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130話目 迷宮

ブクマが剥がされた……

今後、ブクマについては言及しない!

「そういや……今更な疑問なんだけどさ、アタシ達って今、精神だけの状態なんだよな?」


近所の街並みそっくりな道を歩きながら、遥が唐突に疑問を口にした。


「なのに、普通に身体を動かしているような感覚は有るし、二人の姿も現実と変わらないように見えるんだけど……どうなってんの?」


遥の目には、剣とガルミアの姿は、実鳥の精神世界に入る前と変わらぬ姿で写っていた。自身の服装も同様である。


「ああ、それは俺が念話魔法でイメージを補強しているからな。念話なんて付いてるけど、正しくはイメージを伝達させる魔法なんでな、視覚情報もそれに含まれているんだ。だから……例えばこんなことも可能だ」


剣がサッと腕を翳すと、何処からともなく、先日奪取したばかりの四本の聖剣が現れ、さながらファ○ネルのように剣の周囲を漂い始めた。


「精神世界じゃ、何よりも精神力と想像力が物を言うからな。他者の心の中じゃあ何をするにもイメージ力がなければ話にならない。イメージしなけりゃ、こうして仮初めの身体さえ形を保てない。だが、明確なイメージが出来れば何でも創造可能だ。見ての通りな」


剣は四本の聖剣を、重力を無視するかのような変幻自在の軌道を描いて飛翔させると、今度は突然消滅させて見せた。


「は~……ここじゃ何でもイメージ次第って事か?ヴァン○ードファイター最強かよ」


「概ね間違ってないが、実際の体験が伴わないイメージが現実で体験した記憶を上回るってのは難しいぞ。それに、イメージが力を持つってのはかなり危険なんだ。こん中じゃ……特に俺がな」


「それって……どういう意味だ?」


「俺、いっぺんリアルに死んでるからな。自分の死を強くイメージしちまったら、実際死にはしなくても、実鳥の精神世界内で自分を保てなくなるだろうな。強制退場って訳だ」


心が崩壊しかねない精神的ショックが生じた場合、精神中継器兼命綱となっているヒナによって強制脱出させられる手筈となっている。それだけの危険が、実鳥の精神世界に……正しくは、ヴェルティエの記憶に存在している事を、剣は知っているのである。


「イメージ……ていっ!……やっ!…………何でだ~!?聖剣さん!私の剣を出そうとしたのに、全然出る気配がないぞ~?」


剣を素振りするモーションでイメージを補強しつつ、愛用している大剣を創ろうとしたガルミアであったが、何故だか創れなかった。


「言ったろ?お前達の姿は俺が念話魔法で補強しているって。つまり、俺のイメージがお前のイメージを上書きしているんだ。俺より強いイメージで創造しないと、そう簡単に出せやしないさ」


そう言って、剣は易々と魔王の剣を亜空間から取り出すように創成し、ガルミアに投げ渡した。


「寸分違わな……いや、私の剣より、ずっと綺麗なんだが!?」


「当然だろっての。本来の持ち主が使ってた頃のコピーだからな。何年も墓標として雨風に晒されてりゃ、少しは劣化するってもんだ」


それに加えて、他のどんな物体よりも、その斬撃を剣はその身で受け止めている経験を有している。そう、打ち砕かれる寸前まで何度もだ。その経験は、現実の魔王の剣の能力を軽く凌駕するイメージを剣に与えていた。


「……まるで〝無限の剣○〟だな……無銘繋がりだし」


「遥さん、その突っ込みは今いりません……とゆうか、精神世界って固○結界以上の領域だからな。実鳥はここじゃあ、記憶と想像を材料に何だって創造出来ちまう。実鳥が本気で俺達を拒絶しようと思っちまったら……」


「いや、黙るな……不安になる」


「……正直、勝てる気がしない」


「……いやいや、何だよその自信の無さは!?言っちゃアレだが……お前こっちの世界じゃ英霊クラスだろ?」


「だからだよ……ヴェルティエは、マジもんの勇者。現実世界の俺と比べても、身体能力や技の威力は、軽く見積もって俺の一割増しはあるからなぁ……だから、説得するにも逆ギレされないように注意深くやる必要があるんだよ。……その為に連れて来たんだからな!頼むぞ実姉!義娘!」


