132話目 激戦
バトル開始!
不敵に笑う剣に、ガルザートは少しばかり思案するかのように、顎に手を当てながら悩み顔を浮かべた。
「ふむ……其方等、宿主の姉に義兄、それに義娘と外見が一致するな。まあ、精神体であるが故、外見など幾らでも誤魔化しが効きはするが……何にせよ侵入者。余の役割は、その排除。少々興味は沸いたが……それも、些末であるな」
ガルザートは剣を肩口から水平に持ち上げると、無造作に、一気に右から左へと振り払った。
ガルザートにとっては必殺技どころか、剣術の鍛練として行う素振りにも値しない〝ただ剣を振っただけ〟の動作だ。しかし、それは敵対する者にとっては……真空の衝撃波が地面を割いて、高速の散弾と化した岩石や泥の塊を撒き散らす、殺傷力抜群な暴威的広範囲攻撃に他ならない!
「小手調べにしちゃ……殺意、溢れすぎだろ!」
剣は背中にガルミアと遥を庇うと、自身の両手に一本ずつ、更に前面に二本の聖剣を配置した。そして、前面に配置した二本の聖剣を高速回転させ即席の円盾として礫を弾き返し、それでも防ぎきれずに迫る土砂の弾丸は、二刀を以て、戦闘の素人ではないガルミアの目でも視認不能な、音速を越える剣閃を嵐のように繰り出し、防いで、弾いて、斬り裂き、甲高い衝撃音が鳴り響く中、一筋の掠り傷すら負わずに……全弾撃墜してみせた。
「……かーっ!初っ端から手加減抜きだな魔王様よ!ったく、オリジナル同様のラスボス感だな!お陰で全然油断する暇がねーよ!」
剣は背後で呆然としているガルミアに、踵で地を鳴らし合図を送ると、ガルミアは直ぐに正気を取り戻し、遥を抱えて脇目を振らずに走り出した。
もう、間違えようもない……その場に残っても足手まといにしかならない。恥も外聞も悔しさもなく、それ以上にガルミアは、今自分がやらなければならない事に必死に徹した。遥を高濃度魔力の影響を受けない場所へと運び、剣が時間稼ぎをしている間に、遥と二人でヴェルティエの自意識を探し出す。その決意を胸に、ガルミアは足を動かした。
「小娘二人……捨て置く訳にも……」
「っとお!追わせねえよ!」
一瞬、ガルザートが視線を反らした瞬間に、剣はガルザートの懐まで間合いを詰めていた。
「なんだと!?」
その驚異的なスピードに、ガルザートは思わず目を見開いて、剣が振り抜いた二刀十字の斬撃を剣の腹で受け止めた。その衝撃を利用して飛び退き、宙返りしながら体勢を整え着地体勢をとる間に、ガルミアの姿は既に彼方へ逃れていた。
「よもや……防ぎきるだけでなく、即座に反撃に転じるとは……貴様、何者だ?宿主の記憶に存在する貴様は、確かに地球人とやらの平均を大きく上回ってはいるようだが……正直、不可解にも程がある。それに、何故、余を魔王と呼ぶ?余は……エルヴィアスの人族にすら、姿を見せてはいない筈だが?」
「……こっちとしても不思議だよ。ヴェルティエの記憶から創られたにしちゃ、それなりに自由意思があるように感じるしな。俺が何者かってのは……これが、答えだ!」
剣は両手の剣を投げ飛ばすと、残りの二本も共に宙を舞わせ、ガルザートへ突撃させた。当然打ち払おうとするガルザートであったが、四本の剣はガルザートの防御に反応して空中に停止、或は不規則な軌道に変化し、ガルザートの挙動を牽制する。
「くっ!?風……重力……磁力でもない、この力……たった一度、しかし忘れようもない……余に敗北を与えし、あの力!?そうか……くくく……こんな事が起きようとはな!ならば、余を知っているも道理!同じ手で、二度は敗けてやらぬぞ!リビングソードぉ!!」
「どんだけ理解が速いんだよ!もっと動揺しやがれコピー魔王がぁ!」
遠隔操作された、四本の剣による苛烈な連続攻撃に対し、ガルザートは自身を包む球状の斥力場を発生させた。すると、四本の剣は見えない壁に阻まれたかのように、斥力場に接触した傍から勢いよく弾き返されてしまう……
「堅いな……だったら、これでどうだ!」
弾き返された剣を一本、宙で掴み取ると両手持ちに構え、背中にまで振りかぶって、ガルザートへと袈裟懸けに一閃!剣は力場の反発力を越える一撃をもって、ダメージを与えようとしたのである。
「させぬわ!」
それに対し、ガルザートは斥力場を解除し、下段の構えから魔王の剣を振り上げ、迎撃の体勢をとる!
