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126話目 着信

更新ペースが……頑張ろ!

窓の外がうっすら白み始めた頃、日頃の習慣の賜物か、剣はパッチリと目を覚ました。首だけを動かしてみると、右側には燕と寄り添って寝ている梓が、左側には涎を垂らして爆睡している桜の姿が……


ここは、リーイース王国郊外にある森の中の魔族達の隠れ家の一室。


昨晩、この部屋で剣は姉妹達と雑魚寝をしていた事を、起床してすぐに思い出していた。


「喉、渇いたな……水でも貰うか……っ!?」


起き上がろうとして、剣は身体に力が入らない事に気付いた。


それは当然であり必然。魔王ガルザートとの決戦後に治癒魔法を学んでいたヴェルティエより、又聞き学習していた半身との融合で会得した治癒魔法で全身の傷やら怪我を治療はしたものの、失われた血液だけは元に戻せなかったのである。


一晩眠って完全に身体を休息させた事で、肉体が回復と再生を求めて、理性に反して本能が運動する事を拒否しているのであった。


「しゃあね、反則すっか」


剣は寝そべったまま、身体を浮かせた。念動魔法である。筋力と体力は回復していなかったが、魔力は逆に絶好調であった。現在の剣の魔力は〝無銘の聖剣〟であった頃の最大値と比べても、その九割は越えている。自爆して魂が分裂した際、自我や記憶を保てない程に散ってしまった分も幾らかあったのだろう。


だが、そもそもの魔力がエルヴィアスの特異点である魔王と勇者に次ぐだけの保有量だったのである。魔王と勇者が共に存在していない現状、紛れもなくエルヴィアス最強の生命体になっているのであった。


本人はちっとも気にしていないが。


兎も角、融合したことにより、剣は前世の能力の殆どを取り戻している。念動魔法もその一つである。剣の感覚的には、全身を駆け巡る魔力が淀みなく循環するようになり、大気中の天然魔力を呼吸するかのように自身の魔力へと変換出来るようになっていた。欠けていた魂が融合したことにより、身体を巡る魔力の経路が開通したり拡大されて、魔法を使用するにも魔力を回復するにも大幅に効率化が為されたのであった。


記憶も完全に合一されたが……人格はそうはならなかった。主人格は肉体の持ち主である剣の方だが〝折れた剣〟の人格が不意に表に出たりする。


さておき、念動魔法によって普通に歩いているように偽装し、剣は隠れ家の庭にある井戸へと向かったのであった。


隠れ家だけあり、寝ずの番をしている者も何人かいるようで、邸の玄関前で見張りをしていた少年と顔が会った。


「お?もう起きたのかい客人。何してんだい?」


「ちょっと水でも飲もうかと思ってね。確か、庭に井戸があったかと思ったんだが……それと、名前は剣だ」


「ツルギっすね?俺はヨアムっす。俺も顔でも洗おうかと思ってたんだ……昨晩は襲撃作戦で大忙しで、強ぇ人達みんな出払ってたから、いつもより長く見張り番しててさぁ……」


この隠れ家に寝泊まりしているのは戦闘職のメンバーだけではなく、幼い子供や非戦闘員もいるのである。そして、その殆どが奴隷であったり、不当に捕まっていた過去を持っている。


「そういや、あの後ガルミアは?」


剣の何気ない問いに、ヨアムは……とても苦々しい顔で応えた。


「まだ寝てるっぽい……いや、俺も見てたんだけどさ……理由を聞けば、まあそうか……とも思ったけど、姉御にとっちゃガキの頃に離ればなれになって以来の再会だったんだし……も少し情緒とか気にしてくれても……」


ヨアムの答えに、剣は苦笑いで応えた。正直、合理的思考に偏り過ぎた感はあったかも……と、反省はしているのである。後悔はちっともしていないが。ここまでは苦笑いの苦の理由である。そして、笑っている理由は……


「ここにいる皆は、ガルミアとヴェルティエが親子だって知ってるんだな。まさか、勇者の娘が魔族に受け入れられているとは……種族全体にとって、仇も当然だろうに」


魔族にとって魔王は、存在しているだけで魔族の魔力・身体能力を強化し、魔力高濃度領域を拡大させ他種族領土を侵食する……そんな、現人神の如し存在である。そんな魔王を、実際に殺した勇者ヴェルティエは……魔族とゆう種族全体を弱体化させ、領土を縮小させた、魔族にとっては疫病神そのものである筈……それが剣の認識であった。


