122話目 交渉
人によってはモヤモヤする結末かも……
「ふむ……みんな、ちょっとここで待っててくれ。少し先で戦闘しているみたいだから、少々王様と女剣士使って通してくれないか交渉してくる」
剣は浮遊させていたヴェルティエを地上に降ろし、口が耳まで裂けそうな笑みを浮かべてリーイース王に微笑みかけた。王様、すんごく涙目である!
「交渉……ねぇ?まぁ、貴方も含めて皆で安全な場所に身を隠せるなら問題無いのだけれど……決裂したら?」
光のとっても不安気な質問に、剣は王様に向けたのとは真逆の、悪意無き爽やかな笑顔で応えた。
「さくっと両方全滅させておく」
「……うん。交渉が成功する事を心から祈ってるわ!……でも、王国側には一切譲歩しなくていいからね?」
剣の所業にやり過ぎな感が否めない光ではあったが、それ以上に、リーイース王国からされた仕打ちに堪忍袋の緒が切れっぱなしでもあった。妹達の手前表面上は我慢しているのだが、取り繕う必要が無くなったら……即座に王様をメッタ刺ししてしまえそうなぐらい、怒りを抑えられる自信は無かった。
「その辺りは安心してくれって。王国側には要求はしてもされるつもりは一切無いから。……テロリストの方が交渉の余地があるって辺り、この国、末期じゃねぇかな……」
「王様の生殺与奪握っちゃってるからね?既にけんちゃんがこの国の一時代を左右しちゃってるからね?」
「とゆうか、兄様が王様許さぬ!な時点で、今の代は確実に終わっているのであります……」
「あ~……日本なら元号代わる事案だったかコレ。ま、この国の政権にマトモな奴がいれば寧ろマシな国になんだろ。ま、俺には関係ねーけど」
剣にとって、リーイース王国は本当にどうでもいい存在なのである。これが人族と魔族の長きに渡る戦いの歴史に於いて、大陸中央の魔族領を囲む十二国家の初めての陥落に繋がろうとも、全く興味なし!どれだけ一般国民に犠牲が出ようとも、隣国に大量の難民が押し寄せようとも、そんな事に対して責任を取るつもりも、そうならないよう配慮してやる余裕もないのである!
「じゃ、安全優先で可能な限り平和的な話し合いで済ませてみるよ。翼、希、周辺警戒頼んだぞ~」
「いってらっしゃ~い」
「油断しないでね~」
まるで「一寸コンビニ行ってくる」みたいな緊張感が薄いノリで戦場へ向かう剣と、それをソファーで寝そべりながら見送るテンションで送り出す双子。三人の拍子抜けしてしまう程の危機感の無さに、他の姉妹達は毒気を抜かれたように安心して、その場に腰を下ろして一休みするのであった。
姉妹達から離れて五百メートル程度進んだ先、道路が三つに枝分かれしている分岐点で三人の魔族(何れも若い女性)が、魔法で防御壁を形成し、王国の増援部隊を足止めしていた。その数、三十以上の騎馬兵である。
女性魔族達の背後には、傷を負って荒く息を吐いている魔族が二人倒れている。状況的に、この二人が前衛で、戦闘継続が困難となってしまった為に防戦一方となっている……剣はそう判断した。
「ひいぃ~!ヤバイよ~!魔力がもう尽きちゃうよ~!」
「もう少し粘るんだ!ガルミアが戻るまでの辛抱だ!」
「早く……早く戻って……御姉様~!」
薄く、白く輝く防御壁に、王国兵達は雨霰のように魔法弾と弓矢を放っていた。防御壁は魔法弾と対消滅しては再生されるが術者の魔力を確実に奪い、物理攻撃によって歪みが生じた壁には強度が下がる部分が生じて、威力が低下した魔法弾を僅かであるが通過させてしまう……
散発的に受ける攻撃の苦痛に耐えながら、仲間を守り、味方が戻るのを信じて待つ女性魔族達……
それに対し、反撃を封じられた獲物をいたぶるように、薄ら笑いを浮かべながら魔法弾や弓矢を放つ王国兵達……
「……いや、この国の兵士はちゃんと教育されてんのかよ?品格とか学べよ!」
剣さん、心底呆れました!王国と交渉なんてしてやるもんか!てゆうか邪魔!めっさ邪魔!さくっと片付けるの決定!
