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118話目 悲劇

休み明けから残業連続……

やはり、ペース落ちました。しかも、今回かなり内容的に鬱です。サブタイトルからしてね……

ストーリー的に避けて通れず……

魔王ガルザートとの決戦より凡そ四年が経った。


十九歳となったヴェルティエは、四年前よりも背が伸び、身体はしなやかに鍛え上げられ、美しく成長していた。そんなヴェルティエは辺境の森の中で義娘で魔族のガルミアと二人暮らし。動物を狩猟したり、木の実や野草を採取したりと、大自然の中での自給自足の生活を楽しんでいた。


「あいたっ!擦りむいちゃったぁ~」


「大丈夫ガルミア?少し待ってね……」


森の中での食材や生活物資の採取中に、ガルミアが木の根に躓いて膝を擦りむいてしまった。急ぎヴェルティエがガルミアの傷に手をかざすと、黄色に輝く小さな光の粒が幾つも現れ、傷口に集まってゆく。その粒々が集まり、徐々に薄くなり消えてしまうと、ガルミアの傷はピッタリ塞がり、僅かにあった出血は即座に固まり、ポロポロと崩れたのであった。


「治癒魔法、上手になったね、ママ!」


「ガルミアがしょっちゅう傷を作るんだもの……まぁ、その為に覚えたんだけど……」


元来治癒魔法が得意ではなかったヴェルティエであるが、人里離れた地での生活で幼いガルミアが怪我した場合に備え、治癒魔法を勉強したのであった。


……とは言え、それは簡単な道程ではなかった。


先ず、勉強の為に入手した治癒魔法の入門書が……読めなかった。幼少の頃より〝無銘の聖剣〟との単独行動しかしていなかったので、簡単な読みしか出来なかったのである。書きの方は壊滅的ですらあった……


それでも義娘の安全と教育の為と一念発起し、近隣の村へ物々交換へと行く度に、村人に教わり人並みには読み書きが出来るようになったのである。魔族であるガルミアは誰かに教わるどころか、人里を訪れるだけでも忌避され、石を投げられ追い立てられるのが必定。逆に、魔族の居住地では〝魔王殺しの勇者ヴェルティエ〟は恐れられてしまい、マトモに話も出来ないので、ヴェルティエは自分が頑張ってガルミアに一人立ちさせる為の教育をするしかなかったのである。


ガルミアがこのまま成長すれば、あと二~三年で身体は充分に一人前となる。そうしたらヴェルティエはガルミアを連れて大陸中央や各地の魔力高濃度領域を旅するつもりでいた。仲間が出来て、住み心地のよい場所が見つかればよし、それとも、この森に戻る事を選んでもよし……勇者とゆう大きな運命に振り回された自分とは違い、生き方を可能な限り自由に選ばせてあげたい、そう思っていたのである。


ガルミアは自然の中でおおらかに育ち、二人きりで暮らしていることもあり、ヴェルティエをよく慕っていた。育ちが早いからか教えられる事を次々と吸収し、何故、今の暮らしをしているのかも既に理解していた。


人から敵としてしか見られない自分と、自分の同種族から畏怖されているヴェルティエ。


二人が共に在る為には、どちらにも関わらないのが最も血を流さずに済む、最善の選択だったのである。ガルミアはヴェルティエを毛嫌いしているらしい同種族よりも、優しくて、暖かくて、サラフワもふもふな尻尾のあるママと暮らしていられる現状に不満を抱いてはいなかった。


刀身が折れ砕けてから〝無銘の聖剣〟の意識は微睡みの中にいるかのように途切れ途切れとなっていたが、時折ヴェルティエの瞳を通して見るガルミアの姿は笑顔に溢れていて、それを見るたびに幸せな夢の中に浸れるような心地よさがあった。


そんな幸せに包まれた日々は、唐突に終わりを告げる事となった。


森の住処から徒歩で一時間程度(ヴェルティエが最短距離を魔法を使って全力失踪。普通なら馬に乗って丸一日以上)の距離にある村を、ヴェルティエは半年振りに訪れていた。住処を特定されない為に、近隣に幾つかある村をその時々の気分で選んでいるのである。


「おや?久し振りだねヴェルネーさん。また、珍しい薬草でも売りに来たのかい?」


何処の村にでも大体ある、冒険者ギルド直営の万屋を訪れ、店員と世間話と愛想笑いを交わす旅の冒険者ヴェルネー。正体はフードとマントで翡翠色の髪と尻尾を隠したヴェルティエである。ギルドに未登録のフリー冒険者であっても、多少値引きはされるが、武具や薬の素材等は買い取りして貰えるので、こうしてたまに訪れているのであった。


「ありがとう。そのうちまた……」


「あ、ちょいとお待ちよ。ヴェルネーさんの耳に入れときたい情報があってね……ここ何ヵ月か前から、翡翠狼族を捜している怪しい連中が出没していてね……アンタみたいにワケアリで素性を隠している者にとっちゃ、疑われるだけでも面倒だろ?悪い事言わないから、しばらく人目を避けた方がいいかもしれないねぇ……」


