↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/241

131話目 魔王

サブタイトルの方、登場。

剣達が実鳥の精神世界に進入して一時間。剣と遥とガルミアの身体は生命維持の為に呼吸をするのみで、ヒナに手を置いたままの姿勢で、眠っているかのように目を閉じている。


外部からの強い物理的衝撃を与え、意識を現実に向けさせると強制的に精神世界から排出されてしまう為、誰もが静かに見守り、無事を祈る事しか出来ずにいた。


「けっこう時間経ったけど……兄さ……遥義姉さん達、大丈夫なのかな……?」


ポツリと不安を呟いてしまった小町に、待ってましたとばかりに、女神である筈の悪魔が空かさず茶化しに入る!


「おやおや~?わざわざ言い直すなんて、小町ちゃんは本当にお兄ちゃん大好きなツンデレちゃんだな~。そ~ゆ~素直になれない照れ屋さんなトコ、しゅんごいカ・ワ・ユ・ス!」


「て……照れてなんてないです!別に、兄さんなんて心配してませんから!」


「だよね~。心配する必要なんてないぐらい信頼してるんだもんね~。こんな妹がいて、剣ちゃんは本当に幸せ者だな~」


ほっぺやお腹をツンツンプニプニされながら、ムスッと赤面しながら耐える小町。本当は激しく反論したいのだが……女神から漂う甘い芳香に気を散らされ、その上、既に女神の魅力に骨抜きにされている犠牲者()の憐れな姿を見ているので……じっと無心で耐えるのが最善だと判断したのである。


殆ど意味が無いとも言える抵抗であるが。


「小町まで餌食にされた……」


「本物の神の前では、我々は矮小な虫ケラに過ぎない……」


抗えない上位存在に対して、双子は既に無抵抗を決め込んでいる。どう思考を繰り返しても、自分達のペースに巻き込めないので、小町が遊ばれているのを死んだ魚類の目で諦め眺めるばかりであった。


「ま……小町ちゃんが心配してるかどうかは兎も角、剣ちゃんは相当苦戦しているだろうね~。なんせ、放出系の攻撃魔法が何にも使えないからね~」


人の気など知らず、姉妹達を不安にさせるぶっちゃけを漏らす女神。皆が、ゾッとした表情を浮かべる中、長女が代表して女神に質問したのであった。


「魔法が使えないとゆうのは……何故でしょうか?」


「まぁ簡単な理屈なんだけどね、今、剣ちゃん達は実鳥ちゃんの意識の中……つまりは魂の中に入っている訳なのは判るよね?」


「……えぇ、そうなりますよね」


「でね、魂ってのは、生きてる限り原則的に身体の中に在る訳なんだよ。さて問題です。人間の体内で剣ちゃんのガチ魔法が発動したら……どうなるでしょう!?」


その瞬間、質問していた光は勿論、知識の乏しい燕以外の全員が「この女神……なんて恐ろしい想像させんのよ!」と、冷や汗鳥肌、ガクガクブルブルに戦慄した。


「仮に、剣ちゃんが魔法で炎を放ったら……」


「言わないでいいです!なんて恐ろしい……」


そんな事になったら、実鳥は体内から炭化してしまうだろう。それどころか、一瞬でこの室内どころか屋敷全体を巻き込む大惨事になる。確実に。


「剣ちゃんはイメージだけで魔法を発動しちゃえるからね~。そこんところは本人も解ってるから危険な魔法は使わないだろうけど……普段通りの戦い方が通用しないのは面倒だと思うんだ~」


精神世界内ではイメージ次第で何でも創りだせる。しかし、普段からイメージだけで、感覚的に魔力を流すだけで魔法を使えている剣は、イメージで()()()()()を発現させてしまう怖れがあるのだ。剣自身、実際に実鳥の精神世界に入るまで推測に過ぎなかったのだが……怖れが払拭されない以上、実鳥の身体を傷付ける手段を選べる筈もなかった。


「でも……身体強化?なら、イメージだけでも再現可能なんですよね?正直、それが出来れば問題ないのでは……?」


「ん~……実鳥ちゃんのイメージ力次第かな?ヴェルちゃんの記憶から()を再現しちゃったら……詰むかも。ま、それでも可能性はゼロじゃあないし、人の子に試練を与えるのが神様ってもんだし!剣ちゃん……また一つ成長して帰って来ることを信じているよ!」


