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117話目 追憶

8日連続!

……これが限界です


襲い来る四属性の高等魔法。何れも無防備に直撃すれば致命傷を通り越し、即死級の威力。それが四方向より剣に迫る。


騎士達は、剣が避けないと確信している。剣が避ければ、四属性の魔法は着弾地点で激突し、炎が水と氷と反応して水蒸気爆発を起こし、風がそれを拡散させる。そうなれば、姉妹達にも必ず被害を及ぼす。例えそうなっても、周りを守られている実鳥は致命傷に及ばない……四騎士が、そこまで考えた上での攻撃であった。


だから、避けるなんて選択肢は、存在していない!


「なめんじゃねぇー!」


剣は左手に障壁を集中し、尖端部を前方に向けて円錐形に変形、更に激しく回転させて、騎士達の放った魔法を掘削し散らしてゆく。更に右手に構えたヒナを用いて、腕が何本にも見えるような速度で、砕いた魔法を更に細切れにしてゆく。緋波は本来、妖刀ではなく霊刀。悪霊を、霊力を斬り割ける刀。つまりは、元々魔力を斬り割ける特性を持っているのであった。


「クッ!まさか、障壁にこんな展開方法が……だが……!」


魔法を放つ騎士達にとっても、剣の魔法行使技量は驚くべき技術と発想力であった。彼らも戦闘中に剣との魔力総量に大差がない事には気付いていた。だからこそ〝無銘の聖剣〟の欠片を受け継ぎ、劣化した性能であるとはいえ、各々の属性に特化して魔法威力を増幅する〝聖遺八輝剣〟の攻撃を、単純な足し算で総量五倍以上の魔力量に、この瞬間だけだとしても拮抗している剣に、畏敬の念すら抱き始めていた。


しかし、これは騎士達にとっても最後の一撃。〝聖遺八輝剣〟は切り札。その絶大な威力故に、魔力を急激に消費してしまうのである。だからこそ、使ってしまった以上、なんとしても敵を倒しきらなければならない――


「食らいやがれ!で、あります!」


少女の雄叫びと共に、騎士達に飛来するカラフルな豆粒程の球体。魔法を放ち続けている騎士達は突然の事に不意を突かれ、球体は騎士達の鎧に着弾し、パンッ!と大きな音を立てて弾けた。


「うあっ!?」


耳をつんざく破裂音。初めて味わう衝撃に、騎士達は体勢を崩す。日本では何て事のない、クラッカーボールや癇癪玉と呼ばれる、火気無用の着弾式音だけ花火である。


「まだまだいく」


「動かないなら、好都合」


続いて騎士達の顔面に向かって一直線。双子の手元からロケット花火が飛翔した。小さいとはいえ、正体不明の火を吹く飛翔体に襲われ、騎士達の魔法への集中は乱されてしまい……


それでも、間に合わなかった。


四騎士の魔法が途切れる前に、剣の魔法障壁が砕け散った。


本来の威力に及ばないまでも、四属性の魔法は剣の目前で炸裂し、白煙を上げて爆発した。


「ぐああぁぁぁー!!」


剣は錐揉みしながら激しい勢いで吹き飛ばされ、ヴェルティエの眠る透明な柩へと激突し、全身から血を吹き出したのであった。それでも意識を失わず、右手にはしっかりとヒナを握りしめていた。


「にぃたん……だめ!やだあ!」


だが、姉妹達はそうもいかない。燕が思わず悲壮な叫びを上げ、誰もが言葉を失い呆然と剣を見詰める。満身創痍の剣なんて、彼女達は見たことがなかった。常に飄々と、どんな時でも頼りになるのが、彼女達にとっての剣であった。そんな剣がボロボロにされている……それでも、諦めていない。絶望するより前に、姉妹達は助けになれない無力感に苛まれていた。


そして、誰よりも苛まれていたのは、実鳥を抱き締める以外、何も出来ず、していなかった遥である。遥も桜にアクセサリーを装着され、ネウグルとリーイース王の言葉を聞いていた。そして、実鳥を目的にこの事態が引き起こされた事を知った。