剣は様子を伺っていた物陰から、魔法防御壁をぐるっと迂回させるように、聖嵐の剣をぶん投げた!
聖嵐の剣は念動魔法によって高速回転し、チャクラムのような円刃と化し夜闇の中から突然飛来して、丸鋸よろしく王国兵達を次々と斬り裂き、容易く命を刈り取ってゆく。
突然騎手を失った騎馬は恐れ嘶き、生き残っていた兵達は落馬して、その健脚に踏み潰されてゆき……部隊が壊滅状態となるまで一分とかからなかった。
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことか、バラバラに切断され、馬の蹄に潰されミンチとなった血塗れの肉片が散乱する光景に、敵対していた女性魔族達ですら顔を引き攣らせ、剣の脳内ではヒナがパニックを起こして泣き喚いている。
(感知用に連れてきたが、預けておくべきだった……)
かなりの後悔と頭痛の苦しみを抱えながら、取り敢えず剣は魔族達の元へと〝人生オワタ〟な絶望的表情をしているリーイース王を投げ転がし、友好的な雰囲気で第一声を発信した。
「どうも、今晩は魔族の皆様。少しお話宜しいですか?出過ぎた真似かと存じますが、皆様との交渉の邪魔でしたので、取るに足らない雑兵どもは勝手ながら片付けさせて頂きました。実は皆様にお願いがありまして……そこに転がっている害虫は前払いの依頼料とでも思って下さると有り難いのですが……」
気配を感じさせず、突然背後から現れた剣に当然警戒する魔族女性達。しかも、その手に大勢の王国兵の血を吸ってきた聖嵐の剣が滑り込むように戻って来たのを目撃し、警戒心は最大限まで引き上がる!この正体不明の男は、何の労力も感じさせずに三十以上の王国兵を殲滅してしまったのだから……
それはつまり、その気になれば自分達にも同様の攻撃を加えられるということ……機嫌を損ねた瞬間、首を切られていても可笑しくないということ……
「ど、どうす……?ねぇ、バルテ、リアラ……ここに転がってるの、リーイースのカス王なんじゃ……?」
「何言ってんのよアロア。どうして王がこんなとこに……いるし!?かつてなくみすぼらしい格好でいるし!」
「ま、まって!あいつの肩に担がれてるの……御姉様よ!ど……どうなってるの?」
予想外の連続に戸惑いを隠せない女性魔族達であったが、事前に剣の戦闘力をまざまざと見せつけられていた為に、逆上して襲いかかって来ることは無かった。取り敢えず、ファーストコンタクト成功?である。
「まあ、貴女方のお仲間に関しては安心して下さい。腹パンしてちょこっと気絶してもらっただけですので。いや、私は話し合いを望んだのですが、聞く耳持たれず、やむなく意識を奪わせて頂きました。お返ししますのでお引き取り下さい」
剣はガルミアを念動魔法でゆっくりふわふわソフトに運んで、魔族女性の中で一番立場が高そうな、右目に眼帯を着けているバルテと呼ばれた長身の女性に預けた。風も重力も発生させずに、人一人を移動させる得体の知れない力に驚く女性達。
「こ、これ魔法だよね?どうやってんの?何魔法?」
「私に聞かれても……物体に直接干渉して遠隔操作する魔法?そんなの、見たことない……」
「なんて、出鱈目な魔法を……っと!ガルミア!……良かった……生きてる……」
ガルミアが生きていた事に安堵する女性達であったが、剣への警戒心は消えない。易々と王国兵三十名超を殲滅させる戦闘力に、それだけの事を為して平然としていられる精神力。何より結果だけを見れば、正人が魔族に加勢するなんて異常事態である。しかも、正人至上主義のリーイース王国で、そのリーイース王をポイ捨てまでしたり……魔族であるガルミアを殺さずに意識を奪うに留めていたり……魔族達にとって、剣の存在も行動原理も全く不明で予測不能。一度機嫌を損ねたら、足元に散乱する王国兵だったものと同様な仕打ちをされるのではないかと迂闊な事を喋れず、自分達から問い掛けるような蛮勇を誰も示せなかった……