衝突する聖剣と魔王の剣。
戦闘が開始してから、初の、互いに渾身の力を込めての物理攻撃の交差は……ガルザートに軍配が上がった。
「ぐっ、あああぁぁ~!!」
剣が握っていた聖剣がバラバラに砕け散り、剣は上空へと吹っ飛ばされた。対する魔王の剣には、ほんの刃零れ一つ。元々〝無銘の聖剣〟以上の強度を誇る魔王の剣を相手に、劣化版の聖剣では敵うべくもないどころか、一度の全力衝突に耐える事すら出来なかったのだった。
「っ!くそっ!」
剣は吹き飛ばされるまま、残りの三本を操り空中に横並びに滞空させると、それを足場に着地した。
「もうちっとは耐えられると思ってたんだが……どうやらヴェルティエの奴、魔王の剣に性能以上のいいねを付けていやがるな。本物よりも頑丈になってんだろ……」
激しく言葉のブーメランである。剣が創った魔王の剣の方が、更に頑丈で切れ味も鋭かったりするのだ。自分で使う気がなかったので、完全に失念しているそそっかしさが、とても剣っぽくもある。
「かなり応用の効く術のようだな。だが、見下ろされてるようで気に食わん!」
ガルザートの掌から連続して放たれた炎弾が上空の剣を襲う。一発一発が一瞬で肉を黒焦げにする致死の熱量。当然、これは実際に炎が発生している訳ではない。この精神世界内では、外部から侵入した異物である剣達とその行動以外の全てが、突き詰めればヴェルティエと実鳥の記憶からの再現と想像だ。だからこそ、物質的なダメージこそ発生しはしないが、精神世界内に存在する限りに於いて、イメージがリアルであればあるほど、異物側の精神へとダイレクトに伝達される。
つまり、炎弾が直撃すれば、剣の感覚が勝手に〝死ぬほど熱くて痛い〟と錯覚してしまうのだ。人は、下手をすると〝死ぬ〟と思い込むだけでも、精神的ショックだけでも死んでしまうことだって有り得るのだ。それほどに、精神世界内でのダメージは危険なのである。
だからこそ、剣は現実でないからと、侮ったりはしない!全力で回避する!