それでも、遥にとって実鳥は大切で、大好きな妹であることは揺るがない事実であった。もし、実鳥が目を覚ませば、奴等の言いなりになることで、遥達の安全を保証されたりしたら、実鳥は進んで犠牲になることを選ぶ。それは、遥にとって絶対に許容出来る事ではなかった。


だから、この絶望的な状況で、遥は願ってしまった。それはとても身勝手な他力本願で、あまりに残酷であると判っていながら、それでも、頼り、縋らずにはいられなかった。


「助けて……助けてよぉっ!実鳥を助けてっ!剣ぃっ!!」


遥の必死の叫びに、剣は不敵な笑顔を浮かべて応えた。


「たりめーだ。当……然!」


誰にだって、虚勢だと解る。息も絶え絶えながらの返事。剣はヴェルティエの柩に背中を預け、擦り付けるように背筋を伸ばす。左手も柩を押すように身体を支えながら。不意に、左手がヴェルティエの胸を貫く剣の柄を握った、その時――


『何者だ?』


そんな声が頭に響き、視界に映る全てが静止した。それだけではなく、五感の全てが薄れてゆき、思考だけが妙にハッキリとしてゆく……


(ヤバイな……これ、走馬灯の前兆なんじゃ……)


『これは……どうなっている?こんな現象が、なぜ起こった?』


(この声、さっきも?幻聴にしては生々しい……ヴェルティエに刺さった剣に触れてから……この剣、まさか!)


『この子を、ヴェルティエだと知っているのか?一体、君は何者だ?』


(なんてこった……ヴェルティエが死んだって事実に意識が持ってかれて、刺さっている剣にまで気が回らなかった……そして、我ながらなんて出鱈目な……全くまさかだ、魂が、分裂していただなんて……)


『魂が、分裂?まさか……君は、私なのか?』


(そうみたいだ……魔王さんに特攻したとき以来……だな。さて、感動の再会ならぬ初対面だが、俺の視覚情報は受け取れているか?かなり絶対絶命な状況で済まないんだが……)


『私が砕けた時を知っているか……疑うべくもなしだな。まさか、半身が人の身を得ていようとは、それで、これはどうした事態なのだ?そこの娘達は?』


(全員俺の姉妹だ。血が繋がっていないのもいるが……その内の一人がヴェルティエの生まれ変わりらしい。それで、異世界から無理矢理召喚されちまったところだ)


『……そうか、死して尚、あの子を利用しようとする者がいるのか……生まれ変わってまで……そんな邪な思いに、例え大義があるのだとしても、私は許せない!』


(俺も同じだ。だが、力が及ばない……以前程の魔力が無いんだ。それに、強化と属性変化程度しか使えない……)


『私にも、かつてのような力は無い。魔力の上限も低下し、ヴェルティエとの念話でさえマトモには……?半身よ、私達は何故、こうして対話していられるのだろう?』


(そう言えば……魔力で念話している感じじゃあないな……時間も止まっているような?この感じ……翼と希が出来るって言う、テレパシーみたいな物か?あいつら魔法使えねーし。あの二人も、前世じゃ一人だった訳だし、理屈的には合ってるか?)


『元々が同一であるが故の現象……ならば、合一も可能か?』


(いや、一寸待て!それって魂をって事だよな?どうやってだ?それに、一つになれたって、こんなボロボロな肉体と折れた剣。どちらをベースにした所で……)


『それは、私に考えがある。ベースは、君だ。〝無銘の聖剣〟は、ここで終わる。どちらにしろ、私は朽ちるのを待つだけだった身だ。全てを託せる半身がその前に現れてくれたのだ。失敗しても、悔いはない』


(我ながら思い切りのよい……ま、起きるかどうかも解らない奇跡に賭けるより、起きるかもしれないバクチの方がマシか……オーケー!やろうじゃないか!)