「無理矢理美談っぽくしないで下さい!」




一方その頃、暗闇へと踏み込んだ三人は……


「うわ……聖剣さん強すぎ……ってか速すぎ……」


「本人の素早さに加えて、四本のソードビットが縦横無尽に攻防一体……魔獣って、地球の肉食獣より狂暴に見えんのになぁ……パワーバランスどうかしてるって」


フィールドがヴェルティエの記憶に在る様々な地形へと移り変わる度に、その場その場で生息している最強クラスの魔獣が三人の行く手を阻みにエンカウントするのだが、その尽くを剣はアッサリと殴って蹴って、イメージから創造した四本の聖剣を遠隔操作して細々と切り刻んで殲滅していった。今も身の丈3メートルを越える大猿が四肢をもがれた挙げ句、脳天を踵落としで打ち砕かれた直後である。


ここに現れる魔獣はヴェルティエの記憶から、無意識的に創られた進入物に対する自浄作用、いわば白血球のような存在である。なので、倒してしまっても宿主の記憶に影響はなく、その自意識に感知されたりすることもない。なので、剣は遠慮なく新たな戦闘スタイルの、読んで字の如く、イメージトレーニングをしているのであった。


「ふう……現実の魔獣と大差ない力と動きだから問題ないが……」


エンカウント数が多すぎると剣は思った。剣だからこそ苦戦せずに撃退せしめているが、普通のなら、ベテランハンターの戦士や魔法使いが数人がかりで綿密な作戦を立てて仕止めるような獲物である。それが既に、十頭を越えていた。それだけ、この精神世界が侵入者を許さず、実鳥の心が他者の介入を拒んでいる証の表れかと思えたのであった。


「全然私の出番がない……もっとワラワラと、大群で攻めてくれば、必殺の薙ぎ払いでバッサバッサと吹っ飛ばすのに」


「過激な事を……ま、アタシの勝手な予想なんだけどさ、実鳥の性格的な問題じゃねぇかな?数の暴力とか趣味じゃねぇと思うし、無意識の産物でも犠牲前提とか思いもしないだろうしな」


それを聞き、実鳥とヴェルティエ双方の性格を知る剣は、得心がいった。ヴェルティエと共に戦う仲間は一人もいなかったし、実鳥の記憶には頼りになる姉妹達はいるものの、魔獣よりも強力なイメージを付加する事は困難であるし、何よりも大切な姉妹達を自分を守らせる為に戦わせるだなんて、無意識下でも、そんな無責任な他力本願を願ったりはしないだろうと思ったのである。


「こんなに中ボスクラスが多いのも、王国の連中……ネウグルのジジイに対しての防衛本能からなのかもしれないな……誰が入って来たかなんて知る訳ないから、そりゃ攻略難易度高いダンジョンみたいになる訳だ」


「……剣の所為で、全然そんな実感ねぇんだけど?」


「いや、ハルカ。聖剣さんがいなくて、現実だったらと考えると……私なら一体倒すのに半日……休養含めて丸一日使うから。聖剣さんがどうかしてるだけだから」


そう、剣みたいな規格外が入って来るのが想定外なだけなのである。もし、ネウグル達が精神世界に進入して来たとしても、簡単には対処し得ない魔獣のオンパレードだったのだ。例えば炎弾を吐き出す翼長10メートルはある飛竜。刃のように鋭い硬質の葉を嵐の如く撒き散らす、屋久杉みたいに巨大な魔樹木(トレント)とか。5メートルサイズの黒光りする、六本節足の名状したくないアイツとか。ちゃんと料理したら肉厚で美味しいけれど、岩を軽々と砕き斬っちゃう鋏と鋼の剣を跳ね返す甲羅を持つ南洋皇帝蟹とか。一癖も二癖もある、危険度マックスな魔獣が守護者よろしく立ちはだかったのだ。どいつもこいつも、エルヴィアス最高ランクの冒険者でなければ討伐以来を受注が許可されず、狩猟不可能と言われる最強の魔獣達だったのである。