「な……なんだソレは!?」
ガルザートにとっても、あまりに予想外の回避方法。剣は足場にした三本の剣を横並びに連結させたまま、サーフボードのようにして滑空を始めたのである。
「ソード・ライディング!エルヴィアスじゃ、こんな発想する馬鹿はいなかったよな!?」
自由自在に空を駆け、風を引き裂き飛ぶソードボード。炎弾の合間を縫い、宙に不規則な放物線を描く。
「なんと……剣を足場にするに留まらず、乗騎にするだと?発想がどうと言う問題ではない……貴様以外、誰にそれが出来ると言うのだ……?」
魔王様、戦闘中であるのに、肩から力が抜け落ちる。あまりに予想外。そして意味の無さに、呆れてしまったのであった。
「貴様……普通に、飛べるのではないか?」
そう、普通に飛んで回避すればいい話なのである。三本の剣は念動魔法(イメージ再現)によって制御されているので、直接身体を飛ばしても、スピードに違いは生じないのだ。
「……だから何だ!ボードで空を飛ぶのは……ロマンなんだよ!」
「……訳が分からぬ」
「くぅ……魔王のキャラ設定が作り込まれてやがる……」
空飛ぶボードのロマンが理解されず、剣は心底悔しそうに舌打ちすると、ガルザート目掛けて急降下し、ソードボードを加速させた。
「くらえ!ボード・ダイブ・クラーッシュ!」
「ぬうっ!?」
ガルザートに激突する寸前、剣はボードを蹴って飛び退き、靴底で地面を削りながら、砂塵を巻き上げて着地した。
念動魔法によって束ねられた三本の剣は、落下による加速で重量を増し、ガルザートを貫かんと突撃した。
「ぐぬっ!成る程……意味が無い訳でも、なかったよう……だが!」
剣で受け止めたガルザートであったが、あまりの衝撃に膝を折った。しかし、そこまでであった。
「詰めが、甘かったようだな?この程度では、余の首は取れぬぞ?」
「ちっ……楽させてくれねぇな……」
ソードボードは軌道を反らされ地面に突き刺さると、即座に薙ぎ払われて、三本とも叩き折られた。ガルザートの言う通り詰めが甘かった……のも当然。実鳥の身体を気遣うあまり、剣は今の技で本来使用を想定していた重力魔法を使えなかったのである。重力魔法が併用されていれば、重力・速度の増加によって威力が跳ね上がり、少なくともノーダメージは有り得なかったのだが。
「どうやら、娘達をみすみす逃してしまったようだな。奇抜な戦法に、踊らされてしまったようだな。だが……ここで余に倒されてしまっていた方が、幸せであったかも知れぬがな」
「何が言いたい?」
まるで、先に進んだガルミア達を慮り神妙な口振りで目を伏せたガルザートに、剣は訝し気に問い掛けた。
「……貴様は既に気付いていると思ったのだがな。この先に、宿主を護る守護者はおらぬ。余が、最後の番人であるのだとな。ここまで其方等が通過してきたのは、精神世界のほんの外周……侵入者を阻むが為の防壁に過ぎぬ部分でしかなかったのだ。この先では、宿主の記憶と感情に直接触れ、追体験する事にもなろう……果して、あの娘達の精神が耐えられるか……」
それは、ヴェルティエの凄惨な死の間際や、実鳥が幼少時に実父の暴力に抗う術なく耐えていた際の感情を、本人の視点で体験する事に他ならない。
「……随分と、優しいじゃないか魔王様よ?」
「なに、役目を果たしきれなかった負け惜しみよ。だが、貴様だけは通さぬぞリビングソードよ。永劫の時を生きる貴様の精神力であれば、宿主の心奥に到達するは必定。それだけは、看過するわけにいかぬよ」
「それは……違うぞ」
ガルザートの口振りが気に障ったのか、剣が眉を若干吊り上げた。
「俺はもう、この先に進む必要なんて感じていない。アンタが二人を追い掛けないよう、ここで足止めする役目を果たすだけでいいんだ。あまり、ヴェルティエの義娘と実鳥の姉を侮ってるんじゃねぇよ。俺は、二人が必ず引きこもり娘を起こしてくれるって信じてるぜ?」
「そうか……それは失言であったな。そうであれば、余も役目に徹するべきであろうな。其方を速やかに排除し、残る二人も必滅あるのみ。仕切り直しとしようぞリビングソード……いや、宿主の義兄、聖剣よ!」
戦闘開始以来、ガルザートが初めて大剣を両手持ちにして突撃した。対する剣は、打ち砕かれた四本の聖剣を自身の周囲に再構成し展開。そして……
「ああ!出し惜しみは……しないぜ!」
その手に、新たに生み出した剣は……
〝無銘の聖剣〟であった。
ゆったり様へ
ライ○ーソードじゃないけど、武器合体やってみました。どうでしょうか?
で……それに付随するネタ
空飛ぶボード=エウ○カとか
剣にライドして突撃=ス○ロボOGのバニシングトルーパーマークⅢの近接戦モジュール装備の必殺技
……等でした。
そして、バトル全開中ではありますが、次回はガルミア・遥サイドの話をやります。
サブタイトルは【心奥】です。




