第44話 水聖の導き
「……ユキア様、”今すぐ”というわけではありませんが、私は”もう手の施しようがない”と申し上げました……同情……いや、何かお考えがあるのですか?」
コリウスさんが怪訝な表情で訪ねてくる。そりゃそうだ。論理的な思考で行きつく行為ではない。ただの……偽善、欺瞞、自己満足……娘への贖罪……
だが、”考え”があるわけではないが、”何か”があるのだと思う。なんせ、『水聖の幼女』が導いたのだから。
「はい、そう捉えていただいて結構です。それで、”売り物ではない”とおっしゃっていましたが、売ってもらえますか?」
「ユキア様が望まれるなら喜んで。価格は、そうですね、当館の販売最低価格である金貨10枚でどうでしょう?」
「了解です。お願いします」
”安い”とは思わない。今後のライノ商会でのミリィの維持費を考えれば、無料でも引き取ってほしいだろう。ドライな考えで言えば『不良債権処理』と同じだ。
「わかりました。ただ、正式に契約していただく前に、きちんと”商品”の状態説明をしなければなりません。それでご納得いただけたら、奴隷契約を交わします」
「ありがとうございます。お願いします」
さすが、ミレイさんが信用を寄せる奴隷商だ、まっとうな商売をしてくる。
ミリィの健康状態は先程聞いた通りだ。回復薬水を毎日とはいかないまでも、定期的に施さなければ、この酷い匂いを抑えられず、何より火傷の箇所が広がっていく。これだけをもってしても、普通の火傷ではなく、何かしらの”尋常ならざる力”が働いているのは間違いない。先ほど、【治癒術師】のサフィアさんが、魔素による治癒術、回復魔法が効かないので、『聖霊族』の力が働いているのではないか、と言っていたな。『水聖の幼女』が導いたことといい……その線だろうか?
考え事をしていたら、無意識にミリィの頭を軽く”なでなで”していた。していたのだが、頭ごわごわだな! 洗わなきゃ!
「……そして、その火傷は頭、頭皮にまで現在及んでいます。通常の水はおろか、魔法水でさえも、火傷にかかるとひどく痛みが出るため、頭も洗えず、身体も火傷の影響のない手足しか洗えていない状態です」
なるほど、そういうことか。身体の清潔さを保つためにも、ますます回復薬水が必要だな。確か『薬師ギルド』に加入したら、薬水、薬丸は割引があったよな。それに自分が採取してきた魔草を使えば、さらに割引が効く。これは加入必須だ。それに……
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---魂の操作盤・弐---
【魂の配分】
・体力:24
・筋力:11
・敏捷:10
・器用:10
・知力:16
・耐性:11
・内在魔素量:79
・魔素調整力:117
【魂の回廊】
・薬剤生成(60) ・清浄水魔法(60) ・水魔法(20) ・水聖魔法(180) ・剣技(30) ・戦技(30)
~~~~~~(中略)~~~~~~
・状態異常耐性(70) ・気殺(180) ・状態異常無効(140) ……………
【隷属・魂操作盤壱】
【隷属・魂操作盤弐】
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【薬剤生成(60)】……これを取得すれば、自分で回復薬水を作れるはずだ、多分だけど。魔草を自分で採取して、回復薬水を作る。これで生計を立てるか……?ミリィと二人なら、それで慎ましく暮らしていけそうだ。
でも……やっぱり、俺は強くなりたい。あの人と……
思考がそれ始めた頃、コリウスさんの説明が終わった。要はミリィを養うのは大変だってことだ。本来、奴隷というものは主人の役に立たせるために購入するものであって、奴隷を養うために主人の出費がかさむという本末転倒な状態になるが、本当にいいのか、ということだ。たしかに、回復薬水には相当なお金がかかる。
だが俺には”もしかしたら”という思惑があった。
『アレなら大丈夫なんじゃないか……?』
「もう一度申し上げます。我々も手を尽くしましたが、ミリィの傷を治す術を見つけられませんでした。回復薬水を使い続けたとしても、現状維持がせいぜいです。本当によろしいのですか?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
即答だ! 男に二言はないとは言えないが今はないっ!
「…………こちらこそ、ミリィをよろしくお願いします。ただし、お引き渡しは明後日でよろしいでしょうか? お客様にお渡しするまでに、最低限の処置は施したく存じますので」
なぜか、コリウスさんはまぶしいものでも見るかのように、俺を見た。
「そうしていただけるとこちらも助かります。なにぶん今日買う予定はなかったので、何も準備をしていません、あはは」
「今後のお付き合いを期待して、最低限のものはこちらで用意しましょう。それに……久しぶりに、清々しい気分になりました、はっはっは」
なんか気分よさそうだな、コリウスさん。まぁ、よく分からんが何よりだ。あらためて、俺はミリィに向き直る。
「というわけだ。よろしくなミリィ。ああ、まだ自己紹介をしていなかったな。俺はユキア・ベオルーク、冒険者をやってる、まだFランクの駆け出しだけど。頑張って君を養っていくから」
ミリィは何が何だか分からないような表情を浮かべて、口をパクパクしている。まぁ、だろうな。俺も何が何だか分からないよ、だから同志さ!
「…………あ、あの、なんで私を……? 私、こんな状態だし……」
「さぁな、俺も分からん。だが、まあ、これも巡り合わせだ。俺は今、『水聖の導き亭』って宿に泊まってるんだけど、水聖様のお導きかもなー」
本当に導かれたし! 当初の目的とは程遠い結果となったが、なぜか後悔はない。
「あ、そうだ。コリウスさん、一つお願いが。ミリィも、その、女の子にこんなことするのは、すごく気が引けるんだけど……」
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