「それは……何とも迷惑な話ですね……ありがとう。あまり大きな町には寄らないようにします」


店員からの情報に一抹の不安を感じ、ヴェルティエは村での用事を手早く済ませると家路を急いだ。


その時、既に魔の手が喉元まで迫っていた事も知らずに……


住処に帰り着いたヴェルティエを迎え入れたのは、愛するガルミアの笑顔ではなく、醜悪な笑みを浮かべたローブ姿の老人と、その周囲で刺激的な香を炊く、覆面姿に軽装鎧の、密偵か暗殺者といった出で立ちの者達であった。


「お待ちしておりましたよ。お久し振りですな、裏切りの勇者様」


「……アンタ、誰よ?」


「覚えられていなくとも仕方ありませんな。かれこれ十年以上前、リーイースの王宮で一度、御挨拶させて頂いただけですからな。王宮魔法師筆頭のネウグルと申します」


「リーイースの……逆恨みされる覚えはあるけど、魔王を倒して何年も経った今になって何の用?私はどの国にも関わりたくないのだけれど」


「逆恨みとは虫のいいことを……貴様が姿を眩ました事で、我が国の立場と権威がどれだけ失墜したか……」


魔王に対する唯一の存在にして、人々の希望である勇者。魔王の出現時から、勇者を発見し、その支援をする事は全ての国家にとって責務であると同時に栄誉でもある。勇者を最も支援した国家ともなれば、魔族との戦争後にも国際的に強い発言力を有する事となり、それは多大な国益を生み出す事に繋がる……


だからこそ、勇者の情報に故意に虚偽を含ませる事は許されない。


イーリース王国はヴェルティエを勇者として公認し、直ぐに全世界へと勇者発見の触れを出した。そして、各国重鎮を招いての御披露目を開催する寸前で……ヴェルティエが失踪したのである。こうして、イーリースは〝偽勇者擁立の最低国家〟或いは〝勇者に見捨てられた国〟等の汚名を各国より浴びせられる事となったのである。


「よく言うのはそっちじゃない。被差別種族が突然、勇者様扱いよ?嫌々敬ってる感が滲み出ていて……居心地悪いったらなかったもの。逃げて当然でしょ?」


それに加え、幼いヴェルティエを洗脳教育し、勇者の力を魔族相手だけにではなく、他国に対しても軍事利用しようとまでしていたのである。大国が、なんと浅はかな……


「まあ、それはそうですな。獣相手に頭を垂れるなど、今思い出しても吐き気がしますからな。それに加え……魔族を娘扱いするような気狂い、おぞましいにも程がある!」


忌々しげに声を荒げるネウグル。ヴェルティエが失踪した事で、相当煮え湯を飲まされた事は疑いようが無い。


「……それで、その娘は何処?私に何を要求しようと、娘の無事が確認出来なければ……全員皆殺しよ?」


そう、ガルミアがこの場にいないからこそ、ヴェルティエは会話に応じていたのである。もしガルミアの無事も確認させずに脅迫してこようものなら、ガルミアは既に殺されていると見なし、その報復として有言実行する事に迷いは無いのであった。


だが、恐るべき魔力をプレッシャーのように放つヴェルティエを前にしても、ネウグルは余裕ある態度を崩さなかった。


「はっはっ、これは怖い。それでは、娘も交えて本題に入ると致しましょうか」


ネウグルが魔法で上空に小さな火球を打ち上げると、そこかしこの木の陰から、ネウグルの取り巻きと同じ格好の覆面鎧が現れ……その鎧達が伴っているモノを見て、ヴェルティエは、()()を思い付いたネウグルの悪意溢れる醜い発想に、怒りに狂いそうになりながらも、恐怖を感じて身を竦ませるしかなかった。


「さて……()()が、獣様の娘でしょうなぁ?いや、苦労しましたよ。似た背格好の魔族奴隷を集め、ここまで連れて来るのには……クククッ!」


「……私がここに住んでいるのは、とうに御存知だったわけね……外道がっ!」


ソレは、頭に袋を被せられ、後ろ手に拘束された青い肌の少女達。しかも、翡翠狼族であるヴェルティエの鼻を警戒して、ガルミアを特定されないように全身を獣の血や内蔵、汚物を塗りたくられているのである。


「堕ちたとはいえ、勇者を相手にするのです。これぐらいの搦め手を用意するのは当然でしょう?さて、動かないで戴きましょうか?ああ、魔法障壁も展開してはいけません。そんな事をしたら……判りますね?」


