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128話目 神話

サブタイトルのルビは「かみばなし」でお願いします。

桃色のゆるふわウェーブがかった髪。銀色で円らな瞳は神秘的な輝きを称え、黄金の装飾品の数々が、その人間離れした美しさを余す事なく観る者を魅了する……筈なのだが、それは通常身に纏っている上質な生地でありながらシンプルなデザインである純白のドレスであるならば、の話。


今の(女神)はハート型レンズのサングラスを下擦れ気味に掛け、カラフルで丈の短いサマードレスを着用し、トロピカルドリンクをちゅーちゅー吸ってるその姿には神の威厳など皆無であるどころか、リゾート気分丸出しな小娘でしかなかった。


「そりゃまーついさっきまで一流エステティシャンに揉み解されて極楽気分だったからねぇ。だが、小娘はないだろう剣ちゃん!少なくとも人界屈指の美少女レペルではあるだろう!あ、光ちゃんポタージュおかわり~」


「あ、ハイ。喜んで頂けてなにより……」


「あっさりと人の思考を読むんじゃねえよ!こんのぉ……能力だけは本物の女神ぐぁぁぁ~……」


早くも、呼ぶんじゃなかったと後悔が入る剣。姉妹達に狼狽している姿を隠しもしない様子は、それ以上に姉妹達を惑わせていた。


「けんちゃんが狼狽えてるなんて……本当に神様なの!?」


「それより……お兄ちゃんが抗うのを諦めてるレベルって……何?」


「前世の魂の片割れと融合してパワーアップしたのに、それでもって、事?」


それもその筈、女神の力は魔力に換算して勇者や魔王のざっと万倍。今の剣と比べても、最低でもその程度には戦力差に開きがあるのだ。単純にエネルギー量の差だけでこれである。その上で有している特殊能力の札数が知れないのだ。例えるならば原付とサ○バーフォーミュラがレースをするような話である。それこそ、ドライバーが調子にのって事故でも起こさない限り覆らない、越えられない壁が存在しているのだ。


「いっやー美味しいな!日本の調理器具と比べたら粗末な道具しかない状況でこれだけの料理が作れるとはねぇ。ポタージュは野菜の欠片も残らない程に滑らかだし、肉団子は砕いた軟骨も入ってて飽きない食感!果物ソースの甘味と酸味のバランスも絶妙!初見の素材なのに素晴らしい出来栄えだね!正に、神をも唸らせるとはこのこと!」


「そりゃアンタ神ですからね!アンタが唸ればそうですけどね!……ったく、南国リゾートでバカンス三昧とか、どんだけ俗っぽい神様なんだか……」


剣の突っ込みなんて柳に風と受け流し、どんどん肉団子を口に放り込む女神様。直径50センチはある大皿に山盛りにされていた肉団子の殆どが女神の胃袋に奉納されて、山は盆地になろうとしていた……


「やばっ!?皆!早く食べないとなくなるぞ!神に人間と食べ物を平等に分けあうなんて価値観とか倫理観なんかの概念は存在しない!」


剣が慌てて骨付き炙りドラゴン肉にかぶりついた事を合図に、呆然としていた姉妹達も肉団子へと手を伸ばし始めた。


「酷いな剣ちゃん!人の子に施す程度の慈悲は有るつもりなんだけどなぁ」


「……これ作ったの姉さんだからな!アンタが用意した訳じゃねぇからな!」


「もう、怒りっぽくなっちゃったなぁ剣ちゃん。短気は損気、健康によろしくないぞ~?将来パげても知らないよ?」


カラカラ笑いながら剣を会話だけで翻弄し続ける女神様。傍若無人で傲慢な神を相手に、人の子の言葉は虚しく響くばかりなのであった……


「さてと……会う度に恒例の〝剣ちゃんをおちょくる会?〟は充分に楽しんだから次の話題に……」


「……兄さん、弄られるの恒例なんだ……」


「ぬぐっ!?」


小町から哀れみの視線を向けられ、剣の心に会心の一撃がヒット!お兄ちゃんは、妹にとって頼れる存在でありたいのである!情けない姿など、本当は見せたくなかったのだ!


