第3話 異空間魔法
3人目の遺体は酷かった。腹を切り刻まれており、臓物がこぼれ出ている。鎧や剣、そして懐に隠していたであろう貨幣のようなものが数十枚散らばっているが、どれもかなり血まみれだ。
「うっ……さすがにこれは遠慮しておこ……あ、そうか…」
俺は片手をかざし、対象物のみに微量の魔素を纏わせる。
ヒュッ……
剣と鎧、そして貨幣を異空間に収納する。そして再度、今しがた収納した剣や鎧、貨幣を取り出す。
「よし、血や汚れは落ちてるな」
おれが、剣なら剣だけを収納するよう意識し、俺が感じるところの汚れや穢れは収納しないと強く意識する。すると、目の前のように血や汚れだけが残る。
「まぁ、でもさすがに服はいいや……」
服も重ね着すれば少しはましだろうと、一応、他の遺体からも取ってきたが、さすがにいくら血や汚れを落としてもここまでだとな……
今まで取ってきた物も、一度異空間から出し、再度、血や汚れを除いて収納し直す。剣だけでなく鎧も収納したのは、自分で身に付けることができれば重畳だが、それが出来なくても、鉄馬車のように異空間から射出すれば、十分武器になると思ったからだ。そんな考えが自然とできてしまう自分に、心の隅で驚いている。
最後の遺体は小柄だったが、兜も含め頭からつま先まで全身を覆う全身鎧だった。血などは見えないが、一目で死んでいるのはわかる。なぜなら首が……曲がってはいけない方向に曲がっていたのだ。
『まぁ、さっきの遺体よりはマシかな』などと思いつつ、先程の要領で遺体以外の対象物のみを異空間に収納する。
「……うわっ!」
目の前に裸の遺体が現れ、俺は半歩後ずさる。服まで異空間に収納したので裸の遺体が現れるのは今までと変わりないのだが、この遺体は……
「……女性だ」
今まで5人はおそらく中年くらいの男性だったが、目の前の遺体は10代後半から20代くらいの若い女性だ。身体に外傷はなく、白く美しい肌をしている。身長はおよそ160cmくらい。こんな重そうな全身鎧を着て動けたのだろうかと思うくらい、女性らしいボディラインでとても艶めかしい。肩まで金髪を伸ばし、その顔立ちは目を引くほど美しい……はずだ……
顔の造作をみるに誰が見ても美しいと思うはずなのだが、俺は半歩後ずさってしまった。なぜなら、その表情は恐怖で目が見開かれ、おそらく余りの苦痛で口があり得ないほど歪んでいた。
「…………ふぅ~~」
俺は深く深く深呼吸をし、心を落ち着ける。首をもとの角度に戻し、瞼と口を閉じさせる。そうすると思ったとおり美しい顔立ちが現れる。
「すみません、服などを拝借します」
今までの遺体と同様、俺は申し訳程度ではあるが、合掌し遺体に手を合わせる。そして埋葬まではできないので、せめてもと雪に埋もれさせる。
「……やばい、手足の感覚がなくなってきた……」
俺は急いで鉄馬車に戻り、服と靴を取り出す。俺の体のサイズ的に、先程の女性の服がちょうどよい。その上に男性の服が重ね着できる感じだ。3人分の服を重ね着したところで、これ以上は動けなくなりそうなのでやめにした。
「……にしても身長縮んだ??」
先程の女性の服がちょうど合うなんて……これでも身長は178cmはあったんだがな。いや、それ以前に……
「……どこだよ、ここ? なんだよ、この状況……?」
そう思う割には、それほどパニックにはなっていない。もっと取り乱すべき状況なんだが、妙に落ち着いてすべきことを淡々とやっている。死体から物を剝ぐなんて……
服を着て靴を履き、やっと人心地ついた。馬車の中も寒いのは寒いが、外よりだいぶマシだし、何より外が暗くなってきた。ここが安全なのかは分からないが、この寒さで暗い中、どこか分からぬまま歩き回るのは危険すぎる。歩き回るのは明るくなってからだな。
「……………………………………」
「…………………って、おかしいからっ!!!! んだよこれっ!!! はああ?? 落ち着く状況じゃないだろっ!!! はい?? ゆめ?? ドッキリ?? ねぇ!! おおーーい!! うおーーー!!!」
「……………………………………」
自ら意識的にパニックになってみるが、自暴自棄になって外に飛び出すほどにはならない。何とかなるかな、くらいに思っている自分がいる。
「……俺ってこんなに図太い人間だったかな」
どちらかというと心配症で、娘の帰りが遅いとすぐに連絡をしてしまう男だったが……
「……っ、そうだよ、美紀、綾香! 俺は出勤しようとして…………」
妻と娘のことを、ここにきて急に思い出す。エレベーター出たら、なんか雪国で……って、なんだそれっ! 違和感はあったんだ。普段めったに吠えない愛犬のルゥが吠えまくり、なぜかエレベーターが開いていて……でも、俺は行かなければって……どこに?? ん、俺は……俺の名前って……??
「ああ……フィルハーク……フィルハ・ベオルークか……」
「ん?………………い、いやっ、ちがうっ!! 俺はユキア……真田雪阿だろっ!!」
急に恐怖に襲われる。なんなんだ、これ……おれはいったい……
「あっ、そうだ、あのへんな木版に名前……」
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