138話目 開門
殺伐としたお話しは、当分ありません。
「そう!私は……神!全知全能ではないが、極めて多くの知を有し、とっても有能な女神様なのである!剣ちゃんに実鳥ちゃんを起こすようにアドバイスしたのも、このワ・タ・シ!グッジョブ、ワ・タ・シ!」
なんて露骨な自画自賛か。女神様は、絶好調である!
「神……様?一体何を……」
室内を怪訝な表情でキョロキョロと見回す実鳥であったが……姉妹の誰も視線を反らせて合わせてくれない……その「答えたくありません!」みたいな、苦笑いしている表情から、誰もが、明らかに空気を読んでいない、南国リゾートを満喫しているファッションの、ヴィヴィッドピンク髪な美少女を、神だと認めているのだと……察した。
「か……神様が、どうしてこんなところに……?」
神様に選ばれた血統である勇者だった実鳥ちゃんは、神自体の存在は疑うことなく受け入れられた。寧ろ、恐縮してすらいる。勇者の血を後世に遺せなかった事で、お叱りを受けても仕方ないと思っていたりもして。
「あ、違うからね?私はエルヴィアスを管轄している二柱のどっちでもないから!気紛れに何者にも縛られずに、自由に諸世漫遊するのが趣味なだけの女神だからさ!ここには、お友達の剣ちゃんの願いを叶えてあげにきただけなのさ!」
きゅるるん!……と、ファンシープリティな擬音を響かせながら、大仰な身振り手振りを交えて、存在感をアピールする女神に、実鳥は目を点にするばかりである……
「女神様!見事なパファーマンスなのであります!」
そんな女神に、恭しく跪く桜。
「ど、どうしちゃったの桜ちゃん!?」
「ボクは……女神様の騎士になると心に誓ったのであります!」
「本当にどうしてそうなったの!?」
実鳥が眠っていたのは、結果的には、ほんの十数時間だけだったのだが、その間に……状況は目まぐるしく変化していたのであった。
しばし、召喚されてから目覚めるまでの情報説明を受け……実鳥は、目眩を覚えるほど頭をクラクラさせたのであった……
「わ、私が引きこもりしている間に……分裂していた聖剣さんと剣さんの魂が融合?翼さんと希さんと桜ちゃんも転生してる?リーイースの最高戦力を壊滅させて王様を拉致?王都で同時多発テロ?そして女神様降臨?……うん、流石に理解が追い付きません……」
「そりゃそうだよね……私も、実鳥義姉さんが勇者だって聞かされてもリアリティ感じないし……ガルミアさんを娘と認識しちゃってる事にも違和感しかないし……ねぇ?実鳥義姉さんの記憶って……今、どうなってるの?」
心配そうに訊ねる小町。前世の記憶が実鳥の人格に悪影響を与えていないか、本気で心配しているのだった。
「えっと……〝思い出した〟って言葉にするのがしっくりくるかな?ヴェルティエとしても、実鳥としても、ちゃんと自分なんだって自覚はあるし……どっちも〝私〟だよ。どっちかに人格が偏ってたりは……してないと思うよ」
「そっか……ほっとしたよ~」
少なくとも、実鳥の人格と記憶がヴェルティエに上書きされた訳ではなさそうな答えに、小町は胸を撫で下ろした。
すると今度は、桜が瞳をキラキラさせて質問した!
「実鳥たま!前世の記憶を取り戻されたのでしたら……魔法は使えるのでありますか!?」
「え……ど、どうなんだろ?……魔法の使い方も思い出したけど……試してみるね……火は、危ないから水で……」
これで魔法が使えたら、リアル魔法少女である!しかも、義妹がである!桜のテンションが爆騰がりなのは、必然にして当然にして天然であった!
