第38話 ライノ商会
「お待たせいたしました。ライノ商会ルーベリス商館、館長を拝命しております、コリウス・ライノと申します」
「これはご丁寧に。わたくし……あ、えーっと、冒険者のユキア・ベオルークです。まだFランクです」
初老の域に差し掛かろうか、というくらいの紳士が丁寧に挨拶してくれたため、思わず名刺を出そうかとしてしまった。
「ははっ、お若いのに礼儀正しい方ですな。さすが、ミレイ・オハラ統括官に一目置かれる方だ」
やはりここでもミレイさんの御威光は健在だ。そして、『威を借る狐』も健在だ。
「それで、当館を見て回りたいとか。ご希望があれば、予算と照らし合わせて、こちらで見繕いますが?」
「ありがとうございます。今現在で探しているのは『荷物持ち役の職なし健常奴隷』ですが、ゆくゆくはメンバーを増やしていく予定です。可能なら相場を確認させていただき、今後の資金繰りのため、勉強させて頂きたいと思っております」
正直、今、そこまで考えているわけではないが、相場を知るのは大事だ。いわゆる市場価格調査だ。
それに、今の俺の現状を打破するためには、『隷属者』が必要なのだと思う。確証はない。ないが、昨日の夢に出てきた言葉……『隷属者、”魂を束縛されし者”、そして『魂の共有者』が、あなた様の力となります……』
”魂~~”は正直何のことか分からない。だが、『隷属者』とはどう考えても奴隷のことだろう。
もう一つ、【魂の操作盤】にある【隷属・魂操作盤壱】。これを考察するに奴隷の【魂の操作盤】を操れる可能性が大きい。
「……今後の継続的な購入を匂わせつつ、その裏付けに『オハラ統括官の紹介状』と、なにより『講習生存者』の称号。失礼ながら、見かけによらず……いや、むしろ見た目と発言内容のギャップで、相手の心を揺さぶる……まさに手練れの商人のような立ち振る舞いをされますな」
ギャップ萌えとか狙ってないし! それと『講習生存者』……なんだその称号……称号って『竜殺し』とか、なんか、もっとこう……
俺が微妙な顔をしていると、コリウスさんは人好きのする微笑を浮かべて軽く頭をかいた。
「はっはっは、あなたのように美しい方に『手練れの商人』は失礼でしたな」
いや、そこじゃない!
「まぁ元々、オハラ統括官の紹介状をお持ちの時点で、最大限の便宜を図らなければならない立場です。加えて、聡明で美しいユキア様のためなら、喜んでご案内させていただきましょう」
さりげなく俺の手を取ってくるコリウスさん。うわっ、若い頃はさぞモテただろうな。女性のエスコート慣れしている。いや、俺は女性じゃないけど。
「あ、あの、奴隷に関する商習慣を全く知らなくて。こういう要望は相当な無理を申してますか?」
「……本当に商人のような思考ですな。そうですね、奴隷市場は一般的に開かれた市場ではありません。無論、相場というものはありますが、個別の交渉や、または時期や条件によっても変わりうるものです。例えば平時と戦時の違いとか。ゆえに今回のように館内を案内するというのは……」
コリウスさんはニヤッと笑って続けた。
「少なくとも当商会では、伯爵以上の貴族か中央政府の高官にしか、したことはありませんな」
――――なっ、な、な!
「あ、あの、やっぱり……」
「はっはっは、どうかお気になさらず。『ルーベリス浄化作戦』の折は、当商会もだいぶ儲けさせていただきましたので。オハラ統括官のご要望とあらば、この程度のことは些細なことでございます」
茶目っ気のある笑みを浮かべて、コリウスさんは俺の手を引いてくれた。だが、もう一度俺を振り返る。
「ああ、それと当商会のような帝国政府公認の奴隷商以外では、館内全てを案内して奴隷を選ばせる所もございます。しかし、それは奴隷の正確な能力査定をしておらず、適正な価格設定がされていない可能性が高こうございます。玉石混交であり、価格も奴隷商の言い値となる場合が多ございますので、確かな”見抜く目”が必要ですぞ」
◇
「奴隷は商品とは言っても、品物のようにただ並べておくというわけにも参りません。それぞれが適性に合った仕事を日々こなしていきます。質を保ったまま維持していくためにはそれなりの費用がかかりますからな」
なるほど、それはそうか。ここの商品とは”人”なのだ。当然、日々の生活に金がかかる。その食い扶持くらい自分で稼がせれば、維持費はかからず、売却益は丸々商会のもの。
そう説明をしながら、コリウスさんは建物の裏にある野外の広い修練場に案内してくれた。 そこには2、30人の男女が木製の剣や槍などを手に鍛錬している。
「ここにいるのは戦闘奴隷として売り出すことができる者達の半数です。残りの半数は迷宮やディック平原にて魔物魔獣狩りに出ております。戦闘スキルの維持向上のため、遊ばせるわけにはいきませんからな」
け、結構激しめにやってるな、うわっ……めっちゃあの人、撃ち込まれてる。あざとか、え? 腕折れてんじゃないの? 変な方向に曲がってる。
そのケガ人がうずくまっていると、若い女性がスススッと近寄ってきて、折れた腕に手をかざしている。淡い光が腕を包む。あれってもしかして、
「彼女は【治癒術師】、治癒術の使い手です。彼女にもこうやって治癒術の修練を積ませているのです」
「か、彼女も奴隷なのですか?」
「もちろん。ただ、彼女はそれなりの価格となりますよ。治癒術師自体がとても貴重ですし、彼女は見目も良く若い。性奴隷としての価値もあります」
「い、いかほどですか?」
「最低でも……」 コリウスさんは指を一本立てた。
「え? ひゃく……?」
「まさか! 最低でも1000万バース以上となりますな」
ふふふ……なるほどね。まさしく”桁違い”! ようやく100万に届くかどうかの私には関係のないお話でした。ハイ次~、って元々戦闘奴隷は今回は考えてなかったし!
にしても、こちらの世界はローンなどなく、基本『ニコニコ現金一括払い』だ。こうなると本当の金持ちしか『戦闘奴隷』は買えないんだろうな。
うーん、今回は運よく支出も少なく済んで月40万程稼ぐことができたが、これから諸々出費もかさんでくるだろうし……無理だな!
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