第32話 ギルマス
「迷宮ヴァルベストがいつ開放されたのかは、正確には分らん。だが、100年以前であることは確かだ。『古代種』とは開放された迷宮から出てきた魔物が、地上で独自の進化を遂げたものをいう。そして、その進化には100年単位の年月が必要、という説が有力だ」
要は迷宮から出てきた魔物が地上で100年以上生きて独自の進化を遂げたもの? ってことか。え、寿命ないのかな? まぁ、元々迷宮の魔物は迷宮内で倒せば消える疑似生命体とされてきたが、なぜか地上に出ると倒しても死骸が残る——実体化するという、なぞ原理があるからな。あ!そうか……「不可思議」か!
大聖魔雪山ヴァルベスト……俺が裸一貫、投げ出された場所は、ほぼ間違いなくヴァルベスト山のどこかなのだろう。どれくらいの距離を滑り落ちてきたのかは、気絶していたので不明だが、よく無事でいたものだ。
「一応、古代種が見つかった場合はB級以上に調査に行かせる規則になっているが、ユキアのことは伏せておく。君も自分から古代種討伐を喧伝しないようにな。まぁ、心配は無かろうが」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
「ゴブリンとはいえ、古代種討伐推奨ランクはCランク以上となっている。ランクによらず強者はいるが、さすがに君の年齢でFランクでは目立ち過ぎだ。何かしらの”切り札”があることを探られる」
キースさんは、ただでさえ鋭い目付きををさらに細め、ニヤリと笑う。
「うっ……それは……」
「はっはは 切り札は隠してこそ切り札だからな。話してくれるなら、それに合った仕事も斡旋できるが……いや、ミレイ師から”君の冒険を邪魔するな”とも言われている。 さて、今日は話せて楽しかった。困ったことがあったら遠慮なくルーシェに言ってくれ。こんな奴だが仕事はできる」
「こ、こんな奴って!!」
”ぷんすかっ”って感じでルーシェさんが怒っている。表情豊かでとってもかわいい人だ。
しかし、俺が『初心者講習』を初めてクリアした人間だとしても、ギルマスがこうもわざわざ気に掛けてくれるものだろうか?
「あの、本当にありがとうございます。でも、何でそこまで……?」
「ん? ああ、まだ言ってなかったな。 俺も一応、『水聖の系譜』に連なる者なのさ。かわいい弟弟子には依怙贔屓もしたくなる」
そう言ってキースさんは首にかけていたネックレスを胸元から引き出し、その先についている綺麗な淡い青緑の硬貨を見せてくれる。
「あ、それは…………」
◇
ギルマスとの面会を終えた俺は、今日も今日とてダンジョンに潜る……こともなく、宿の酒場で給仕に勤しむ。サルサさんからは、さすがにもうやめていいと言われるが、俺にとっては貴重な”顔を売る場”であり、”情報を得る場所”だ。
「よう、ユキアー。あの狭い部屋が嫌になったらいつでも俺の部屋に来いよー。ベッドは広いし、フカフカだし、何より俺は優しいぞ~~」
「うるさいですよ、酔っ払い。それより今日の迷宮はどうでした? 少しは落ち着いてきました??」
いつも通り俺を口説いてくる【戦士】のビットさん。見た目冴えないおっさんだが、B級冒険者だそうだ。
「つれないなぁ~。まぁそういうとこもいいんだけどよぉー。 んで、迷宮だが、あれはしばらくかかるな。今日も中層の魔物が上層階で発見されたしな。あー、お前の大好きなカルマルの旦那、上がってくんの2、3日遅れるらしいぜ。知り合いの軍人に聞いたから確かだぜ」
「えーー! 明日じゃなかったの!? がーん……」
「ぐっ……いいなぁ、カルマルの旦那、慕われて……」
「おーい、ユキアー ちゅーもーん!」
俺が一人落ち込んでいるとオーダーの声がかかる。いかん、仕事中だ、看板娘が暗い雰囲気でどうする! いや、娘じゃなかった……
「はーい!」
喧騒に負けない大きな声で答え、オーダーに向かう。
「サラダと鳥のスープとおすすめ肉を人数分かな。あとはやっぱり……ユキアが食べたい!」
「おっきな声で言わないでください。残念美人になっちゃいますよ」
「なんだよっ、残念美人って!!」
「ふぐっ!」
赤毛の美人にヘッドロックされ、その豊満な胸に顔をぐりぐり。幸せだ。
「ち、注文でしょ! もう!」
給仕のプライドを総動員して”しあわせヘッドロック”から逃れる。
「いいかげん、ウチに入れよユキアー。そしたらいきなりハーレムパーティーの主になれるんだぞ!」
そう、目の前にいるのは若い女性4人組、なんと全員『職持ち』A級冒険者パーティー『紅蓮』の皆さん。アタッカーの赤毛の美人剣士リズさんは、俺に女性用の水洗い場の清掃を依頼してきた人だ。風呂掃除職人ユキアの仕事ぶりにいたく感動した彼女は、会うたびに俺を勧誘してくる。
「うん、ユキア君が来てくれたら、遠征も楽しく、なるね……」
大柄だが均整の取れた女性らしい、素晴らしいスタイルで、とても清楚な顔立ちの戦士ルイスさん。
「女だけで慰め合うのも、あきちゃうからね~」
ロングの金髪をなびかせ、どこか気だるげな雰囲気を醸し出す治癒術師のミリアさん。
「むさい男は嫌だけど、ユキアなら……」
艶やかに波打つ空色の髪、小柄な魔法使いセリスさん。
他の3人もこれまた美人ぞろい。正直、スキルのことも全部話して、みんなの胸に飛び込みたい!!
でもそれじゃぁ……強くなれそうにないんだよなぁ。あの人の横に立つためには、自分ひとりの力で這い上がらないと。
「そういや、ユキアはルーベの森に行ってるんだよな。あそこ『古代種』が出たとかで、ウチらが明日、調査に行くんだよ」
うおっ、そうなのか。明日は森に行くのはやめとこうかな、万が一スキル見られても嫌だし。なんかリズさん、そういうの鋭そうなんだよな~。
「だから明日、同伴しよーぜ!」
「いや、さすがにAランクの依頼にはついていけないでしょ。それに明日はちょっと予定が……」
ないけど、前々からちょっと行ってみたかったんだ。
「なんだよ、予定って?」
「えーと、ディック平原に行ってみようかなぁ~って」
「ソロのお前が?? 何しに?」
「……んと、観光……」
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