「ん~……そりゃまぁ警戒されるか。敵意は無いんですがねぇ……仕方無い、もうちょい親切にしておくか」
剣の手から淡い黄色の光が放たれ、傷付き倒れている二人の魔族を包んでゆく。すると、みるみる内に傷が塞がり流血も治まったのであった。
「流れ出た血は元に戻せないので何とも言えませんが……致死量に達していなければ、これで命はとりとめたでしょう。取り敢えず、話だけでも聞いてくれませんか?」
あくまでニコニコ。敵じゃあないよ?恐くないよ?剣は精一杯自分が安全であることをアピールし、その為に、お願いの報酬を大盤振る舞いで前払いしているのであった。
「これは……治癒魔法?こんな数秒で完治させるだなんて……一体どれだけの腕前なの?……いや、その前にお礼が先ね。例え貴殿が正人であろうとも、仲間の命の恩人であることは揺るがない事実。こんなの……同族以外に言うのは気が引けるのだけれど……ありが……とう」
凄く照れ臭そうに、礼を述べたバルテに驚きつつも、アロアとリアラも後追いして剣に頭を下げた。
「そ、その……褒めてあげるわ、正人!」
「助からなくも……なかった……かもしれない」
微妙ではあるが、どうやら感謝はされたようである。
「はは……どういたしまして。それで早速頼みをするのも不躾なのですが……少々込み入った事情がありまして、そこの人の上に立つ資格のない名ばかりの王様とかの所為で、姉妹もろとも別の世界から召喚されてしまいまして……今晩の寝床すらあてが無いのですよ……一晩、安心して休める場所をご存知でしたら、案内して戴けませんか?」
包み隠さず、正直に現在最も必要としている物を、安全と安心を得られる場所を要求した。ついでを言えば、食糧やエルヴィアスで行動するのに違和感ない衣服なんかも欲しくはあるのだが……一度にそこまで要求するのは欲張り過ぎだと、剣は自重したのであった。
「召喚!?それでは……いや、それは笑い話ね!手に負えない強者を召喚してしまった結果が……コレって訳でしょ?リーイース王国自爆エンド!」
「そっか……召喚されたって人が王様拉致して、追手を気にしてないって事は、側近のネウグルや騎士をやっつけちゃったって事になるよね?……わーい!王様マヌケー!」
「外道に相応しい残念な末路……組織の全力を以て、国から世界中に知らしめてあげる……ねぇ?コレ、私達の好きにしていいのよね?」
どうやら、魔族の皆さんにとっては笑い転げたくなる程の朗報を剣はもたらしたらしい。本人的には、ギリギリ奇跡的に逆転した状況だったので、笑えない話であったのだが。
しかし、いらないゴミが交渉材料として大いに役に立ったので、剣も女性達同様、朗らかな笑みを浮かべたのであった。
「どうぞどうぞ!煮るなり焼くなり蒸すなり揚げるなり切るなり割くなり刻むなりして、下水道のネズミやGの飢えを満たすのに使っちゃっても結構です!その代わり、私と姉妹達……合わせて十人が安心して休める場所を宜しく!夜露さえ凌げれば、馬小屋なんかでも構いませんので!」
「あっはっは!いやまさか!恩人である上に、こんな面白い手土産まで持ってきてくれたんだもの。ちゃんと客人として歓待するのが筋ってものでしょ?……くふっ!王様の身柄が一晩の宿代って……駄目!笑いが止まらない!」
これから数日の後に、リーイース王の命の価値は一晩の宿賃として取引されたのだと、隣国にまで知れ渡る事になったのでありました。
王様がこのあとどうなるか……ま、マトモな人生は終わりましたな。
次回は剣さんと魔族の皆さんが交渉していた間、姉妹達がどうしていたかを書きたいと思います。
サブタイトルは【談話】かな?