「うわ……なんて爽やかな笑顔で丸投げ……ま、アタシだって実鳥を剣に任せっきりにするつもりじゃなかったからいいけどさ」


「私も、ママを助ける為に、惜しむ力は一切無いぞ!」


「ああ、なんとしても、俺は二人を実鳥に会わせてみせる。そこまでにある戦闘は、全部俺が受け持つ。……いきなり、ヴェルティエのコピーが沢山現れなければいいけどなぁ……」


いつになく、ネガティブな剣の様子に、ヴェルティエから聞かされていた聖剣さんとイメージがブレていて、ガルミアは困惑した様子で遥に訊ねた。


「聖剣さんは、何時もこうなのかハルカ?私を軽々と倒したにしては、自信が、なんだか……」


「いや、普段はもっと頼れる感じなんだが……女神さんにSAN値を削られたのが尾を引いてんのかもな?なんか、女神さんってメイド長と似た性格してるから他人事に思えねぇ」


普段、何事にも動じない、落ち着いた雰囲気を放つ剣が、女神にいいように翻弄されておちょくられている姿に、遥は少しばかり親近感を覚えていた。


「メイド長?……ハルカ達の家は、何人も使用人を雇える程に裕福なのだな!?そうか……転生後とはいえ、ママは、恵まれた暮らしをしているのだな……」


微とは言えない妙な勘違いをして、少し寂しそうに、それでも安堵したかのように頷くガルミア。まあ、聖家は確かに裕福であり、メイドを何人か雇える金銭的余裕も有るのだが……


「あ、あのなガルミア……変な誤解をさせたみたいだから説明すっけど、メイド長ってのはだな」


猫と美少女をこよなく愛する怪力無双、見た目ロリっ娘だけれどアラフォー美魔女な遥の雇い主である。そう、説明しようとした瞬間、それは突然起きた。


周囲の景色が、突然森林に変貌を遂げたのである。


「そう……容易いとは思ってなかったけどさ……」


聖家に到達するのを目前にして、前触れ無しのフィールド変化である。ダンジョンRPGであれば強制ワープトラップをさせられてようなものである。


「ここは……私がママと暮らしていた森?……ママ!」


感極まった様子で、剣と遥を置き去りにしてガルミアが勢いよく駆け出した。


「……あの馬鹿!勝手な行動するなと……追いかけるぞ遥!」


「お、おう!って……アタシが追い付ける訳……あるかー!」


遥は決して足が遅い訳ではない。むしろ女子高生の平均値よりは早いぐらいである。あるのだが……ガルミアと剣が速すぎるのである。遥は甚だ不本意であったが、剣に抱えられて運ばれるのであった……


一方、ガルミアに剣達を気にする余裕はなくなっていた。この森の景色は、ヴェルティエと過ごした頃のままで、ガルミアにとって人生で最も幸せだった頃を思い起こさせ……ヴェルティエが()()に居るのではないかと、焦る気持ちを抑えられなかったのであった。


そこは、ヴェルティエと寝食を共にし、世界の何処よりも温もりに包まれていた、小さな木造の小屋。ガルミアが記憶していた通りの場所に、その小屋は、確かに存在していた。


「……うぅ……あ、あぅぅ……」


その小屋を目にした瞬間、ガルミアは嗚咽を漏らした。想いを、気持ちを言葉に出来ず、地面に膝をついて泣き崩れた。


幼かったが故に、ガルミアは現実にあるこの森の場所を詳しくは知らず、未だ帰る事が叶わずにいた。その、思い焦がれた家が、当時の姿のままで目前に在った。ヴェルティエの記憶の中に……鮮明に。


それが嬉しくも、切なく、悲しく……二度と見ること叶わぬと思っていた情景を前に、ガルミアは感情を制御出来ず、泣くことしか出来なかった。


ここに至る迄の十余年に渡る時間。勇者であるヴェルティエの教育によって、如何に平均的な魔族の少女よりも優れた能力を持っていたガルミアにとっても、決して平坦な道のりではなかった。積もり積もった想いを発散するかのように泣き叫ぶガルミアは、いつしかその姿をヴェルティエと過ごしていた頃の少女の姿へと変貌させていた。


