第19話 初心者講習
翌朝、パンとスープの簡単な朝食を宿でいただいた後、冒険者ギルドへ向かう。ちなみにパンは少し硬いフランスパンのような感じ、スープも単調な塩味だったが、普通においしかった。
サルサさんに「頑張っておいで」って、”背中バンッ”されて出発した。なんか、〇崎アニメに出てくる姉御肌キャラっぽい。
「ふぅ~っ」と少し緊張しながら冒険者ギルドの扉を開ける……人混み、スゴッ!昨日は時間帯が午後だったからだろうか、落ち着いた市役所の雰囲気だったが、今はまさに『冒険者ギルド!』って感じだ。
軽装、重装備の違いはあるが、鎧姿の人が多い。『ザ・魔法使い』みたいなローブ姿の人は……あ、いた。けど、あまり多くはない。そして、男女比率は、圧倒的に男が多いかと思っていたが、全くそんなことはなく、『7:3』……『6:4』くらいかな。女性活躍は日本より進んでそうだ。
一番右奥のカウンターに声をかけるように言われている。そこはギルドからの指名依頼だったり、特別な案件を対応するカウンターなので、常に空いているとのことだ。だが、そこに行くまでにこの人混みをかき分けていかなくては……
「……よしっ」っと気合を入れて、人波をかき分けていく。「あ、すみません」「通ります!」と腰を低くし、笑顔を振りまく。法人営業部時代に培った営業スマイルだ! 何とかカウンターにたどり着き、近くのギルド職員に呼びかける。
「すみません、『初心者講習』を受けに来たユキアと言います! ミレイさんいらっしゃいますか??」
――――「なっ!!」 「えっ…」 「……は!?」
俺の近くにいた冒険者たちがざわめき始めた。最初は小さなざわめきだったが、だんだんと波紋のように周りに伝播していく。
「……しょ、しょしんしゃ」 「……こうしゅ…う、だと!?」 「いま、ミレイさんつったか……?」
……な、なんだ、この静けさは……なぜ、そんなに俺を見るんだ? そんなフロアに響き渡るほどの大声は上げてないだろ、おれ??
「ユキアさん、お待たせしました! 約束の10分も前に来られるなんてさすがですね! 時間の貴重さというものをよくご認識です。本当、そういう冒険者の方が増えればいいのですが……」
一瞬、ミレイさんが冷ややかな視線を他の冒険者に送る。
――――ッ 「こ、この依頼を!!」 「き、きょうは、ディ、ディック平原に行くぞ!!」 「護衛依頼の件について……!」 「金の返済はどうか……」
止まっていた時が一気に動き出すかのように冒険者たちが慌てだす。いや、びっくりするわ!
「あ、あの……これは……?」
「気にしないでください、気にする価値もありません。それより、どうぞこちらへ」
俺はミレイさんに案内されてギルドの2階へと上がっていった。
◇
会議室のような部屋に通され、ミレイさんと向かい合う。
「さて、ユキアさん。まずは初心者講習の流れを申し上げます。期間は5日間、最初の3日間は座学になります。残りの2日間を魔獣解体の講義と実技、実戦講習となります。ですから、実質5日間のうち3日半は座学になります」
なぜかミレイさんは少し不安そうに俺を見る。な、なんだろうか……
「ありがとうございます。なにぶん冒険者としての知識が足りていないので、とても助かります」
――ふぇっ!
え? ミレイさんの口から変な声が漏れた! な、なんで!?
「……な、なんていい子……もう、食べたい…………あ、それと言い忘れておりましたが、その、最後に座学の試験を行います。別に試験と言っても、合否があるわけではなく、きちんと知識が身についているかを確認するためのもので……」
ああ、会社の研修なんかでも、講義を真剣に受講させるために最後確認テストみたいなのあったな。しかもそれ、仕事の成績には関係ないという建前で、実は所属の支店長にはしっかり成績が送り付けられるやつだ。ミレイさん、俺は騙されないぜ!
「はい、頑張ります」
――――ひへぇっ!!
美人からイケナイ声が漏れ、悶絶し始めた。
「そ、そ、そ、それでは、さっそく講義を開始していいですか!?」
「は、はい。お願いします」
なぜかミレイさんの目が血走っている。ものすごい勢いで教材を配り………
「で、では、まずは『総合調整自由組合』の成り立ちから……!!」
◇
「………えー、でありますから、このロマリア帝国における総合調整自由組合の立ち位置としては、相互不干渉でありながら~~中略~~軍事力だけでは優劣のつけられない、経済的な依存性を保ち続けることが…………」
「…………………………………………」
コン、コン……
「……つまりは、迷宮というものを、国の経済に結び付けたところが、この総合調整自由組合の自主自立に結びついているわけでありまして…………それが国をまたぐ大きな力…………」
「…………………………………………」
コン、コン……
「…………”経済”と”情報”、この2つがどれだけ国に対して力を持つかということが、たとえ専制君主制をとるこの帝国においても…………」
コン、コン…… コン、コン…… コン、コン…… コン、コン……
「あのー! ミレイさん!! もうとっくにギルドの業務時間終わってますよ! ってか、もう夜更けだから!!」
さっきからドアのノックを無視されてきたギルド職員が、たまらずドアを開けた、蹴り破ってきた! 助かった!!
「……えっ!? ルーシェ? あら、もうこんな時間!? ごめんなさい、ユキアさんが真面目に聞いてくれるものだから、つい時間を忘れて……」
もう何時だろう……休憩も一切挟まず、朝からぶっ通しで夜更けまでやり続けてきた。それこそ、飲まず食わずで……俺ももう限界だ。頭が破裂しそうだ。徹勉の数倍きつかった。
いやそれより、ずっと話し続けているミレイさんって、何者? もはや人間の領域を超えてる……
「では、ユキアさん、これくらいで『冒険者ギルド概論』は終わりましょうか。明日はこの『冒険者必携』を使って、冒険者の社会的役割、そして冒険者としての心構えや現場でのルールをご説明します」
「……はい、よろしく、おねが、い、します……」
何とか立ち上がり、一礼をして部屋を出た。ルーシェさんが、何か言っていたがもはや頭に入らない。とにかく寝て頭を休めなければ……
それからどうやって宿に帰ったかさえ、あまり覚えていない。色々な人に声をかけられた気もするが、あやふやだ。気づけば朝だった。
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