第28話 崖の上の……
『ルーベの森』、俺が”氷の滑り台”から滑り落ちてきた森だ。そして、『水聖の少女』と出会った森。だが、あの少女がいた『水聖の川』はもうない、いや、川はある。あるのだが、あの川じゃない……もう自分で言ってて意味が分からない。
とにかく、俺はこのルーベの森で活動する時は、この”元水聖の川”沿いで活動するようにしている。単純に、帰り道に困らないように。
「逃すかっ! 肉っ!」
数発の岩弾を避けられたが、ようやく一発当たった。だが仕留めきれずによろよろとなったデカ角兎をショートソードで突き刺す。この兎、魔晶石と角、そして肉も売れるのだ。もう丸々一匹お金になる。低ランク冒険者にとっての”ドル箱”だ、いや”バース箱”か。
だがこの兎、一度不利と見るや、すぐに逃げる癖がある。ついもったいない精神で追いかけていたら、川から離れてしまった。とりあえず解体実習で習った血抜きをし、死骸ごと異空間に収納する。
「森の深くに入り込んでしまったか……? ま、最悪、方位磁針を頼りに南に歩けばいいか」
この世界でも方位磁針は有効活用できるようだ。まあ、GPSになれてしまった現代人からすれば不便極まりないが。にしても……
「多いな、チビゴブ!」
さっきから6,7匹のチビゴブ集団と連続エンカウントしている。
ダダッ ダダダダッ
俺の岩弾が唸りを上げるぜっ! 魔調力バンザイッ! 岩弾で仕留めたり、怯ませたうちにショートソードで切り伏せたり、ラジバン……クソッ、集中力が……
森の奥からまたチビゴブの集団が駆け寄ってくる。
「……マジか、巣でも近くにあるのか? さすがに疲れてきた……」
数にして20匹くらいか……? しかも俺を包囲するように展開している。あまり【異空間魔法】に頼りすぎるのもどうかと思うが、背に腹は代えられない。腕も疲れてきたし。
「……【弾幕岩】!!」
狙いなどつけず、俺の全周囲に岩弾をばらまく。
グエッ! グギャッ! ギャギャッ! ……ビシャッ!
約半分くらいは死んだか。残りも無傷ではないようだ。傷を負った相手に俺は無双する。端から見たら、ろくに抵抗できない相手を殺しまくる、やばいヤツだが……やらなきゃやられる世界だからな!
暴れがちな将軍様の曲が頭の中に鳴り響き、一度やってみたかった殺陣っぽい動きでチビゴブ共を成敗していく。体が若返ったからなのか、よく動く。いやこれは、魔調力の高い冒険者たちが、身体中に魔素を纏わせて身体を強化する技だ。カルマルさんに教えてもらった『魔闘気』。
「ふう……さすがに、つかれた……帰ろう。内在魔素もあとどれくらい持つか分からないし……」
だが、俺は魔調力と一緒に『内在魔素量』も爆上がりしている。俺の【魂の操作盤】では魔素消費量は数字としては分からないが、感覚的に【異空間魔法】を一日戦闘で使い倒しても、さほど減ったような感覚はない。めちゃくちゃ燃費いいのだろうか、【異空間魔法】??
帰る前に、チビゴブ共の魔晶石を異空間へ収納する。チビゴブの魔晶石は大した金額にはならないが、塵積は大事だ。
そうこうしているうちに、またチビゴブ共の集団がやってくる。
「くそ、きりないのか、もう逃げる……いや、そんなに多くないな」
よく見てみれば、3匹だ。しかし、そのうちの1匹がデカい。え? こいつ……
「お、お前は……『崖の上のゴブ』!!」
そう、こいつは崖の上の白銀世界にいたゴブリンだ! デカいと言ったが、チビゴブに比べればの話で、今の俺より頭一つ分小さい。150cmくらいだ。崖の上の白銀世界ではオークの子分みたいなポジションで「グギャグギャ」言っていたが、地上に降りたら、チビゴブを従えて一端のリーダー気取りか! いや、まあ鶏口牛後は大事かな……だが、
「お前相手にはこの剣を使わせてもらう」
ショートソードは異空間に収納し、俺は崖の上の白銀世界で散っていった騎士の剣を取り出す。白狼から逃れるために【ソードバレット】で結構消費してしまった。ゆえに残りは2本だ。俺はこの2本は大事に使おうと思っていた。別に彼らに深い同情を抱いているわけではないが、彼らの遺品を勝手に拝借したおかげで、あの白銀世界から生き残れたのは事実だ。
もし、この世界を旅して、彼らの遺族に出会うことがあれば、何かしら拝借した物を渡していきたい。いや、まぁでも、剣と鎧はほぼ無いのだけど……
「……お前があの白銀世界から降りてきたかどうかは知らんが、お前にはこの”剣”だけで勝負する! はっ!!」
スパンッ! スパンッ!! ガッ! ズシャッ!!!
「…………え??」
無防備に前に出てきた無手のチビゴブの首を横なぎに一閃。古びた槍を持っていた同じくチビゴブを槍ごと首一閃。
そして、片手剣を持っていた『崖の上のゴブ』。俺の袈裟斬りに慌てて剣を合わせてきたが、あっさり奴の剣は折れ、肩から斜めに切り裂かれる。
3匹はほぼ同時に崩れ落ちた。
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