神への願いに大量注文をした訳であるが、可能な限り、リスクは排除しておくべきだと判断したのである。
そうして、研究所を破壊したり。資料を盗み読みしては燃やしたり。貴重な魔法道具を発見しては戦利品として回収したり。実験の被験体として囚われていた他種族の皆さんを解放してみたり。警備に駆けつけた騎士から〝聖雷の剣〟を奪ったりしてたら、不意にスマホが鳴ったのである。
当然、画面には〝非通知〟の文字が。誰からなのかは考える迄もなく……気後れしながら電話に出ると。
「あ!兄様!女神様に電話をお借りしたのです~……うっわ!死屍累々でありますなぁ……軽くトラウマになりそうな」
「桜?え?何!?こっち見えてんのか?」
「神様スマホの性能はバケモノか!?意識に直接、そちらの周囲の状況が映像化されているのであります!と……本題を忘れるところでした。ここから先は、ボクがプロデュースさせて戴くのであります!徹底的に!理不尽に!リーイース王都住民に兄様の恐怖と偉大さを永劫に忘れ得ぬように叩き込むのであります!」
「くそ……女神様に茶々入れられないように抜け出て来たってのに……」
そして、王都に降臨した彼の者の名は……
「我は異世界の魔法使いにして、遍く刃を統べし者。〝常闇之刃皇〟なり。我が愛する妹を無理矢利に召喚せし罪、国の命運を以て購え!」
(……自分じゃ絶対、思いつかない台詞だなぁ……)
剣は桜の指示に従い、あらゆる魔法を撃ち放ち、城と周囲の貴族街の建造物を瓦礫に変え、忠告を受け入れず逃げる素振りを見せない者達に容赦なく攻撃を加えていった。
やがて、充分な資材の準備を完了すると、それらを宙へと、自らの頭上へと風属性・重力・念動魔法を駆使して一塊に集め。炎熱魔法で溶解させて捏ね合わせた。マグマのように赤熱化した素材で粘土細工をするように……
そうして、大まかに形を造り上げると、冷熱魔法で冷やし固めた。出来上がったその形は……あまりに武骨で、常識はずれに巨大な、剣と呼ぶには不恰好な、歪んだ塊であった。
「これぞ、我が〝国裂之太刀〟である。逃げる時間は充分にくれてやった。愚かな判断をせし者共よ……断罪を執行する」
この日〝常闇之刃皇〟を目撃し、生き延びた王都の民は後日、こう語った。「あれは、神秘の顕現だった」と。
〝常闇之刃皇〟が造り上げた〝国裂之太刀〟は、滑らかな動作で上昇すると……天から突如として出現した、眩く輝く巨人のようなナニカの手に納まったのである。そして、光の巨人は太刀を大上段に構えると、猛烈な速度で落下し、着地と同時に、城を一刀両断したのであった!
至近距離での落雷が霞む程の轟音が王都を覆い、城を中心に発生した破壊の衝撃波が、廃墟と化していた貴族街から瓦礫を吹き飛ばして更地へと変えた。吹き飛ばされた瓦礫は、人と建造物へた無差別に襲いかかった。
誰もが無力感に絶望する中、奇跡が起きていた。
王都の外周部分、逃げ惑う民衆でごった返す平民居住区や貧民街に到達した衝撃波と瓦礫の礫が、死を幻視していた人々の目前で、ナニカに阻まれ消失したのである。
(ま、関係ない一般人まで殺すのは後味悪いからな)
それに、自身の正当性を証明するには、生き証人が必要なのだ。逃げた者まで巻き添えにしてしまっては、どれだけ怒り狂った魔神を演じていたとしても、有言性が失われてしまう。それでは生存者に邪神としてしか認識されず、畏怖以上に復讐心を育てかねない。それでは「妹を召喚されて怒ってんだぞ!」とアピールしているのが仇になりかねない。
怒らせたら怖いけど、話はちゃんと通じる奴だと認識してもらわなければ困っちゃうのである。
「聞け。リーイースの民よ。此度の罪科はこれにて許そう。しかし……我と、我に近しき者が再び召喚されし時は、魔族よりも恐ろしきものを敵にすると知れ。その時は……エルヴィアスより召喚者の同種全てを抹消する」
(そんな馬鹿、いないといいなぁ)
最後に、剣は光の巨人(光属性魔法で巨人に見えるだけ。実体はなく、太刀は念動魔法で操っている)に太刀を城の跡地に突き立てさせた。本来そこにあった城よりも、高さが二倍(100メートルぐらい)もある太刀である。
今は畏怖の対象であり、悪夢の顕現であろうが、将来的には異国からの観光客が見物にくる記念碑的な存在となることだろう。造った本人からすれば、即興で造った出来の悪いオブジェでしかないだろうが……
「さて……残り三本の聖剣は、次の機会にすっか。帰ろ」
〝石〟〝陽〟〝陰〟の聖剣は、所持者の騎士が王都近郊から離れた場所での任に就いている為、今回は回収が為せなかったのであった。
この後、この事件は「リーイースの落日」として各国に知れ渡り、世界的大混乱を引き起こす事になるのだが……剣なとってはどうでもいい事であった。
うん。やり過ぎたし殺り過ぎた!
お城両断ソードは、これより数年後には観光のシンボルマークに……なるかもしれない。
さ~て、剣さんは研究施設で何を手に入れたのかな?次回サブタイトルは【復活】です。




