113話目 スイカを割ろう!
なんとか四日連続!
スイカ割りするだけのお話しです。
斬鉄剣――血よりも紅いバットには、そう書かれていた。
「これは……正当な対価と引き換えに願いを叶えてくれる店主のお気に入りの……アレか?」
「鉄パイプ……あ、革命軍のお兄さんの……」
「燕が振り回してるの、ロ○の剣?刀身凄く短いけど……」
「おい……剣と呼ぶにはあまりに武骨で巨大なアレみたいなのが……」
桜が持ち込んだ鈍器の数々……それは、自身でコスプレに利用した小道具であり、イベント会場でレイヤー仲間と友情交換した思い出の品々でもあった。……単なるガラクタも中にはあるが。
「どうぞどうぞ、お気に召したウェポンで、さっくり割っちゃって下さりませ!」
「いや、バットか木刀あれば事足りるっての……こないだ買ってきてやったじゃん?」
「偉大なる兄様より賜った木刀でスイカを割るなど、なんて畏れ多い!」
「お前な……もっと色んな物を大事にしろや」
自分を崇拝し過ぎな桜に軽く目眩を覚えつつ、剣は早速スイカを設置した。スイカを二つ用意したのは単純に量的な問題と、一つは燕に割らせてあげたいと思った兄心からである。燕にとっては初めてのスイカ割りだ。当然幼児の力で割れる程、スイカは柔な皮で覆われてはいないが、上手く当てればヒビを刻むくらいは出来るだろう。今後スイカ割りを楽しいと思えるかは、最初の思い出が肝心であると、剣は考えているのである。
「じゃ~……最初は燕、やるか?」
「はい!いっとーりょーだんするっ!」
高々と勇者の剣を掲げる燕。その剣でスイカを斬る事は無理であろうが……
「……ま、雰囲気を楽しめればいっか」
燕の体格では、大人用のバットでは逆に体を振り回されるだろうし、気に入った武器を使わせた方が楽しいだろうと、誰も余計な言葉は挟まなかった。
燕は開いた目が描かれたアイマスクを装着され、その場で三回回転させられると、剣を両手持ちで大上段に構え、ちょこちょこと進み始めた。
「燕ー、そのまま真っ直ぐよー!」
「ばめたん、一寸右!お箸を持つ方!」
「そうそう、もう少し前!」
姉達のナビを頼りに、燕は蛇行しながらもスイカへと着実に接近してゆく。そして、もう一歩で剣を降り下ろすベストポジション――で、砂に足を取られて……前のめりに、コケた。
「んみゃっ!?」
可愛らしい悲鳴を上げて、燕はスイカに……激突した。とても、鈍い衝突音をさせながら。
慌てて全員が燕に駆け寄ると、大上段に構えていた事が偶然にも幸いしてか、握った拳をナックルハンマーのようにスイカに打ち付けていて、腕から腰までのラインがアーチ状に曲線を描き、頭とスイカの間には隙間が生まれ、燕は無傷であった。
皆がほっと胸を撫で下ろす一方、体を起こして座り直し、アイマスクを外した燕は、スイカが割れていない事に不満そうに顔を歪めたのであった。
「……ばめ、われなかった……」
スイカには、勇者の剣が刺さっていた。……刀身ではなく、柄の先端が、であるが。もうすぐ三歳児が計らずも全体重を乗せた一撃だったのである。柄が刺さっただけでも充分な成果と評するべきなのであるが……
「あ~……ホラ、目隠ししてたんだから、当てただけでも燕は大したもんだって!何なら、もっかいやるか?」
遥にリトライを薦められるも、燕は首を振って辞退した。
「ばめは、このげぇむにまけたの……まけはいさぎよくみとめるの……じゃないと、かっこわるいから……」
とても悔しそうではあるが、燕は駄々を捏ねず、順番を譲る意を示したのであった。
「……光さん、燕ちゃんって確か、今月三歳になるんですよね?普通、この年頃って、こんなに聞き分け……」
「う~ん……ウチの常識だと、コレは異常じゃないのよね……小さな頃、我が儘だったの小町ぐらいだし……」
「光姉さん……幼児期の恥部を明かすのヤメテ……」
前世を覚えていた兄と姉達、母子家庭で育った梓と比べてしまったら、精神的発達が遅かったのは仕方の無い事である。小町はごく普通な子供だったのだ。小町は何も悪くない!
