第37話 奴隷館
「どうしたの? あらたまって相談って??」
俺は今、冒険者ギルドの一室でルーシェさんと向かい合っている。俺が相談を持ち掛けたのだ。俺はルーシェさんの目をまっすぐ見据えて、ゆっくりと口を開いた。
「今すぐというわけでもありませんが、『奴隷』の購入を検討しています。つきましては、信用できる奴隷商を教えてほしいのです」
ルーシェさんは表情を崩さず対応してくれた。
「そうですか。わかりました、自由組合連盟に加盟している奴隷商はいくつかありますが、ギルマスやミレイさんも信用を寄せているところをご紹介しますね」
「ありがとうございます」
俺は静かに頭を下げた。
「でも、ユキアさん。わかっていると思いますが、『ミレイさんレベル』はたとえ帝都の奴隷商でも存在しませんよ。存在したとしても、国家予算を傾けなければ購入はできないでしょう。あなたの好みである『優し気な美人お姉さん』系はもちろん、いるとは思いますが、ミレイさんに比べれば数段、いや、数百段レベルが落ちます。購入資金を鑑みて、当然どこかで妥協しなければなりません」
そこまで言って、ルーシェさんは少し悲し気に微笑んだ。
「……ですが、ミレイさんに比べて数百段レベルの落ちた『優し気美人お姉さん』奴隷に……いじめられ、虐げられ、踏みつけられたところで……あなたの、その……真なる変態性を満足させられるかどう……」
「欲しいの……性奴隷ちゃうわっ!!!!」
タメが長かった分、全力でツッコんだ。「ぶはっ!」とルーシェさんが噴出して、腹を抱えて笑っている。なんだこのコント! まぁ、これが最近の俺とルーシェさんの通常営業だ、楽しい。
「あはは……ごめん、ごめん。でもちゃんと紹介するよー。実はミレイさんから『紹介状』預かってるから」
「え? ミレイさんが?」
「うん、”ユッくん”は『特殊固有スキル持ち』だから、他の人とパーティー組みにくいだろうからって。あ、でもスキルが何なのかは知らないから、安心してだって」
……ミレイさん。別にミレイさんになら洗いざらい全てを知らせて、そのまま、傍にいさせてほし……いや、ダメだ。それは完全に依存だ。俺はあの人に受けた恩を返して、役に立ちたい、堂々と横に立ってたいんだ。
俺がミレイさんへの思いを確かめていると、珍しく、少し愁いを帯びた感じのルーシェさんが呟いた。
「……いいなぁ、愛し愛され……相思相愛だね」
「……え? ルーシェさん??」
「あはは、いやいや~ じゃあ準備してくるから待っててねー」
いつものルーシェさんに戻り、紹介状を取りに部屋を出て行った。
◇
ルーベリス西地区。いわゆる歓楽街と言われる夜の街。一昔前は治安もあまりよろしくなかったと言われるが、『ルーベリス浄化作戦』以降は、だいぶ治安も回復してきたという。
「でも、裏路地とか、人目のつかないところに行っちゃだめだよ。特にユキア君は」
とルーシェさんに釘を刺された。だが、言っても”歓楽街”だ。客が来なければ商売あがったりなわけで、悪い人達も露骨には”客”や”そこで働く者”と思しき人たちには、手を出さないとも言われる。まぁ、裏町には裏町のルールというものが存在するのだろう。
だから、”客ですよ”アピールで完全装備の冒険者風で行くことにした。にもかかわらず、「ヒュ~、嬢ちゃんどこの店だよ??」などと声をかけられたが……”ここで働く者”に間違われたのか?? そんなコスプレ店でもあるだろうか?
「ここか……」
西地区大通りに面するレンガ造りの立派な3階建ての建物。大きな扉は開放されており、壁にもガラス窓が多い。清潔感のある開放的な建物だ。
イメージと真逆だな。もっと薄汚れた建物で、薄汚れた檻の中に薄汚れた美少女が怯えた目でこちらを見上げてくる……そんな美少女に優しく接して、一気にご主人様の株を上げるぜ! みたいな安易な展開は期待できなさそうだ。 まぁ、買いに来たのは美少女ではなくて、荷物持ち役の健康おっさんだけど。
中に入ると檻に入れられた美女たちが並んで……いることもなく、いくつかの応接テーブルと、正面カウンターがあるだけだった。
「いらっしゃいませ、ご用件をお伺いします」
カウンターにいた燕尾服っぽい制服を着た中年の男性が声をかけてくれた。
「あ、はい。あの、今日すぐに購入というわけではありませんが、検討をしております。奴隷を見ることは可能でしょうか?」
「はい、ご要望をお聞かせ願えれば、こちらで厳選してお見せすることは可能です」
やはりその形式か。面倒くさいし、時間かかりそうなんだよなぁ。
「あの、こちらで館内を見て歩くというのはダメなんでしょうか?」
セキュリティー上、ダメだろうけど、聞くだけ聞いてみる。もしかしたら、
「さすがにそれは……しかるべき方の紹介状でもあれば別ですが」
キタ! 俺の見た目からして、断るための決まり文句のつもりで言い放ったな! 最初から紹介状を見せても、もしかしたら断られたかもしれないから、先に言質をとってやったのさ!
ドヤ顔になりそうなのを抑えて、懐から紹介状を取り出す。
「一応、冒険者ギルドからこれをいただいてます」
えっ! という顔を浮かべて男性店員は紹介状を受け取る。そして中身を見て「ひへぇ!」という奇妙な声を上げた。
「そ、そちらにおすわりになって、しばらくお待ちください。おい、お飲み物をお出ししろ!」
別の女性店員さんに命令して、男性店員はそそくさと奥に引きあげていった。
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