第20話 初心者講習最終日1
早朝、誰もいないことを確認して、水浴び場で全身冷たい水を浴びまくる。覚醒してきた。
「よしっ! 寝て、冷水浴びて、頭も、スッキリ!! 今日も、行ける!!」
昨日のギルドでの他の冒険者たちの反応が良く理解できた。確かにこの講義はキツイ。初等教育が最近始まったと言っていたし、この世界では座学というものに”慣れ”があまりないのだろう。だが……
「ふふっ……舐めるなよ、伊達に日本の受験戦争を生き抜いてきたわけじゃないぜ……」
正直、飲まず食わずのぶっ通しでいくとは思ってなかったが、それでもこの世界に対する常識、知識が全くない俺にとっては非常にありがたいものだ。
サルサさんが朝食を配膳するときに、心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫かい? 昨日はミレイがやり過ぎたみたいだったが、無理はしなくていいんだよ。受けないと冒険者になれないってわけじゃないんだ」
「大丈夫です。俺、本当に何にも知らないから、ミレイさんには感謝してます!」
「……ア、アンタって子は……」
サルサさんはお昼用にと、お弁当を作ってくれた、2つ。
「……いいかい、ミレイは気分が乗ってくると止まらなくなっちゃうから、隙を見てこのお弁当を差し出すんだ。あいつの好物が入ってるから、食べている間は止まるはずだ、その間にしっかりユキアも休憩するんだよ!」
なんていい人だ……うん、俺はまだまだ頑張れる!
「ありがとうございます! いってきます!」
◇
2日目の朝、俺を見た時のミレイさんの喜びようと言ったらなかった。今まで初心者講習を受けた冒険者はいたことはいた。だが1日目でダウンだったようだ。
講義室で「今日もよろしくお願いします」と一礼をして顔を上げると、ミレイさんは全力で「キュンキュン」して、悶絶していた。
2日目、3日目はサルサさんの「お弁当」の力もあり、一度は休憩することができた。それ以外はぶっ通しだったが、1日目の経験もあり、覚悟ができていた分つらくはなかった。それに、全く知らない事ばかりだったので、乾いた大地に水が沁み込んでいくように、俺はすべてを吸収していった。
4日目の午後、座学が終わり、魔獣解体実習の講師として、ギルドで解体士として働くゴルドーさん、という40代くらいのおじさんを紹介された時、
「おお……勇者よ…」
と、なぜか尊敬のまなざしで見られた。
5日目、実戦講習の日。メインの武器を剣と答えていたため、【剣士】の職を持つ人に教えてもらえるのだという。いや、なんか本当に『初心者講習』すごくない?? 至れり尽くせりなんだけど。まぁ、あの”座学”を乗り越えるのはかなりの試練ではあるが。
ギルドの修練場という運動場みたいなところにミレイさんと向かう。ちなみにミレイさんは魔獣解体の時も、今日の実戦講習も付き合ってくれるのだという。
「初心者講習総括者としての責任がありますから」と言っていたミレイさんをルーシェさんがジト目で見ていた。
「あれ? カルマルさん??」
修練場にいたのは、城門で対応してくれた、シブ目の門番カルマルさんだ。
「よう、嬢ちゃん……じゃなかったな。ユキア、よくぞここまでたどり着いた」
なぜか、魔王にたどり着いた勇者にかけられるセリフをかけられる俺。
「カルマルさんは、軍の隊長さんでとても優秀な【剣士】なんです。信用できる方ですし、ユッくんを任せてもいいかなと思ってお呼びしました」
「き、恐縮です。オハラ統括官」
直立で答えるカルマルさん。本当に恐縮している様子だ。
「……統括官??」
「ただの役職名ですよ。さ、ユッくん、時間がもったいないよ」
ちなみに、この5日間でミレイさんとの距離がかなり近づいた気がする。ミレイさんは変わらず丁寧なしゃべり方だけど、結構砕けた口調になってきたし、なによりもう完全に”ユッくん”だ。それに、何かとボディタッチが多くて密かにうれしい。
「はい。では、カルマルさん、よろしくお願いします」
「おお。得物は剣でいいんだよな、ほれっ」
木剣を放られて、慌てて受け取る。
「まずは、今の実力を見るから、適当にかかってこい。あとは基本の型を教え込む。それを毎日素振りして、体に覚え込ませろ。あとは実戦。ま、剣なんてそんなもんだ」
その日はカルマルさんにみっちりしごいてもらった。正直、剣なんて握ったことのない俺は、基礎の基礎から全て教えてもらった。一番、冒険者って感じの講習だったなぁ。俺はもう一歩も動けず、修練場に大の字になって休憩している。カルマルさんは向こうでミレイさんと何か話していた。
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