『そっくり言葉を返すぞ半身よ。では、合一の後に、私達がどうなるか私達にも解らない。その前に、魔王ガルザートとの戦いのその後……重要な情報だけでも、予め伝えておこう』




「これは、助からんな……」


〝無銘の聖剣〟の自爆により、首から胸にかけ、そして右腕以外の肉体を粉微塵に爆散させられていた。最早、数分後には訪れる死を待つだけでありながら、ガルザートは重責から解放されたかのように、穏やかな表情をしていた。


「……まるで、そちらが敗者のような顔だ。クク……あまり、がっかりさせてくれるな……余に、勝ったのだぞ……」


ヴェルティエはガルザートの直ぐ傍にへたりこみ、呆然とした表情で地面に突き立った、折れた〝無銘の聖剣〟を涙を流して見詰めていた。


「大した……剣だ。その剣に、育てられたのであろう……胸を張るがよい、二人での、勝利なのだ……」


ガルザートはそれ以上は口を開かず、静かに目を閉じた。


それから、どれだけの時間ヴェルティエはそうしていたのか、涙も枯れ果て、折れた剣を拾おうと手を伸ばし――


『ヴェルティエ、ごめん。心配……させたね』


「聖剣さん!?生きてた?生きてたぁ!」


驚き、喜びに溢れた顔からは、再び涙が沸き上がった。


『はは……死に損ねたみたいだ……こうして、触れてくれないと念話が届かないぐらい、力も失ってしまってね……こうして話すのも、かなり……辛い……』


「いいよ!生きててくれれば!私の……傍にいてよ!もう……戦わなくていいんだから!」


『いるよ……ずっといる。時々しか、話せないだろうけど……傍に……いるから……』


ヴェルティエは〝無銘の聖剣〟の生存を確かめると、生きる気力を取り戻し、自身の鼻を頼りに散乱した聖剣の欠片を集め始めた。聖剣を修復する事で、その力を取り戻す希望を胸に抱いて。


それを終えると、ガルザートの剣を墓標に、彼を弔った。宿敵であり、天敵でもあったが……ヴェルティエには彼を悪だとは思えなかった。


その後、ヴェルティエは人知れず人族の勢力圏に戻り、辺境を転々とする生活を始めた。それは、国家に属さず、自分の力を他者に利用させない為。〝無銘の聖剣〟を手にして以来、そうした生き方を教わり育った彼女にとって、それは正しく自由なあるべき姿であった。


そんなある日、天然魔力活性地付近にて、ヴェルティエは目撃した。この世界の大半を占める、正人族による魔族狩りの痕跡を。辺境の、それも森林の中にある村でのこと、まだ略奪と破壊の痕跡も新しかった。その地で、ヴェルティエにとって人生の転機となる出会いがあった。


魔族の、女の子の赤ん坊が隠され、生き延びていたのである。ヴェルティエは数日を村で過ごして逃げ延びた村民が戻ってくるのを待ったが、誰も帰っては来なかったので、連れて行く事にした。ヴェルティエにとって最も印象的な魔族である魔王にあやかり、その子はガルミアと名付けられた。


それからの三年、ヴェルティエの人生にとって、とても幸せな日々が続いた。ヴェルティエは山奥に見つけた小屋に定住し、ガルミアと共に生活を始めた。魔族の成長は早く、魔力濃度によっても変化するが、エルヴィアスの通常濃度でも正人族の三倍は早く成長する。ガルミアはヴェルティエを母と慕い、母子は仲睦まじく平穏に暮らしていた。


イーリース王国の、勇者捕獲部隊に発見される迄は。




明日から仕事なんで、更新ペース落ちます。

シリアス展開続きますが、キャラの〝らしさ〟は大事にしたいと思っております。

エルヴィアス編のサブタイトル、漢字二文字で統一しよーと決めました。

次回は【悲劇】ヴェルティエの最期を書きます。

剣さんのチートはちょい待って!

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