ネウグルが合図をすると、軽鎧達が短めの詠唱で様々な下級攻撃魔法をヴェルティエに放ち始めた。ヴェルティエは成す術もなく、嵐の如く乱れ飛ぶ魔法に耐えるしかなく……魔法に対して世界最強の防御力を誇る肉体が、本来ならば歯牙にかける必要もない威力の下級魔法によって、火傷、打撲、裂傷、凍傷、骨折……肌を焦がされ、肉を抉られ、骨を砕かれる……致命傷とならない程度に急所を外されながら、それは延々と、ヴェルティエが膝を屈して地に伏すまで続けられた。


「フフフ……いい様ですな?最強の勇者であれど、弱点を突けばこうも容易く仕止められる。最早、歩く事すらままならないでしょう……さて、何の用かとの問いに、まだ答えていませんでしたな。ヴェルティエ、貴女には子を成し続けて戴きます。死ぬまでずっと、犯され続けては子を産む。それだけが、貴女の人生に課せられた使命であり、運命なのですよぉ!」


「……下衆が、どうして、そんな……」


ゲラゲラと嗤うネウグルに、ヴェルティエは声を振り絞り問い返した。


「いや、本当に、人類の為に仕方の無い事なのですがね?勇者は血縁関係からしか生まれないのは御存知ですか?勇者の血脈……その、唯一の末裔が」


ネウグルの人差し指がヴェルティエを指し示した。


「私……だけ?それじゃ、私の一族は……」


「そうです。翡翠狼としても、最後の一匹になりますな。獣とはいえ、その体毛の美しさだけは私も評価しておりますよ。だから、需要が高過ぎたみたいですな。気付いた時にはなんとやら……いやいや、勿体無い」


幼い頃に一族と生き別れたヴェルティエにとって、家族との思い出も無ければ、同族意識も無いに等しい。しかし、あまりにも非業な一族の辿った運命に、悔しさが込み上げていた。


「く、そぉ……絶対、お前らの、思い通りに、なんて……ガルミア、だけでも……」


「貴女の口から負け惜しみを聞けるとは、少し溜飲が下がりましたよ。こうなると、もう少しその顔を歪ませてやりたいですね……いいでしょう!母子に感動の再会をプレゼントしてあげるとしましょう!」


ネウグルの視線の先にいる軽鎧が、捕らえていた少女から拘束を外し、被せていた袋も取り払った。露になったガルミアの顔には殴られたような痣があり、声が出せないように縄を噛まされていた。袋越しに微かに見えていたのか聞こえていたのか、ヴェルティエの惨状を理解していたらしく、瞳の下には幾筋も涙を溢した痕が遺されていた。


「ママぁ!」


泣きながらヴェルティエに駆け寄るガルミア。ヴェルティエはガルミアに微かに微笑み――


「ガルミア……さようなら。ずっと、愛してるよ……」


駆け寄るガルミアの前の空間が黒く色付いて歪む。視界がぼやけていたガルミアは、それに気付かず歪んだ空間ごと……その場から姿を完全に、消した。


「な、何をした!?今の魔法は、一体……?」


ネウグルと軽鎧達が慌てふためく。


「……魔族の精鋭と戦った経験がないと、判らないでしょうね……召喚の、逆をやっただけよ」


強制転移魔法。特定の座標への、片道空間転移。ヴェルティエが繋げた座標は、今は亡き魔族の王の元であった。この世界で、最も正人族から遠く、辿り着けない場所へと送ったのである。


「残り僅かな魔力で、成功したかも不安だけれど……やるだけ、やった……そう、だよね?」


ヴェルティエは腰に帯びた鞘から折れた剣を引き抜き……


「次は……勇者無しで、なんとか、するのね……」


己が心臓へと突き立て、自害したのであった……


「い、いかん!直ぐに剣を引き抜き、蘇生処置を……!?」


ネウグル達の目前で、ヴェルティエの身体から生えるように透き通った鉱物が出現し、ヴェルティエを覆ってゆくと、何人にも触れさせないように封じ、閉じ込めたのであった。


「ネウグル様……これは?」


「恐らく、最上級の封印魔法〝氷晶柩牢(ひしょうきゅうろう)〟術者本人による解除か、時の経過以外では解かれぬ封印。おのれ……死後に遅延発動するようにしておったか!」


「破壊は、不可能なのですか?」


「……中身ごとならば……な。それでは意味が無い。仕方あるまい、このまま王国まで持ち帰るとしよう。なにかしら利用価値を見つけられるかもしれぬしな……それに、他に収穫もあったのだ。聖剣の欠片……コレで、陛下の機嫌を取れればよいのだがな……」


苦々しく頭を押さえるネウグル。リーイース王への報告を考えながらの彼の旅路の帰路は、とても重い足取りであった。




斯くして、勇者ヴェルティエの旅は終わった。


たった一人で勇者の使命を果たした彼女の末路……護った筈の、護られた者からのこの仕打ち、私は……君は、納得出来るか?


「出来る筈あるかぁっ!!」





恐らく、ここまでの話で一番暗い内容でした。

そしてネタバラシ回でもありました。

さて!次回サブタイトルは【逆襲】です。

聖剣くん、大暴れ!

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