それなのに、ガルミアが魔族の仲間に蟠りなく囲まれているのが、少々不思議てありながらも嬉しくて、つい、笑みが溢れてしまうのであった。


「まー俺ら大体戦後生まれだし、大陸中央の魔族の国とは無関係っすからね。勇者がどうのってより、姉御の母ちゃんって事が重要ですから。姉御のお陰で、俺らは奴隷から解放されたんですし」


納得のいく理由だと剣は思った。世界とか種族全体の問題とかでなく、個人的な恩義や情を優先するのは剣も同じだからである。姉妹の生死が関われば、なりふり構わず全身全霊で世界すら滅ぼすつもりはあるが……もし救世主として異世界召喚され、キラキラしているヒロインに涙ながらに救ってくださいと頼まれても「嫌です」と即答すると決めているのである!


剣の性格はさておき、ヴェルティエによってガルザートの墓標へと転移させられたガルミアは、その後ガルザートの剣を手に、住処への帰路を歩み始めたのであった。


森林で育ったガルミアには既に一人で生きられるだけのサバイバル知識があり、ヴェルティエに育てられた事で剣術に体術、様々な魔法の基礎を習得済みであった為、大陸中央の高濃度魔力領域外まで踏破する頃には、魔族の戦士と比べても遜色ない実力を身につけていた。


そして、ヴェルティエの手掛かりを求めてリーイース王国へと潜入し、魔族の奴隷を見掛ける度に自身の過去が重なり、助けずにはいられなくなり……


助けた者が仲間となり、その仲間に助けられた者も仲間となってゆき……雪だるま式に集団が膨れ上がっているのである。


この隠れ家だけでも現在二十人以上が共同生活をしており、同規模のアジトがリーイース王国の王都周辺に数ヶ所あるのだった。


「大したもんだな。ガルミアはそんな規模の集団を率いてるんだな……あんな短気で大丈夫なのか?」


「ははっ!姉御はそれがいいんすよ!まっすぐで、俺らを見捨てないし裏切らないって信じられますから!頭脳労働はバルテの姐さんとかがサポートしてくれますし」


「それ……本当にサポートなのかな?」


きっと、ガルミアが決めた方針に沿うように、綿密な作戦を必死に考えて取り繕っているメンバーがいるんだろうなぁ……ガルミアが素晴らしい仲間に恵まれているようで、剣は改めて苦笑いを浮かべたのであった。




外に出ると、十メートル先を見透すのも困難なくらいの朝靄が発生していた。森林に囲まれているだけあって湿度が高く、ひんやりとした空気が肌に染み渡り、木々の緑の匂いも爽やかで、剣は心地好い大自然の中での目覚めを感じたのだった。


井戸から汲んだ水も滑らかに喉を潤し、昨晩の殺伐とした戦闘が嘘のようで、避暑地での休日と錯覚してしまえそうでもあった。……服がボロボロでなければ。


それから剣はヨアムと雑談を交わした後、邸の中へと戻ると……なんだか、空腹感を刺激する、鼻腔をくすぐる香ばしい薫りが漂っている事に気付き……その匂いの源へと、本能的に向かうと……


そこは邸の調理場であり、そこには、とても見覚えのある黒髪ロングの後ろ姿があった。


「あ、おはよう剣。朝御飯はもうちょっと待っててね」


「……おはよ、姉さん」


まるで、普段と変わらぬ調子で料理をしている光がいた。調理器具は日本の一般家庭キッチンより一世紀は過去の仕様であり、オール電化どころかガスすらなく、鍋は竈で直火炊きなのに、光は平然と使いこなしていた。


包丁もないので短剣で野菜や肉をサクサク刻み、初めて使う異世界調味料を一舐めしただけで納得したように鍋に放り込み、昨晩戴いた果物を磨り潰して即興でオリジナルのタレまで作っていた。


それを味見した本来の調理係の少女達は、うっとりした表情で光を見つめている始末……


「ヒカリお姉さま……素敵」


「なんて見事な手際……尊敬します!」


男性よりも、女性の支持率が高かったモデル時代のカリスマ性が、遺憾なく発揮されていた。


そして、振る舞われた朝食のメニューはポテト(エルヴィアス産の馬鈴薯 銘柄不明)のポタージュと謎肉団子の甘酸っぱい果物ソース和え。それが、昨夜の戦いで体力を消耗していた魔族の男性達の胃袋を鷲掴みにし、ポタージュの優しく癖のない味わいと、簡単に噛み砕ける肉団子の柔らかな感触と果物で再現された甘酢ダレのような味わいは子供達に好評であり、光はこの邸に住む魔族の皆さんの心を朝食だけで掌握してしまったのであった……




