第25話 生存戦略
「——エールと果実酒お待たせしました!」
「うーい、ユキア、肉とつまみも追加してくれー」
「はーい、今日は新鮮なボア肉が入ってるから、5人前だね~」
「いやこっち3人しかいねぇだろ!」
「今日もお疲れでしょ~? 絶対ペロって食べちゃうって! ドアンさーん、ボアの胡椒焼き5人前ー」
「商売上手かっ!!」
ニコッっと、あざとかわいい笑顔を見せて、他のテーブルのかたずけに向かう。「て、てめぇ~」とか言いながら、ニヘニヘしているおじさん冒険者3人組など、チョロいもんよ。ビバ、ルッキズム! ”とんでもない美少女っぽい見た目少年”になったのなら、そのルックスは大いに利用してやるぜ、へっへ!
と言っても、夜の街、歓楽街で働いているわけではない。ここは俺が泊まっている宿『水聖の導き亭』の酒場。そこでウェイトレス、じゃない、ウェイターをしている。キーリちゃんと一緒に2枚看板娘さ。いや、俺は娘じゃないが……
あとは、深夜、だいたい俺が最後に水洗い場を使うので、そこを毎日掃除している。何の毛か分からないが、デッキブラシみたいなのがあって、それでゴシゴシだ。
それに、実はちょっとした”技”も使っている。その名も『人間高圧洗浄機ユキヒャー』だ。魔調力が爆上がりしたこともあり、井戸水を異空間に収納し、高圧放水で壁も床も天井もピカピカに掃除してしまった。翌朝、サルサさんが”あんぐり”していた。
「ア、アンタ……何をしたんだい??」
「い、いや、つい熱が入って……」
さすがに【異空間魔法】のことはまだ伏せている。ミレイさんにも「自分のスキルは言いふらすものじゃないよ」と言われている。とくにこの【異空間魔法】は特殊固有スキルだし。だから、俺の風呂掃除の評判を聞きつけた女性冒険者たちが、女性用の水洗い場も掃除してほしいと懇願された時、
「わかりました。ですが、終わるまで決して覗かないでください」
と、どこぞの鶴のようなセリフを吐き、女性専用もきれいに掃除した。
まあとにかく俺は、昼は冒険者として「ルーベの森」で魔獣狩りをやり、夜はこの宿の手伝いをしている。なぜなら……
初心者講習終了後、俺は3日間、この宿の最高級の部屋、いわばスウィートルームを占領してしまった。ミレイさんとの”チュー”……で気を失った俺は、この『水聖の間』と言われるミレイさん御用達の部屋に運び込まれ、3日間寝続けていた。
別にサルサさんから、部屋の料金を請求されているわけではない。お金はミレイさんが払っているというし、そもそも、この部屋はミレイさん以外には使わせないそうなので、「掃除してくれるなら、むしろ使ってほしいけどねぇ」と言っていた。
だからと言って、甘えるわけにはいかない。ただでさえ、ミレイさんのおかげでこの安全で質の高い宿に止まれているのだ、しかも格安で。ならば手伝いくらいしなければ!
そして何より、俺はビジネスパーソンとして培った経験から、一つの生存戦略を立てたのだ。それは……
『徹底的に”上”に気に入られる!』
会社員時代、”上司に媚びるなら、2階級上の上司に媚びよ!”という、ありがたい格言を先輩から頂いたことがある。ある程度、歳も離れた格上の存在だと、そこそこ活躍しても嫉妬などはされない、逆に可愛がられるのだ、という法則。
俺は最低ランクのFランク。EやDランクの冒険者とも仲良くしたいが、今後、順調にランクアップしていけば、嫉妬されることもあるかもしれない。その時にCランク以上の中級冒険者と伝があれば、何かとリスク回避できる。
『ふっふっふ……元ビジネスパーソンの処世術、舐めるなよっ!』
しかもこのルックス! 媚びを売るにはもってこいだぜ!
…………と息巻いてはいるが、この容姿はメリットもあれば、デメリットもある。ここは純粋な力、言うなれば暴力が幅を利かせる世界だ。特に冒険者なんて稼業はなぁ。しかも、俺はソロ。見た目”美少女”が一人でふらふらしてたら、イケないことを考える奴も、そりゃぁいるだろう。ゆえに、良質な冒険者とのつながりは大事だ。俺はまだ”弱い”からな。
この魔調力だ、【異空間魔法】を使えば、ある程度の困難は対処できそうだが、単純に身体能力が低い。歳相応だとカルマルさんも言っていた。
強くなりたい……別に世界最強になりたいとかってわけじゃない、でも強くなって、あの人の隣に立ちたい、役に立ちたい。だってあの人は今頃……
強くなるための重要なピースは与えてもらった。本当に運が良かっただけだけど。『水聖の少女』に出会い、ミレイさんに出会った。そのおかげで、至るにはとてつもない年月と努力が必要であろう『魔調力100越え』を手に入れた。
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