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127話目 和解

ペースが、戻せない……

「え……えぇと、本当に、全部戴いても……宜しいのですか?」


白目を剥きそうにしながら、引き攣った笑みを浮かべた表情で、剣が朝飯前にこなした成果を見渡すバルテ。あまりにも無双な動かぬ証拠に、本当に敵にしなくて良かったと安堵しつつも、恐怖も同時に感じずにはいられない様子である。


「ああ、元々大所帯らしいし、昨日の作戦とかで更に同胞を解放したんだろ?肉とか革……幾らあっても困らないかと」


隠れ家の館、その周囲に積まれた大小(小でもツキノワグマ級のサイズ)様々な魔獣の死骸……その数、ゆうに百体。


とあるストレスを解消する為、剣が体力の消耗と筋肉痛すら忘れ、リアルなモン○ンソロプレイを楽しんだ結果が……これであった。


「いやぁ……いい運動したな~!」


とても晴れやかな顔で、額から流れ落ちる汗を拭う剣。朝食前に軽く身体を動かすのは一日を清々しく過ごす為の、剣にとって欠かせない習慣である。普段は愛犬との散歩であるから、それはとても爽やかな習慣なのだが……全身が赤黒い返り血で染まりながら浮かべる笑顔は、平凡な日本人の感覚的には、とても猟奇的に見える事であろう……


そして、普段から食料確保の為に狩猟をしている魔族達の視点からすると、自らも獲物の血抜きの際に大量の返り血を浴びてしまう事もあるので、血塗れになっている剣に対して忌避感を抱きはしないのだが……短時間に大量の、それも大物ばかりの猟果に驚愕を隠しきれずに尊敬の眼差しを送っていたり。昨晩ガルミアに対して無下な仕打ちをした剣に対して少なからず憤っていた者達は、隔絶した戦闘力を見せつけられて、畏れを抱くと共に、仕返しを考えていた愚かさに身を震わせていたりした。


「な、なんだよこの数……何ヵ月分の食料になるよ」


鎌爪熊(サイズクローベア)三尖角猪(トライホーンボア)あっちは双尾鰐(ダブルテイルダイル)……こんなのを一人で狩るとか、訳わかんね……」


「それより、あっちの青いのって……水蛇竜(ドラグサーべン)か!?北の湖の主って話じゃ……」


「こ、この辺りの魔獣の中でも、獰猛な奴ばかり……うわ!?こっちには緑翼竜(ヴェルトラドン)が!竜種が二体も……ガルミアだって一人じゃ無理でしょ……」


因みに、エルヴィアスの人族国家(三十ヶ国以上)に存在している冒険者ギルドでも、竜種がまるっと全身ごと持ち込まれるのは、全国家合わせても年に一度有るか無いか程度。ほんの一時間足らずで竜種を単独で二頭も狩る人間なんて、勇者でもなければ常識的に考えて無理なのである。故に、勇者や魔王が戦っている姿を見たことがない者からすれば、剣の戦闘力は測る為の物差しすら存在しない規格外であり。刈られた獲物達からすれば、人の姿をした不条理な災害でしかなかっただろう……


「さて、いー感じに腹も減ったし……水浴びして汗を流したら朝飯だー!」


「汗よりも血でしょうツルギ殿……」


「血?そういや、かなり返り血浴びてたか……あれ?何か忘れているような……」




少し時間を遡り、話は剣が文字通りに窓から飛び出していった後、部屋の片隅から一振りの小刀を小町が拾い上げた事を発端に始まった。


「これって……兄さんが持っていた小刀?……完全にスルーしていたけど、これって元々持っていた物だよね。……お巡りさんに職質されたら一発アウトだよ!どーしてこんな刃物を日常的に持ち歩いてんのよ!」


ヒナちゃん、持ち主にド忘れ置きっぱにされていました。


「ありゃ?けんちゃんヒナみんを置き忘れ?ゴメンね~ヒナみん。よく解んなかったけど、けんちゃんSAN値の減少が限界ギリギリみたいで我を忘れてたのかも~」


小町の手から、ヒナをひょいッと持ち上げ、亭主の不手際を詫びる梓。そして、小刀にフレンドリーに語りかける姉に対し、小町は痛々しい人を見る目を向けていた……


「梓姉さん……刃物に語りかけるとか、時代劇や戦争物に登場する危ない人みたいなんだけど……」


「え?いや、そーゆー自己陶酔型の思い込みじゃないからね?この子はちゃんと、自分の意思を持ってるから!」


更に怪訝な表情を深める小町。と、そこへ……


「あれ?お兄ちゃんヒナちー置いてった?」


「これは好都合、この機会に料理の手伝い(苦手克服)の訓練しようか?」


「二人とも……ヒナみん本気で嫌がってるから止めたげて」


「?……あれ?おかしいの……私なのかな?」


小刀の存在を認知していたようであり、それに人格があるような扱いをしている梓を不思議とも思わない双子の姉達の反応に、小町は自分の思考が間違っていたのかと混乱気味になり始めていた。


「いや……アタシもアイツらが何話してるか全然解らねぇから。アタシが正常なら、小町もきっと正常だから」


「遥義姉さん……貴女の存在が、私にとって最後の心の防波堤だよぉ~……」


聖遥。聖家の九姉妹で、最も常識的で細やかな気遣いが出来る女!外見は最もアウトローだけれども!