「め……女神様……俺の心が折れない内に、願いを……」


「当然、その為に来たんだからね。……てかさ、改めて君の口から私の事を紹介してくれたまえよ!意表を突いた登場をしようと考えてみたあげく〝誰にも気付かれずにしれっと加わる〟なんて方法を選択してしまったが為に、威厳とか神々しさとか示せなかったんだからさ~」


「それ、俺に一切責任無いと思うのですが……」


「しかし!剣ちゃんは私の使徒であるので私の指示に従う義務がある!」


「使徒どころか、信徒になった覚えも無い……」


「私が神であることを疑ってないだけで資格は充分!」


「疑っちゃいないけど信奉してる訳でもないのに……」


頑張って口応えはするものの……経験上、女神相手には心が保たず、直ぐに諦めの境地に至ってしまう剣。ヘタレに見えるかもしれないが、精神衛生上仕方無いのである!


「え~っと……この方は女神様です。名前はありません。俺を転生させてくれた恩人……もとい恩神です。以上」


「明瞭解決!つかシンプル過ぎ!あ、因みに私の外見は剣ちゃんのイメージから創造された産物です!いやはや、こんな素敵にプリチーなボディをイメージしてくれちゃうなんて……剣ちゃんってばエッチなんだからぁ❤」


「あ、テメ!言うに事欠いて……違うからな小町!()()はエルヴィアスの伝承とか実際に見たことのある聖女とかを混ぜ合わせたイメージであって……そもそもその時の俺に性別なんて無かったんだからな!性的な嗜好が反映されてる訳じゃなく……だから、蔑むような目で見ないでくれぇ~……」


小町の剣への尊敬値。通常時より六割減。


「や……やべぇ。剣がクラスの底辺男子化している……」


「と言うか……女神様、全然本題に入る気が無さそうなのであります……本当に願いを叶えてくれるのでありますか?」


ぽそっと疑問を呟いた桜に、女神はビシッ!と人差し指を眼前へと突きつける!更に続けて顔面を眼前真正面10センチへと近づけた!


「桜ちゃん、私をそんじょそこらの主人公に残念扱いされちゃうような駄女神と一緒にされちゃあ困るぜ!ゴージャスにファビュラスなバカンス中に、わざわざ約束を果たしに空間を歪めてまで来てあげたのだよ!こんなに人間に義理堅い神様を掴まえて、疑っちゃうのは如何なものかな~?叶えると宣言した以上必ず叶える!ま、可能な範囲でだけどね!そうだなぁ……〝日本のお家に帰してください〟な~んてお願いだったら朝飯前な部屋レベルで楽勝だね!デリシャスなブレックファーストをゴチになってる最中だけれども!」


「ひゃ……ひゃう……失礼致しましたぁ~……はぐぅ……」


桜はいまだかつてなく顔面を紅潮させると、全身を軟体動物のように床にぺったりと貼り付けるように悶絶した……


言動と行動に残念感が満ち満ちている女神様ではあるが、その外見は、紛れもなく絶世の美少女である。しかも、超高級エステで施術された直後であり、全身に擦り込まれたアロマオイルがフローラルな香気を放ち……


神秘の美しさと、飽くなき美の極限を目指す人間の美容技術の粋が渾然一体となった存在に詰め寄られた結果、美姉妹に囲まれて生活している桜ちゃんであっても刺激が強すぎたようで、敢えなく骨抜きに魅了されてしまったのだった。


「桜が陥落した……」


「あれは……不味い。会話で主導権を握れる気がしない……」


そして珍しい事に、双子が寄り添うように部屋の隅へと戦略的撤退をしていた。聖家最高戦力である剣がいいように翻弄され、非現実に対して高い耐性を誇る桜が抵抗する暇もなく悶絶させられた時点で、双子は女神の戦力を分析した結果……その存在が、正に天災級以上であると判断したのである。


「ねぇ、質問してもいいかな女神ちゃん?」


双子が大人しく縮こまって、嵐が過ぎ去るのを待っている……そんな異常事態に陥る中、平常運転な調子で女神に問いかけたのは……梓であった。


「ん?何かな梓ちゃん。先に言っとくけど、私と剣ちゃんは男女の関係はないよ。まだね!」


「いえ、それも気になりますけど……あ、その際には私も加えていただき……って、つい本音が……じゃなくて!そもそも、けんちゃんのお願いを叶えに来てくれたんですよね?」


「そうだよー。ま、私は低級神だからぁ、出来ない事もたっくさん有るけどね!それに、あまり派手に神力使うと、現地の神に目をつけられちゃうから……最悪この世界の出禁くらっちゃうかもしれないので、そういったのはNGです!」