「あいつ……俺のイメージ補強を無効化するほど感情を爆発させやがった……まぁ、仕方ないか」


剣は太い幹の大木に隠れ、ガルミアの様子を見守っていた。勝手な行動をしたガルミアを叱りつけたくはあったのだが、少女(当時)の姿になってしまう程、万感の想いを発露させて涙を流して泣いているのを見て、流石に空気を読んで静かに様子を伺う事にしたのであった。


「……ま、泣いてるガキに怒鳴るとか、悪趣味にも程があるしな。それはアタシも同意だが……はよオロセ」


遥は剣に抱えられている。デフォルトでお姫様抱っこであった。




「う……ぐすっ、ごめん、二人とも……もう、大丈夫だから……」


遥に抱き締められる格好で慰められ、ガルミアはようやく泣き止んだ。その姿は現実の姿には戻らず、少女のままである。軽々と片手で肩に担いでいた大剣も、両手で持って、尚且つ地面に引き摺る羽目になっていた。


「……一旦イメージ剥がされると、再上書きするの難しいんだよな。ま……ガルミアに回してた分の魔力消費が抑えられただけ良しとするか……それに、可愛いし」


ガルミアの姿は地球人的には十歳前後の背格好となっている。現実のガルミアは張り詰めた生き方をしていた影響からか目付きが鋭くなっていたが、そんな人生が始まる前の幸せな少女時代のガルミアは、瞳の大きな可愛らしい少女であった。瞳が涙で潤んでいるので、余計に庇護欲を唆る小動物的な愛らしさまで兼ね備えている……


「そうだな~……可愛い可愛い。前世の実鳥が育ててた気持ちが解るわ~。カメラを持ち込めなかったのが残念だ。一緒に精神世界に入った役得だな、役得!」


この姿を、姉妹達に見せられないのが惜し過ぎる!と、ばかりに少女ガルミアをハグる遥。聖家に、可愛い少女が嫌いな者は一人としていないのである!


「あ、あの……その……嫌ではないけど……聖剣さんも見てるし……恥ずかしいのだけれど……」


照れまで入り、更にプリチー化したモジモジガルミアを二人が愛でる事数分。どうにか落ち着きを取り戻した三人は、意を決して小屋の扉を開けたのであった。


「そんな……どうして……」


落胆の呟きを漏らしたのはガルミア。小屋の中には、かつての生活の痕跡どころか、何もなかった。文字通り、何もない。虚無の暗闇が広がっていたのである。


「……いや、実鳥はきっと、ここを進んだ先にいる。アタシは……そう思う。あの子は……上手く言えねぇけど、変に、自分を責めたり、一人で抱えたりすっトコがあっから……」


「ヴェルティエも……そうだったな。甘え下手とゆうか何と言うか……教えてやらねぇとな、人にどんだけ絶望したって、今のアイツには、甘やかしてくれる奴ばっかりだって事をな」


今迄通ってきた街並みや森林は心の表層。実鳥に、ヴェルティエにとって平穏な気持ちでいられる場所に他ならなかった。


しかし、本来最も幸せであった筈の場所に、暗闇への入口が広がっている事実が、自責の念を表しているのだろうと、剣も遥も思い至った。


実鳥が、自身の幸せを許せないのであろうと。


だが、ここにいる三人。そして実鳥を現実世界で見守る姉妹達の誰一人、実鳥の不幸を望んでなどいない。


皆、実鳥との幸せを望んでいる。


それを伝える為に、三人は暗闇へ……心の迷宮の奥底へと足を踏み入れたのであった。





サブタイトル詐欺!迷宮に一歩踏み入っただけでした……

次回は鬱展開。実鳥とヴェルティエの心の闇、記憶の闇と向き合ったりする事になります。

そして、ヴェルティエの記憶から最強の存在が出現します。

次回サブタイトルは【魔王】です!

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