「それにしても……梓姉様がヒナたまを御存知でいらしたのにはビックリでありましたよ。兄様の性格上、ボクたち三人以外には黙っていると思っていましたから……」


「あは、けんちゃんって割とうっかりさんだからねぇ~。私、修学旅行中にはヒナみんとお話ししてたんだよ。……そっかぁ、さっちゃんも知らなかったって事は、黙っててくれたんだねぇ。ヒナみんは義理堅いなぁ~いい子いい子」


小刀に頬擦りをする梓……端から見れば、刃物を愛する危ない趣味の人にも見える訳で、理解が追い付いていない小町と遥は困惑するばかりである。


「なぁ、梓よぉ……何で……さっきから刀相手に話してんの?翼達も、それを不自然にも思わずに……」


「……だって、ヒナちー生きてるし」


「インテリジェントなウェポンなだけだし」


もう、剣の前世や自分達の前世も公開情報となっているので、おまけに梓には既にヒナの事を知られてもいたので、剣の意思確認を待たずに、双子は平然とヒナの存在を暴露したのであった。


「つまり、兄様の前世みたいな存在であるのです!」


剣の前世については、遥と小町も簡単な説明を受けていたが……異世界召喚なんてことをされた異常事態にあっても半信半疑であった。だから、金属である刀が生きていて、おまけに意思の疎通が可能であるだなんて、そうそう納得出来るものでもないのである。


「いや……アタシには梓が一方的に喋っているようにしか……どうやって意思確認をしてんだよ?」


「どうやって?普通に触るだけでテレパシー的な……はるるんもこまたんも、四の五の言わずに触ってみて!」


梓は握り締めたヒナを遥達に突きだした。しかし、遥と小町は疑いの眼差しのまま、中々触れてみようとはせず……すると、小さな手が、ヒナにぺちっとタッチしたのであった。


「はじめまして!ばめです!……………………!!しゃべった!るかねぇ!こまねぇ!ヒナさん、ほんとにしゃべる!」


「ま……マジ!?」


「燕がそう言うなら……本当……なの?」


純真な末妹の言葉を疑える程、二人の心はひねくれていなかった。しかしながら……これには梓達四人が不機嫌顔である。


「そりゃ、ばめたんの言葉なら信じるだろうけどね……」


「何故こうも疑われる?」


「解せぬ、小町に嘘など吐かぬのに」


「……まあ、日頃の生活態度がアレだからでありましょうなぁ」


常に趣味と欲望のままに生きているような四人。その生活態度は自分に正直な証しであるとも言えるのだが……姉達に比べてスペックが劣ると自覚している小町にとっては妬ましくもあり、どうしても自分勝手に見えてしまうのでもある。故に、素直に言葉を受け入れ難かったのだった。


遥は……多少やさぐれた育ち方をしたものの、現在では聖家で誰よりも堅実で常識的な思考の持ち主である。だからこそ、この異常事態に於いても、そう簡単にファンタジーな存在を受け入れられない思考に陥っていたのである。


……彼女のバイト先の誰かさんが常識的な存在かどうかは割愛させて戴く。


「ほら!こまねぇたちも、ヒナさんにさわって!」


燕に腕を引っ張られ、渋々とヒナに指先で触れた遥と小町。


『はじめまして、遥様。小町様。剣様にお仕えしております。ヒナと申します。以後、お見知り置きを……』


「聞こえたか?」


「聞こえちゃったよぉ……」


脱力して草臥れた顔の遥と、認めたくない現実に涙目で顔を見合わせる小町。現実はいつだって、真面目に常識的に生きている人にほど、優しくないのであった。


と、そこへ、水浴びをして血と汗を綺麗に洗い流して着替えてきた剣と、朝食の準備を終えてきた光が、出来立ての料理を運んで戻ってきた。


「あら?どうしたの小町……なんだか暗い顔しちゃって」


「ひ、光姉さん……こ、この小刀が、しゃべっ……」


小町としては、この不条理を光にも共有してもらい、共感して理解者となって貰いたい気持ちで一杯であった。


「あらら……それは残念だったわねぇ。挨拶するの私が最後になっちゃったみたいねぇ……剣、あの小刀が、そうなのよね?」


「ああ、森の中で落とした訳じゃなくて良かったよ……ヒナ、マジで悪かった!」


『全くですよぅ!誰にも気付かれずに放置されたらと思うと……怖くて仕方なかったんですから!』


「ひゃっ!?」


突然、先程迄の畏まった口調を崩し、砕けた言葉使いで憤慨したヒナに驚き、小町はヒナを床へと落としてしまい、光がヒナを拾い上げた。


「はじめまして、ヒナちゃん。今更自己紹介も無いと思うんだけど……剣の姉の光です。宜しくね♪」


『はい!こうしてお話し出来て……とても嬉しいです!』


「ふふ……私もよ。色々と……ありがとうね」


光は厨房から部屋に戻るまでの間に、剣からヒナについて聞かされていたので、特別驚くべき事はなかったのであった。それどころか、剣が四騎士を相手に互角に戦えていたのがヒナの存在あっての事だとも聞いていたので、早く感謝を伝えたくすらあったのである。


