129話目 接続
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「それじゃ……これから実鳥ちゃんの精神世界にダイブしてくる。ヒナ、危なくなったら強制的に引き戻してくれ」
『承知しております主様。実鳥様とお戻りになるのを信じております!』
剣は横たわる実鳥の手にヒナを握らせ、胸元に抱かせるようにすると、ヒナの上に手を重ねた。ヒナを介して実鳥の精神に潜入することで、実鳥の精神世界で、又は現実側で非常事態が起きた場合に、ヒナに自身の意識を覚醒させてもらう事が可能なのである。ヒナの役目は、命綱とも言える重要な役割であった。
「さて、素直に話を聞いてくれればいいんだが……」
剣が精神を集中させようと目を閉じると、その手の甲に少しひんやりとした柔らかい感触が重ねられた。目蓋を開けると、剣の眼前に、真剣な表情をした遥が、真っ直ぐに剣を睨み付けるように見詰めていた。
「剣、私も連れていけ。このまま……待っているだけなんて、もう沢山だ!出来るのなら……頼む!」
遥にとって、実鳥は何よりも大事に想っている妹である。そして、過去に守る事に失敗し、瀕死の大怪我を負わせてしまった事を、今でも悔やみ続けている。だから、今度こそとゆう想いがあり、座して待つだけではいられなかったのだ。
そして、もう一人手を重ねる者がいた。
「あの時……私が易々と捕まらなければ……ずっと、ママに謝りたかった……お願いだ聖剣さん。ママに……私の言葉を、直接届けさせてくれ!」
ガルミアは必死に懇願した。十四年前に生き別れ、それから再会する事を希望に一人で見知らぬ土地から旅して生き抜き、だが、ずっと再会を信じていた母は、物言わぬ骸となっていた。
それでも、奇跡的に糸が一本繋がっていた。母の魂が転生した少女が目の前に、その少女は母の記憶を、ガルミアとの思い出も有しているかもしれない事実。謝りたいと言った言葉に嘘はないが、それ以上に、ガルミアはただ、会いたかった。
その二人に対し、剣は困り顔で思案していた。結論から言ってしまえば、二人程度なら念話魔法で精神を繋げた状態にすれば実鳥の精神世界に連れてゆくのは可能である。問題は……遥とガルミアの性格が、共に直情的であるからだ。
精神世界は、記憶そのもの。その世界に入れば、嫌が応にも精神の主である実鳥とヴェルティエの記憶を見ざるを得なくなる。例えば、実鳥が幼少時に父親から虐待されていた記憶や、ヴェルティエの死の間際の記憶等、悲惨で凄惨な場面をである。精神世界内では、記憶に干渉出来てしまうのだ。もし、二人が実鳥の過去の記憶を見るのに耐えきれず、過去の実鳥とヴェルティエを助けたりしてしまっては、実鳥の記憶に齟齬が生じてしまう。言うまでもなく、心は記憶の積み重ねから作られる。僅かにでも記憶を改竄してしまったら、それが古く、心に強く刻まれている出来事である程、今の実鳥の性格にどんな影響が出るのか……確実な想定が出来ないのである。
「いーじゃん、連れてってあげなよ剣ちゃん」
「女神様?いや……実鳥にとっても、入る側も、百パーセントの安全が保証されてる訳じゃないって解ってますよね!?」
「まぁね。でも、剣ちゃん一人だけで実鳥ちゃんを確実に起こせるとも限らないからね。そう考えると、ベターな人選であるとは思わないかい?」
チラリと遥とガルミアに目配せする女神ちゃん。二人とも、背筋をシャンッと!姿勢を正した。……若干歯をガチガチさせてもいる。どんだけフレンドリーであっても、超越した存在である〝神〟を目の当たりにすれば当然の反応であると言えた。
「実鳥とヴェルティエを知る剣ちゃんに、実鳥ちゃんと一番強い絆がある遥ちゃん。ヴェルティエちゃんが惜しみ無く愛情を注いだガルミアちゃん。心に訴えかけるには、最適な人材だと思うよ~?ま……家族全員で行ければ、それがベストではあるんだけれど~」
流石に、全員は不可能である。精神世界内で剣が護衛するにも、ヒナのキャパシティ的にも、二名追加迄が限界なのである。確かに、全員で迎えに行ければ……剣もそれがベストなのであろうとは思っていたのだが。
剣が考えを纏めようと、髪をくしゃくしゃ掻き乱して悩んでいると、光が実鳥の枕元に座り、膝枕に実鳥の頭を乗せたのだった。
「姉さん?」
「剣、貴方は確かに凄いわ。とんでもなく。でもね、出来るか出来ないかは関係なく、私だって妹のピンチに何も行動せずに待っているだけなんて……我慢ならないの!実鳥がただの意識不明じゃないとは理解したけど……こうして触れて、声を掛けるだけでも、少しでもいい影響を与えられるかもしれない……貴方達の、助けにならないかなって……」
光自身、こんなことをしても剣にとって気休めになるかどうかといった思いではあったのだが、それでも、無駄かもしれなくても、後になって〝何もしなかった〟とは思いたくなかったのである。
「そうだね。根拠なんてないし、魔法でも何でもないけど……こうする事でどりりんを想ってるって事、伝わるって私も信じるよ。だから……けんちゃん。はるるん。ガルミー。言葉を届けるのは任せたよ!」
実鳥の頬に手を触れ、梓はまだ迷っている剣に、遥とガルミアを連れていくのが決定事項のように発破をかけた。
「心の中に入るとかプライバシー侵害もいいとこ……勝手に余計な思い出を覗き見したりせず、最短で実鳥義姉さんを助けてきてよね!」
説明のつかない魔法なんて非現実的な現象に対する猜疑心は失われていないものの、現状それしか頼りにならない状態に小町は苛立ちを隠せない様子で剣に悪態を吐くと、小町は実鳥の肩に手を添えた。
「ば、ばめは……ここ!」
燕は剣と実鳥の間にある隙間に潜り込むと、実鳥にしがみついて添い寝をするように寝転がった。これから剣達が何をするか半分も理解はしていないのだが、それでも雰囲気から空気を読み取っての行動をしたのであった。
「……出遅れた」
「ま、丁度いい場所が残ってた」
実鳥の細い太股、その左股に翼が、右股に希が顎をのせてうつ伏せになって纏わり着いた。
「ひんやりと、いい肌触り~」
「うん、プニプニ具合も上々」
緊張感、まるで無し!剣を信頼しているが故であるのだが……
遥さんは頬をヒクヒクさせておいでである!