時間は朝食前に戻り、剣が厨房から部屋の前に戻ると、少々扉の向こう側から賑やかな話し声が聞こえてきた。


「これは……素晴らしきフィット感!」


「これぞ異世界装備の定番!梓ちゃん最高!」


「そう?いや~……自分でも不思議なくらいイメージ通りに縫えちゃったよ……本当、針が抵抗なく、こう……」


「いや、マジでミシンみたいな速さだったし……」


「てか、これがイメージ通りとか際どいわ!」


「ばさねぇ、ぞみねぇ、せくしー!」


「眼福過ぎて、ボクは今日死ぬかもしれないのです……」


会話から察するに、梓が翼と希に衣服を仕立てたようである。それも、かなりの確率で公序良俗に反しそうな、日本の公道を歩いていたら猥褻物陳列罪とかで通報されても文句が言えなさそうな……剣は取り敢えず扉をノックすることにした。固有スキル〝ラッキースケベ回避:強〟が遺憾なく発揮されていた。


大勢の姉妹と暮らす上で、必須ともいえるスキルであり、それ以前に身につけるべきモラルでエチケットである。親しき仲だからこその礼儀。剣はしっかりと義務を果たしている。


……だから、これは決してラッキースケベなどではないのだ!


「あ、お兄ちゃんおかえり~」


「やっぱり朝の散歩してた~?」


扉を開けて出迎えた双子が、見事と表現する他ない双丘をたゆんたゆんと弾ませていようとも、身に着けているのが、レザー製のビキニアーマーだけだったとしてもである!


「それは、鎧と呼ぶにはあまりにも頼りなく、身体を覆う面積が皆無といえる程でありながら……DT(童貞)DC(男子中学生)を一撃で殺せそうな破壊力を秘めた鎧であった……」


「……桜、何だそれは?」


「兄様の心を代弁したナレーションであります!」


それなりに的確な内容であったので、剣は無駄な反論はせずに、平然とやり過ごす事に決めたのであった。


「……そうだな、とても似合っててセクシーだぞ二人とも。てか、自分達からリクエストしたのかよ?」


「ん、ファンタジー異世界でビキニアーマーは外せない」


「近未来モノならハイレグアーマーが様式美……と、桜が言ってた」


「SFだったら全身のラインがくっきりなピッチリスーツなのであります!」


すっかり今の状況に順応している妹達を余所に、どうしてビキニアーマーなんぞを拵えたのかと、制作者本人を剣は問い詰めてみた。


「いや、ね?さっきバルちゃんが着替えを持ってきてくれたんだけど……つばぞみが可愛くないって言うから少し手直ししてみようと思ったのね?バルちゃんも獣の革なら好きなだけ使っていいって……でね?試しに裁断したり針を通してみたら、自分でも信じられないぐらいにスイスイと……いや~私どうしちゃったのかな?」


「そーゆー事を聞いたんじゃねぇけど……確かに、マトモな道具も無いのに……作業が速すぎるな」


ここで、剣はふと、初めての調理場で使いなれない調理道具を平然と使いこなしていた光の姿を思いだし……一つの可能性に思い至った。


「もしかして……スキルが覚醒したのか?」


「兄さん……そんな、ゲームじゃないんだし……」


呆れ顔の小町にたいして、剣はいやいやと手をスナップさせて異を示した。


「いや、エルヴィアスじゃ普通にあるんだって。それこそ、戦闘に関わる技能から一般的な生活に関わる物まで星の数程な。魔法だってスキル持ちかどうかで威力とか大分変わるし……世界の境界を越えた事で、エルヴィアス世界のルールに適応した可能性がある……かもしれない。推論だけども、梓の裁縫技術が向上している現状を鑑みると……」