「……光姉さん迄、順応力が高過ぎる!」


「パねぇわアネさん……小町、こりゃ嘆いていいわ……」


そして、更なる驚きが……


「あ………あの、入っても、いいだろうか?」


光と剣の背後に、魔族の女性が一人、控えていたのである。


「ええ、貴女も家族同然なんだから、遠慮しなくて、いいのよガルミアさん」


そう、その魔族女性は、剣に猛然と襲いかかり、為す術なくあしらわれたガルミア。そして彼女は、実鳥の前世であるヴェルティエの義娘。確かに、家族同然と言えなくもなかった。


「そ……その、昨日は、言い訳のしようもなく……済まなかったと思っている。だ、だから……許してはくれないだろうか……?」


とても済まなそうに項垂れ、上目遣いで姉妹達の様子を伺う姿を見るに、姉妹の誰もが「この人、ホントに同一人物?」と疑いたくなる気持ちであったが、そもそも剣がしでかした事が申し訳無くあったので、誰も怒ってなどいなかったのだった。


「まあ、みどりんの娘のしたことだし」


「姪っ子のしたこと、大目に見る」


「ボクなんて、無断で大剣をお借りしてましたし……」


「だね。けんちゃんも怪我しなかったし」


「事情が事情だもんね……それより、兄さんに殴られたお腹は大丈夫でしたか?」


「なんつーか……アタシの妹を想っての行動だったし……反省してんなら咎めはしねぇよ」


姉達が口々にガルミアに寛容な態度を示したことで、とっても空気が読める幼女な燕は、トテトテとガルミアに近づき、にゃへ~と微笑みを浮かべ、ガルミアの顔を見上げながら口を開いた。


「なまえ……ガルミアだから……ルミねぇ!いっしょにごはんたべるとなかよくなるの。ばめたちとごはんたべよ?ルミねぇ!」


「う……あ、あぁ……よ、よろしく頼む……」


全く邪気のない、天使のような燕の、微笑みながらのお願い。これを断ってしまっては、許されなくても構わないという意思表示になってしまうのは明白であった。


邪気が無いのも、時には凶悪に等しい……


「それはそうと……朝から豪勢でありますな……」


朝食のメニューは光が作ったポタージュと謎肉団子。どちらも魔族の皆様にも振る舞われて、現在食堂では我先にと、おかわりの争奪戦が繰り広げられている程に好評で絶品な皿である。それに加えて……こんがり上手に焼けた、骨付き漫画肉が、ドデーンと存在感たっぷりに持ち込まれていた。


「匂いは悪くないけど……兄さん、これって……何肉?」


「ドラゴンだけど?無理して食う必要はないからな。毒はないけど、熟成させてないから味はイマイチかもしれないし」


剣が先程血抜きして活け〆したばかりの、緑翼竜さんの、正真正銘のドラゴン肉の炙り焼きである!


「ドラゴン……まぁ、鰐だと思えばなんとか……なる!気もしなくも……しないかな……」


小町の異世界順応への道程は、険しい……


「それじゃ、記念すべき異世界での最初の食事よ。折角だから皆で声を会わせましょうね、ガルミアさんもね」


「こーして、てをあわせるの!」


ちゃっかりガルミアの膝の上に座った燕が、ガルミアを見上げながら、顔の前で合掌してみせると、ガルミアも素直にそれに従ったのであった。


「あ、うむ。そういう作法なのか……」


そして「いただきま~す」を、()()()が声を揃えた。


……十一人?


ここには、剣と聖家九姉妹。それにガルミア……合計十一人である。しかし、実鳥は未だに意識を取り戻さずに眠ったままの筈……


「ぐっも~にん!ちゃんと食材と料理人への感謝の言葉を口にしたから食べていいよね?駄目と言われても食べるけどね!てゆーか、現実世界で光ちゃんの料理を目前にして食べちゃ駄目とかどんな拷問?そんなの神であっても許さない!だって私は神だから!」


いったい、何時の間に来ていたのか……(女神)が、派手な登場エフェクトも発生させずに、出現していた。


姉妹達とガルミアが呆気に取られる中、剣は前触れもなく来ていた女神を恨めしそうに睨むしかなかった……





一晩経って、ガルミアも落ち着きました。一応、実鳥がヴェルティエの転生であることは説明されています。無理矢理目覚めさせると悪影響があるとも知らされたので大人しくしてます。その辺りは次回以降の本文でも……構成力が未熟!

さて……遂に奴が実体で現実に姿を現してしまいました。

次回は基本的に女神のペースで進行します。

サブタイトルは【神話】……神の話だから間違っちゃいまい!

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