「燕の方が、空気呼んでんぞ……」
そして、桜ちゃんは未だに悶絶中である。
「……仕方ないよ遥。家の連中にシリアスを求める方が間違ってるんだ、きっと……」
大事な場面で、一人蚊帳の外にいる不憫な妹を憐れむような視線で一瞥し、剣は遥を諭すように呟くと、にこやか~に聖家の非日常風景を楽しんでいる女神に向けて、とても気不味くも不本意ではありながら、一言礼を述べたのだった。
「……助言、ありがとうございました」
すると、女神様はニヤリと嫌ったらしく満面の笑みを浮かべ。
「うんうん、剣ちゃんの礼儀正しいトコ大好きだな~。んじゃ、待っててあげるから早よ行ってきな~」
結局、女神の筋書き通りのまま、姉妹達の後押しもあり、剣は遥とガルミアを連れて、実鳥の精神世界にダイブすることにしたのであった。
「それじゃ、二人とも目を閉じて、心を落ち着かせてくれ。先に言っとくが……何を見ても聞いても、一々反応したり壊したりするなよ。何が実鳥の心を形作る上で大切な記憶が判らないんだからな。実鳥の心……自意識部分を見つける迄は何があっても我慢してもらうからな」
「「ああ、解った!」」
声を揃えて返事をした二人に不安を覚えつつも、剣は実鳥の精神世界へと進入したのであった。
「よし、一先ず入る事には成功っと……遥、ガルミア、もう目を開けていーぞー」
「う……ここは?実鳥の心の中、なのか?」
「な……なんだここ?石の町?地面も、石?」
そこは、ごく普通の日本の風景……剣と遥にとっては、よく見知った聖家付近の路上であった。
「まあ、入ったばかりだから、表層意識領域だろうな。この辺りは無意識的な、本人にとって思い入れが強くないけれども、繰り返し記憶している部分だろう。まあ、精神世界だから、現実通りの配置になっているか定かじゃないが……」
表層意識は心の外周部分。普段から何気なく思い出す物や情景が現れる部分(この作品ではそうゆう設定になります)であり、記憶よりも夢に近い領域である。
「それじゃ、これから実鳥の自意識を捜しに行くわけだが……とりま、家の方へ行ってみるか?」
女神の言葉を信じるのであれば、現在の実鳥の精神はヴェルティエの絶望の記憶に苛まれて、外界との接触を拒んでいるような状態である。ならば、記憶の中から最も閉じ籠もるのに最適な場所に潜んでいる可能性が高いだろうと剣は予想したのである。誰だって、自分の部屋が一番落ち着くだろうと。
「まあ、先ずはそこだな。でも……そう単純か?第一、実鳥はアタシと同室なんだ。一人でって条件とは、違うんじゃねぇかなぁ……?」
誰も彼をも拒んでいるのなら、絶望に心を支配されているのなら……実鳥にとって優しい空間、聖家にいる可能性は逆に低いのではないかと遥は思ったのである。
「あの……私もハルカに同意したい。ここは、ママの……ミドリの心の中な筈なのに……人がいない。何だか、寂しい場所に思える。それとも、聖剣さん達の世界じゃ、これが普通なのか?」
ガルミアにとっては異質過ぎる日本の風景であったが、それ以上に違和感であったのは、人どころか動物も見当たらない事であった。生き物の気配がまるで感じられないのである。あまりに……静謐。
「言われてみれば……小鳥の囀りや車のエンジン音すら聞こえないな。明るさ的に、登校時に近い時間の情景なのに……こりゃ、思っていた以上に厄介かもな」
「それって……実鳥が何もかもを拒絶しているって、事なのか?……何だよ、それ?実鳥……何で、自分をそんなに追い詰めているんだよ……」
「ママ……絶望なんて、しなくていいのに……私、生きて、会いに来たんだから……」
…………誰かが、私の心に直接触れた?
駄目だよ。私は、誰とも関わらないって、決めたんだから……
もう、誰も……近付かないで……
私に……そんな資格、ない……
前半とラストのテンションの落差が天地……
実鳥は幼少時プラス前世が重すぎる子なので、少々鬱な展開になるのは避けられなかったんですよね……ま、そこを乗り越えてこそ勇者なので!
次回サブタイトルは【迷宮】です。心の。