「無いとは言い切れぬでありますな!それではボク達も何らかのスキルを得ている可能性が!」


目を輝かせる桜。左腕を掲げて、封印されている黒炎を解放させんと気合いを込めて叫ぶ!……しかし、何もおこらなかった。


幾らスキルを持っていたとしても、スキルはあくまで素質なのである。磨かなければ光らないのだった。


「……ま、そういった非日常に胸踊らせるのも理解は出来るんだけどさ……アタシは実鳥が目を覚まさない方が気掛かりなんだけどさ……帰る、方法だって……」


「るかねぇ……」


「だよね……その二つが、直面中の大問題だよね」


そう、無理矢理起こす事で悪影響が出ないようにと、実鳥はずっと寝かされているのだが、一向に目を覚ます様子を見せていなかった。


そして、地球に帰還する為の手段は、まだ手探りすら始められていない状態なのである。


だから、剣の次の一言に、姉妹達はとてつもない衝撃を受ける事となった。


「あ~……そのどっちか片方なら、すぐにでも……解決するかもしれないんだが……」


「けんちゃん!?そんな魔法まてあるの!?」


「いや、どっちかと言う点がおかしい」


「その二つ、明らかに別問題」


「どっちかって……選べないよ!」


「どうして両方と言ってくれないのですか!?究極の選択はノーサンクスであります!」


「実鳥には目覚めてほしい……でも……」


「にーたん!どりねぇたすけて!」


剣に一斉に押し寄せる姉妹達の言葉の嵐。誰もが実鳥を心配しているし、誰もがお互いを家に帰してあげたいのだから無理もない……そんな中、幼い故の無自覚か、実鳥の目覚めを優先していた燕に、剣は優しく微笑むのだった。


「燕、実鳥お姉ちゃんは大丈夫だからな。家に帰るのも……きっとなんとかなる。それじゃ……神頼みでもしてみるかな」


「「「「「「え?」」」」」」


「神様?」


キョトンとする燕に、「兄さん(けんちゃん)どうかしちゃった?」みたいな、げんなりした表情を隠せない六人の姉妹達……ここにきて、神頼みって……


「そんな顔すんなよ……俺だって、気が進まない方法なんだからさ。……まさか、使うべき時が来るだなんてな……」


剣はズボンのポケットから財布を取り出すと、その中から金色のメダルを取り出した。キラッ☆とウインクしている女神が刻印されている、非常にウザ……非常に貴重な素敵メダルを。


そう、今年の誕生日にプレゼントされた〝女神が願いを叶えてくれる〟メダルである。


もし、召喚前に買い物に行っておらず。財布を身に着けていなかったら……このワンチャンは無かったと剣は身震いすらする想いの下、メダルへと祈念した。


……何も起こらない。


「……何故だ!?あの女神が俺に嘘を?いや、奴に限って嘘を吐いたりは……おちょくりはしても、嘘で騙すような趣味の奴ではなかった筈……」


事情が判らない姉妹達は、珍しく狼狽している剣を「何だか痛い人みたい……」と、憐れみすら感じている……


「どうすれば……まさか、声に出せと!?あんの女神め……そこまで様式美に拘るかぁ~……!やるよ!やってやるよ!……ドラゴン呼び出すみたいにやれってんだな!?」


剣はメダルを床に置くと、悔しそうに思いの丈を込めて……七つ集めると願いを叶えられるボールから龍を召喚するように、叫んだ!


「出でよ女神!そして願いを叶えたまえ!」


すると、メダルがキラキラッ☆と輝き……消えた。


……何も起こらない。


剣が怒りと羞恥心で四つん這いで身悶えしていると……


ピロロロロロ……♪


剣のスマホから着信音が……


「これ、けんちゃんのスマホの着信だよね?出ないの?」


「……今、そんな精神状態じゃ……」


剣さん、とってもガックリしていて、着信どころではない。


その時、小町が驚いたように声を荒げた。


「!な、何で着信なんてするの!?どっから電波きてんのよ!?」


ここは、日本のド田舎どころか……地球ですらなく、有線電話すら存在しない世界。基地局も人工衛星も存在しないのだから、着信なんて有り得ないのだ!


正気を取り戻した剣がスマホの画面を確認すると、登録した覚えもないのに【美しすぎる女神様】と表示されていた。


突っ込みどころ満載だが、待たせすぎると切られる可能性大なので、剣は急いで〝通話〟をタップした。


「あ、剣ちゃんひっさしぶり~♪女神は現在南国リゾートのエステでリラクゼーションしてるのでぇ……終わる迄二~三時間待っててね~❤美しさバリ増しで行くからおっ楽しみに~☆んじゃ、そーゆー事で、シ・ク・ヨ・ロ!」


言いたいことだけ言うと、女神は剣の返事すら聞かずに通話を切った。即座にリダイヤルしようとした剣であったが……着信履歴と電話帳のどちらにも【美しすぎる女神様】は、見当たらなかった……


「ちょっと……出掛けてくる」


SAN値をガリゴリ削られた剣は、近場の森林に生息している魔獣を百頭程食肉&革資材化する事で、なんとかストレスを解消したのであった。








超常者との会話って疲れる!

お陰で魔族の皆さんは当分衣食に困らなそうです。

八つ当たりで野性動物虐めるのはダメ!殺ったら食え!それで問題なし!

さて……そろそろ奴が現実サイドで登場しそうな感じです。

次回サブタイトルは【和解】にしておきましょう。但し女神、テメーとじゃねえ。

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