実鳥は座ったまま、両の掌を重ね、精神を集中させ始めた。すると……
ぽちゃっ。
一滴の雫が虚空から掌に落ち、一円玉サイズの面積と厚みの水が、そこにはあった。
「……っはぁ!……出来た、けど……これが限界だよぉ……地球人の身体って、魔力運用に向いてないんじゃ……とても、疲れた……」
実鳥は額に汗を浮かべ、肩を上下する程に呼吸を乱した。しかし、魔法自体は確かに成功していたので……
「ひゃふぅ~!爆誕!魔法少女爆誕なのでありますぅ~!」
「実鳥義姉さんが、超人化してしまった……」
転げ回って歓喜を表現する桜と、遠い目をして黄昏る小町。とても対称的な反応であった。
「あら?……これって、どうゆうことなのかしら?」
その時、それまで微笑ましそうに姉妹達のやり取りを見守っていた光が、感じた違和感を口にした。
「剣は……とんでもない威力の魔法を乱発していたわよ?地球人の身体に問題があるのなら、そんなの無理なんじゃないのかしら?」
こっちの世界の人達、それも一国のトップに番付されるであろう魔法使いや騎士達を、圧倒的な威力の魔法で殲滅してしまった剣の姿を思い出し、光の頭に?が浮かぶ。剣は間違いなく、同じ母親から産まれたのにと……
「それは~、おに~ちゃんが、ちっちゃな頃から毎日魔法を使って反復練習してたからだよ~」
「チートに見えて、コツコツ経験値を稼いでいたからなんだよね~」
解説は、剣の秘密を知ってた双子。剣が魔法とゆう天賦の才を持ちながら、慢心せずに弛まぬ努力を続けていたのを、それを自分達を含めた家族を守る為にしていたのを知っていたからこそ、双子はお調子者でありながら、剣を評価し、お兄ちゃん大好きなのである!
「……そっか、練習すれば、もっと使えるように……」
「実鳥義姉さん……何、考えてるのかな?」
「え?使えれば、皆の役に立つ……小町ちゃん怖い!目が怖いよ!?」
細めたジト目で実鳥を睨む小町。身体もユラユラ揺らしていて、生気の無い幽鬼のようである……と、ゆうか、とても怒っていらっしゃる!
「そんな特別な力なんて必要ないから!実鳥義姉さんは、しばらく頑張らなくていいから!もっと……人の為より、自分を優先して!世界を救って、沢山の人を守って……なのに、全然報われてないじゃない……少しは、楽をしてよ」
小町は本気で、常日頃から他者を優先しがちな実鳥を心配していたのである。それが性分なのだとしても、それで一度本当に身を滅ぼしていながら、まだ、誰かの為に尽くそうとする姿勢を変えない実鳥に対して憤慨してしまったのであった。
……これ以上身内に常識から外れてほしくない……そんな想いも多分に含まれているが。
「小町ちゃん……ごめんね、それと……ありがと」
実鳥も、小町が自分を心配してくれているからこそ怒ったのだと判ったから、素直に詫びて、感謝した。
(こっそり、ほどほどにしとこう……)
理解はしても、そう簡単に自分を変えられはしない。実鳥は、魔法の練習をこそこそやることに決めたのであった。
「……まぁ、今更実鳥ちゃんが魔法を練習しようが、どっちらけなんだけどね~。現実問題……小町ちゃんと燕ちゃん以外は、魔法やら特殊技能が使えるようになってるからね~」
「「「「「「「……なんだってぇ~!!??」」」」」」」
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
女神様の爆弾ぶっちゃけに、そりゃもう吃驚仰天な姉妹達。すやすやお休み中だった剣と遥も驚いて目を覚ます程の、張り裂けんばかりの大声であった。
「そんなに驚くこと?異世界召喚の特典でチートスキルが貰えるなんて、今や常識でしょう?いや、剣ちゃんとか実鳥ちゃんとか、召喚されるに足る天性の才能の持ち主は兎も角、異世界で生き抜く術がなかったら困るかな~?って思ってね!……ま、私もまさか全員で巻き込まれて、最悪レベルのスタート地点に召喚されちゃうとは思ってなかったさ~。ちゃんと良ゲースタートだったら、冒険者ギルドとかで技能鑑定とかして調べられたんだけどね~」