「それじゃ、次、私……いいですか?」
おずおずと挙手しながら、出番を求めたのは実鳥であった。珍しく、自分からの積極的な参加である。
「お!どりりん乗り気だね!そういや、どりりんもスイカ割り初めてなのかな?」
「実は……けっこう楽しみにしてました!」
「そりゃやんないとだね!で、どれ使う?斬鉄剣?それともドラゴ○殺し?最近のだと、反魔法の剣なんかもあるよ!」
「えっと……やっぱりファーストインプレッションで……コレにしようかな」
実鳥が選んだのは、鉄パイプであった。何の変哲も無く、名も無く特殊能力も無い、一流職人が己が魂を込めて鍛え上げた業物でもない、ゴミ捨て場で拾ったような鉄パイプである。
「強くてカッコいいキャラが持つと、何故かステキ武器に見える不思議なアレだ」
「極端な話、大魔王がナイフを持つだけで強くなる的な」
凡そ、三下小悪党しか使わなかった在り合わせの代用武器が、大出世したものである。国民的漫画の影響力たるや、偉大にして恐るべし……
さておき、実鳥は鉄パイプを素振りして、使い心地を確かめていた。長さは約1メートル。片手でも満足に振り回せる重さで、スイカを割るには一切問題ない得物であった。
「うん。これなら、イメージ通りにいけそう!」
実鳥は尚も、鉄パイプを剣のように縦・横・斜めと空を斬り裂き、8の字に振り回したりして、自分の腕に馴染ませた。
「……どりねぇ、かっこいい!つよそう!」
悔しさを堪え、ムスッとしていた燕が、それを忘れて魅了されてしまうほど、鉄パイプを振り回す実鳥の姿は、まるで達人剣士であるかのように、様になっていた。
「そ、そう?適当に振り回してただけなんだけど……」
「いや、私から見ても、今の実鳥義姉さんは素敵に見えたなぁ。太刀筋に迷いが無い感じがして……何処かで剣道やフェンシング……習っていないよね?」
つい最近まで、小町は実鳥と一緒に小学校を登下校していたのである。帰宅してから就寝まで、実鳥が外出している様子はなく、習い事などしている筈もなかったのである。小町が疑問に感じるのは当然と言えた。
「ふむ……はるるんといい、どりりんといい、やはりチートなばめたんの姉ではあった訳なんだねぇ」
遥にニヤニヤ笑顔を向けてからかう梓。遥の平手打ちにタイミングを合わせ、剣が何かをしたと確信しているが故である。
「だから!アレはアタシの力だけじゃねぇっての!こう、超自然的なナニカが、ぐぅ……説明にならねぇ」
「安心して、はるるん。私ははるるんが厨二能力に目覚めた異能戦士になっても、一生仲良しでいるからさ!」
「んなモンに目覚めてたまるか!目覚めても一生秘匿するわ!」
「そうだね……鼻に詰めた豆を発射すると確実に命中する能力なんて、恥ずかしくて秘匿するしかないよね……」
「やめろ!能力確定したみたいな口振りやめろ~!」
漫才染みた掛け合いを始めた梓と遥。姉妹達の注目は、実鳥の見事な立ち振舞いから、完全に反れていた。
「なんだかんだで梓と遥、仲良くなったわよね~。始めの頃の険悪な雰囲気が嘘みたいに」
「そうなんですか?……言いたいことを遠慮無く言い合えてる感じで、とても、信じられません……」
同居開始当初、男性不振で男性に依存しがちな母親とも関係が良好ではなかった遥は、梓を男に依存する最も苦手で嫌いなタイプの恋愛脳女子だと捉えていたのである。元々再婚自体が上手くいく筈がないと考えていた遥の苛立ちの矛先は、唯一の義兄である剣に向かうのは必然であった。
剣にとっては、遥に何をされようと受け流せる度量はあったのだが、梓にとってはそうでなかったのである。時には口汚く罵りあったり、取っ組み合いの喧嘩もしたり……そんな過程を経て、今の関係が築かれているのである。
「まあ、お互い元々裏でねちっこい事をする性格ではありませんでしたから。どうあっても折れない梓姉様に、遥義姉様が根負けした、みたいな感じでありましたのです」
「ん、梓ちゃんはウチの姉妹で精神力最強」
「喧嘩した後、毎回みどりんに謝ってたのが凄い」
実鳥が気に病まないように、梓が毎度アフターケアしていた事を後に知った遥が、自身の未熟さに悶絶して葛藤を抱えたりする羽目になったのは、言うまでもない話であった。
「……そろそろ、割ってもいいかな~?」
しゃくしゃく、しゃくしゃく、噛む度に心地好く抵抗少なに砕ける果肉。溢れる果汁は甘く冷たく、火照った身体に余さず吸収されてゆく……
「いやはや、素振りもそうだったけど、みどりんの一撃は見事だったね~。正に!電光石火の一刀両断!綺麗に真っ二つに割れたもんね~……けんちゃん、なんか元気なくない?」
「へ?……いや、さっきの実鳥ちゃんの構えとかが……似てる気がしてな……ま、考えすぎなだけ……だな」
「なんか歯切れ悪いな~。ま、考え纏まったら話してよね」
「ああ……」
剣自身、自分が目にした光景が何を意味しているか、結論を出せずに……出したくなかったのである。実鳥の太刀筋、構え、それがあまりにもよく知る少女と似ていた事から導かれる事実……偶然だと片付けてしまいたいと思ったのである。
剣の体感ではあるが、地球と異世界の一日の長さに大差はない。そして、二つの世界に流れる時の流れが一定であるなら……あれからほんの四年後には……そうゆう事になってしまうからである。
(ま、確かめに戻るのも無理だし……それならそれで、ここにいるあの娘を……姉妹を守る事に集中しないとだな)
剣はスッパリと考え込むのを止めた。元来ウジウジ悩むのは苦手な質である。そうでなければ、気の遠くなるような長い年月を耐えられる筈もなかったのだ。
「それはそうと、斬鉄剣を構えた姉さんもハマッてたよな……スイカは粉々になっちまったけど……なぁ桜。アレ、姉さんに次元の魔女のコスプレさせたくて?」
「モチ!似合わない筈がないのであります!」
「そうか……お前がいつも通りで、落ち着くわ~」
悲劇かもしれない事象の隣に、喜劇あり。何とも人生とは短く目まぐるしい。取り敢えず今は、スイカが美味い。大切な姉妹達と海で食べるスイカは格別なのであった。
「さて……水分と糖分は補給完了した」
「それでは、ビーチを征服してこようか」
双子が立ち上がる。今日とゆう喜劇を、最高のフィナーレで飾るべく。
少々、異世界編や過去に絡む話を入れてしまったり……
桜は相変わらずでしたけどね!
次回で海・水着回終了します。
ジェミニ・オン・ステージ!
ばめたん、今際の国でなくて良かった!