「へ~……因みに、意識を失ってる少女を目覚めさせたり、異世界に拉致召喚された被害者を元の世界のお家に帰したりするのはNG行為になっちゃうのかな?」


張り詰める空気。聖家の面々にとって、この二つが最重要な問題である。どちらも、自力で叶えられる保証も宛ても無い問題であるのだから。


「やだな~皆して暗い顔しちゃって!そんなの両方とも楽々に決まってるじゃない!ほんの一人、意識不明者叩き起こしたり、人間に可能な程度の異世界間接続したところで、この世界の神どもは目くじら立てたりしないっての。てかさ……実鳥ちゃん起こすくらい、今の剣ちゃんがいれば私の力なんて必要ないよ?」


「え?」


突然告げられた神託に、誰よりも驚いたのは剣本人であった。姉妹達の視線が剣に集まるが、当の剣には心当りが全くなく、期待の瞳に焦りを隠せずたじろくばかりである……


「女神様……俺には、そんな手段は……」


「あるでしょ。また使えるようになってるでしょ?念話。それで直接心に語り掛けて優しく起こしてあげればいいだけじゃん?ヒナちゃんにサポートしてもらえば成功確率も安全性も向上するし!」


「あっさりと言う……」


確かに、剣は本来持っていた能力である念話魔法を取り戻していた。念話であれば、半覚醒状態の意識にイメージを送り込んで交信するのも不可能ではない。しかし、それは受け手側にイメージを受け取る余裕があっての話である。実鳥がヴェルティエの記憶を整理しきれていない状態であるとしたら、情報処理に余計な負荷が掛かり、尚更覚醒を遅らせてしまうのではと思い、剣は念話魔法を試していなかったのだが……


「それに今、成功確率とか、安全性とか不穏な単語が……」


「それは当然。今の実鳥ちゃんは厄介な状態に陥っているからねぇ。人に絶望したまま死んじゃったヴェルティエちゃんの記憶に引き摺られちゃってるから、ほっといたら一生目を覚ます気力を取り戻せない……みたいな感じだから。念話魔法全開で実鳥ちゃんの意識にフルダイブして、精神に直接干渉して起こすのがベストなんじゃないかなぁ……と、失敗したら精神干渉した方もされた方も只では済まないけどね!廃人確定?」


極めて明るい口調でありながら、とても物騒な現実を口走りまくる女神様。とても受け入れがたい内容であるが、剣は知っているが故に表情を青冷めさせていた。


女神は……表現こそ大袈裟であれども……嘘は吐かないのだと。


「……仮に、俺が〝実鳥を起こしてくれ〟と願ったら、女神様は、どうやって起こしますか?」


剣が発した言葉に、全員が女神に注目の視線を浴びせた。


「その願いをされたら……私は実鳥ちゃんの心の中にあるヴェルティエちゃんの記憶を完全に抹消するしかないね!そうすれば、()()()()()()()()()()簡単な問題ではあるし」


女神の答えに、誰よりも血相を変えて抗議したのはガルミアであった。


「そんなの……嫌だ!それって、ママを完全に消すって事なんだろう!?そんなの……絶対に……」


実鳥が母親の転生体であることを知ったガルミアにとって、目覚めた実鳥と言葉を交わすことは、願いも思いもしていなかった奇跡であり、新たに生まれた期待と希望である。だから、女神の答えは到底受け入れられなかった。


「うん!ガルミアちゃん良いこと言った!いや、剣ちゃんが叶えろって言ったら叶えるけどさぁ……正直、この方法問題あるんだよね~。前世の記憶ってさぁ、人の心に知らず知らず影響を与えちゃうワケ!それを完全に抹消しちゃうと、下手すると性格が破綻しちゃう可能性もあるのよね~。実鳥ちゃんは特に濃い前世だったりするからさぁ~」


そこで、女神はサングラスを外して……慈愛に満ちたような表情で一同に微笑んだ。


「私の方法じゃ、実鳥ちゃんとヴェルティエちゃんの心の傷は癒してあげられそうにないんだよ。それは、彼女達と本当の絆を築いている君達の方が、よっぽど上手く出来る筈なんだ。その方が……君達も満足するんじゃないのかな?」


女神様が、普通に、普通の女神様っぽい雰囲気を醸し出した。


「それに……私が地球への帰還手段用意してあげないと、多分帰れないよ?手探りで方法探す?可能性無いとは言わないけどさ……無理だと思うよ~」


そして、シリアスは一分と保てなかった……


微妙な空気の中、剣は実鳥の精神世界にダイブする準備に取り掛かったのであった。




相変わらずやりたい放題な女神様でした。彼女がいると、普通な子ほど口を挟めなくなる……

そして、ちゃんと女神っぽくもするので始末に負えない。

そんなこんなで、次回は実鳥の精神世界が舞台となる流れです。サブタイトルは【接続】心をって意味です。

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