つらつらと、女神のネタバレぶちかましが止まらない!技能を付与してくれる神様に、第三者による異世界召喚を条件として技能を付与するように申請書を提出していたとか……その技能が姉妹それぞれの特技を強化したり、趣味を補助したりとか……女神の思い付きで趣味的な技能を強制付与させていたりとか……
そんな楽しそうな説明が続く中、小町が「異議あり!」と挙手したのであった。
「あの……どーして私と燕には、そうゆう特殊技能を付与しなかったんてすか?いえ、別に欲しかった訳じゃないんですけど!」
姉達が、生温かな目で小町を見つめている……「欲しかったんだね~……」と。
「あ~それね!燕ちゃんはね~……説明出来ません!禁則事項です!燕ちゃんは、そ~ゆ~生き物なんだって納得してください!小町ちゃんはね……下手に技能を付与すると、むしろ可能性を狭めちゃうかと思ったんだよ~」
「いや……どっちも訳が解りません」
「燕ちゃんに関しては、本当ゴメン!私のような低級神には口にするのも憚る……ので、小町ちゃんの方はね~スキルスロットの空きが……」
小町も現代っ子。スキルスロット、その単語の持つ意味は説明されなくても解る。より優れ、強大なスキルであるほど、付与するにはスキルスロットが必要になるのだと。その空きが無くなれば、スキルが付与出来なくなる……つまり、意味する処は……
「私……スキルを付与してもらえる程、スロットに空きが無いって、事ですか?元々、役に立たないスキルで埋め尽くされてた?」
「いえ、スロットは完全に空欄です。そして空欄は他人の万倍は余裕であります。つまり……大袈裟な話、実鳥ちゃんの勇者関連スキルの全てをコピーして付与しちゃっても、まだ若干の余裕が残るぐらいだよ!いやはや……こんだけ付け放題だと、逆に何を付与していいか迷うよね!」
つまり、これから覚えるスキル次第で、剣や実鳥以上のチートキャラになれる可能性を秘めている……そう、小町は可能性チートキャラなのだ!
「それって……凄そうに聞こえるけど、スキルって……実際どう覚えるのよ……?スロットが完全に空欄なんでしょ?十二年も生きて空欄なんだから、普通の生活していて覚えられるとは思えないんですけど?」
「それはまぁ……努力かな?普通は先天的にレベルゼロの状態で幾つかのスキルを持ってるものなんだけど……実鳥ちゃんはそれすら無いからね~。ま、地球で生きる限りはスキルなんて調べようもないから問題なし!肉体のステータスは平均より上だしね!」
説明を補足すると、スキルは魂に刻まれる情報であり、肉体の能力は遺伝子情報に依存する。前世で使用可能だったスキルであっても、転生した肉体と相性が悪いとスキルレベルが弱体化したり、使用不能になったりもする。先程、実鳥の魔法がチョロかったのは、ブランクがあったのと、そういった理由だったのである。
「それはそうと……そろそろ私が呼ばれた本題を済ませないとね!それじゃ、げ~と・お~ぷ~ん!」
女神が両手を掲げ、気の抜けた掛け声をあげると、彼女の間近の空間がグニュグニュと歪んで……そこには聖家屋上の景色が広がっていた。
すると、姉妹達のモバイルが一斉にバイブした。どうやら、地球と距離的に繋がったことにより、電波も繋がったようである。
「あ♪明良くんからのメール!……お父さんからのメールと留守電がこんなに……」
光が心配性な父親にげんなりしつつ、他の姉妹達も友人からのメールを見て日常の有り難みを噛み締め、これで家に帰れると安心する中……ガルミアは寂しそうにしながら、微笑を浮かべていた。
「ママ……えっと、何て言ったらいいか……解らないや」
「ガルミア……私……も」
再会も間もなく、再びの別れを前に、母子が抱き締めあって別れを惜しむ中、唐突に、抑揚の無い声が響いた。
「あの……俺、地球に帰してくれなんて……お願いした覚えが無いんですけど?」
「あれ?そうだっけ?」
地球へのゲートが閉じられた。
開門して……すぐ閉じた。サブタイトル詐欺はしてないよ!
以前の特別編での回答、小町はいじりたくない子で、その理由を公開しました。何故スキルを一つも所持しておらず、膨大な空きスロットが在るのかは……また、別の機会に!
次回サブタイトルは【始末】
剣は本当に……空気を読まない奴。