「へえ……こいつらのどれかでも、一人で倒した事があるのか?大したもんじゃないかガルミア」


「それほどでも……聖剣さんに褒められるとは、なんともむず痒い……照れ臭い……」


ガルミアにしてみれば〝無銘の聖剣〟である剣は、存在だけ知らされていた祖父みたいな存在である。戦闘で軽くあしらわれたり、駄目出しされていたりしたので、含みなく称賛されるとは思っておらず……それでも嬉しくて、照れ笑いを浮かべたのだった。少女の外見で。


「……剣、ガルミアが可愛すぎてヤバイと思う」


「……このまま連れてけば、ヴェルティエが正気に戻るんじゃないかなぁ。現実に戻ったら……変わり過ぎててショックを受けるかも」


残酷なりし、時の流れ。


「さて、ここの敵も倒したし……此処までのパターンだとフィールドが代わる頃合いか」


そう言ったのも束の間、テレビのシーンが切り替わるように景色が変遷した。


「うっ!?……何だ……ここ、身体が……?」


突然、遥が膝をついた。表情も青くなり、容態が急変したように。


「ぐ?……この場所は、成る程、()()か」


そこは、見忘れようなど無い。この景色の彼方にそびえるは……生涯最強の敵であった者の、居城である。この地は、前世の剣がヴェルティエ共に戦った最後の戦場となった荒野である。


「ここは……!不味いぞ聖剣さん!この場所が再現されているなら、聖剣さんとハルカの身体が保たない!」


現実世界のこの場所には、天然の魔力が満ち溢れている。普通の人族であれば、数分で行動不能になる程身体に異常をきたし、間もなく死に至るような……それすらも、実鳥の精神世界で再現されていたのだった。


「これ……王国勢がここまで辿り着くだけで詰むじゃねぇか……最悪、俺達はヒナが引き戻してくれっけど……」


剣は身体強化魔法によって抵抗力を高めているが、それは勇者に次ぐ膨大な魔力を有しているがである。ネウグルのような高位の魔法使いであっても、同じことをして数分しか維持は出来ない。だからこそ、勇者を失ったエルヴィアスの人族には、未来に希望がないのである。


「う……く、苦しい……身体の中が……痛い……」


遥の身体が軋みを上げる。当然、精神世界であるので本当に魔力濃度が高い訳ではないのだが、ヴェルティエの記憶を正しく再現しているこの場所では、それがリアルなイメージとして、侵入者に伝わってしまうのであった。


「くっ……こうなったら、ここの敵を倒す前に、他の場所へ移動するポイントがないか探さないと……」


「何か……特別な場所でしょうか?なら……この剣が在った場所に!私も、ママからそこに送られたから!」


「確かに……それ以上目印になる場所は……!?マジかよ……ガルミア、遥を連れて……先に行ってくれ」


行く先が定まった。しかし、それを阻むように力強く響く足音。吹き荒ぶ砂塵に漆黒の外套をはためかせ、威風堂々と向かってくる一人の魔族。その右手に握られているのは――


魔王の、剣。


「……ここに辿り着くとは大した者共だ。だが、この先には行かさぬよ」


まだ、五十歩は距離がある先からも届く、自身に満ちている澱みの無い声。それもその筈、彼は、間違いなくエルヴィアス最強の魔王……ガルザートなのだから。


「……そうだよな。そりゃ、この場所で……貴方より弱い奴が出てくる道理は無いよな。久し振り……会いたくなくて、必死に考えないようにしてたよ……魔王様」


魔王と、魔王殺し。再現された精神体と、人に生まれ変わった聖剣。時と世界を越えて、再び因縁が交差したのであった。


非常に危険な状況でありながら、剣はこの奇縁に、思わず薄ら笑いを浮かべたのであった。


「へへ……勝ち目があるとは思えないんだが……あの頃とは俺も違うんでね。全力で……足掻いてやる!」


宙を漂う四本の聖剣が切っ先をガルザートに向け、飛翔した。




最後にちょこっとの登場でした……

次回はガチバトルします!

サブタイトルは【激戦】……安直。

黒光りの鳴き声は……やっぱり、じょ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。