第35話 魂位
…………取り乱してしまった。声、外に漏れてなければいいけど。
いや、まぁ、わかってはいるんだ。これはRPGじゃない、毎日飯食って、排せつして、感情に振り回されて……しっかりと現実なんだ。だから40~50時間でクリアできるようなRPGみたいにボンボンボンボン、レベル上がって行ったら、それこそ『Level9999』なんて世界になってしまい、魂位が1上がったからって、大したことにはならなくなる。現実としてこの世界が動いているなら、自然とそれは、淘汰も含めて調整されていくはずだ。まさしく市場経済の『神の見えざる手』のように。
一度、ルーシェさんに「魂位ってどれくらいの期間で上がるもんなんですか?」って聞いたことがある。
答えは「え? そんなの人それぞれだよ……」って言われた。そうですよね。それでも「目安とか」ってしつこく聞いたら、
「上級冒険者になる人は月に1~4は上がるって聞いたことあるけど、中級に上がれない人とかは、年に2、3くらいしか上がらないらしいよ」
……だそうだ。
そもそも、『魂位』なんて、エルウェ教神殿で高い金払って【魂鑑定】を受けなければ知りようがなく、そんなに頻繁に受けるものでもないらしい。せいぜい数年に一度くらいとか。
【魂鑑定】は、人々が『職』を得るために、エルウェ教神殿にそれ相応の寄進をして受けることができる。帝国民であれば15の歳に無料で一度は受けることができるらしいが、そこで『職』を得ることができる人は稀だという。
それで、特に冒険者だと、経験をある程度積んだ後に【魂鑑定】を受けて、結果3割くらいの人が『職』を得ることができるのだという。
その際に、『職』を得ることができなくても、スキルだけを得ることもあるらしい。ま、スキルだけなら自然発生的に取得可能らしい。要は鍛錬していれば、いつの間にか使えるようになりました、みたいな。確率は低いらしいけど。
「にしても、俺みたいに毎日ステータスボード的のものを見れるわけでもなければ、いちいち『魂位』なんて気にしないか」
俺は子供の頃からRPGが大好きだった。ストーリー自体に引かれることも多かったが、レベル上げやキャラクター育成に時間の多くを費やしていた。だからこの【魂の操作盤】を見た時は、だいぶ興奮したのだが……
「……『魂位』が上がらなければ『魂の欠片』が得られない。それがなければ、ただ毎日同じボードを眺めているだけ……」
RPG理論で考えると、魂位が上がらないのは魔物を倒した際に得られる経験値が低いから。ルーベの森のE、Fランク相当の弱い魔物ばかり倒しても必要経験値が足りないのかもしれない。大聖魔雪山ヴァルベストで古代種を数匹倒したら、確か一気に魂位が上がった。これはやはり”古代種”が『強い特殊固体』だったから、得られる”経験値的なもの”が高い値だったのだろう。
だが、この世界の魂位とは魔物、魔獣を倒さなくても、普通に非戦闘の職業で働いているだけでも上がるらしい。魔物や魔獣を倒すことだけが魂位上げにつながるわけではなさそうだ。……が、魔物魔獣狩りをする冒険者のほうが、一般人より魂位は高いようなので、それが魂位上げの足しになることは間違いないはずだ。
「ルーベの森も魔草採取をすれば稼ぎ自体は悪くないんだけどな。ただ、魂位を上げるための魔獣狩りをするなら、ディック平原の方が上か……だがあそこで活動するためには、”荷物持ち”がいないとな……」
資金面においては『トランキーロ』でよかったが、魂位上げのためにはルーベの森よりディック平原。そしてディック平原で活動するためには、やはり必要だな……本格的に探しますか。
「いや、でも奴隷とはいえ……いきなり知らないおじさんと2人で活動とか、気まずくないか……気が合わなかったらまた売れるのかな」
うわっ、人権意識が薄れてるな……普通に人身売買ありきだ。
あ~~、魂位がどんどん上がれば、ソロでいけるのに……
「俺、上級冒険者にはなれないのかな、一か月活動して全く魂位上がらないとか。いくら魔獣が弱くても、魔獣狩りしていない人でも魂位上がるって言うのに……」
俺には【魂の操作盤】がある。『職』はさておき、エルウェ教神殿で『魂鑑定』を受けなくても、『魂の欠片』さえ得られればスキルを取得できたり、ステータスアップをできたりという超チートがある。魂位上げ以外で『魂の欠片』を得られる手段があればいいのだが……
はぁ~~、寝よ。
◇
「……ィル様の魂には、いまだ【封魂】の影響が色濃く残っています。これでは転魂するだけで、すべての魂力を使い果たしてしまい、魂位を上げることもままならないでしょう……ですから、私があなた様の『魂の共有者』として、あなた様の”導き手”となります。隷属者、”魂を束縛されし者”、そして『魂の共有者』が、あなた様の力となります……」
「……や、やめ……」
声が出ない。もうそんな力もないのか……やめろ、マルウェラ、そんなことしたら、お前の魂が……
「どうか、どうか……あの方を、あなた様と”魂を分かちし者”であり、”魂の共鳴者”でもある……エル…ェ様を………………【魂の共有】」
——暖かい、翠緑の光が俺を包み込んだ。
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