第18話 容姿
ミレイさんとのお買い物を終え、宿『水聖の導き亭』の部屋へ入る。1階の共同水浴び場の横の部屋、キーリちゃん曰く「夏は暑くて、冬は寒い部屋」とのこと。
ちなみに、この国、世界? にはちゃんと四季があり、1日も24時間だそうだ。まぁ、見慣れた文字盤時計もあったし、”24時間眠らない”というフレーズも聞いたから、そんな気はしていた。もっとも、俺がそう”認識”しているだけの気もするが……
ミレイさんとは下着や普段着、歯ブラシ、タオル等々、本当に日用品を買っていった。ミレイさんがいたから効率的に買えていったが、1人なら丸一日かかっていたかもしれない。
ちなみに、冒険者の活動に必要な道具類については『初心者講習』で教えていくという。講習者には、武具等も含め必要な物は、ギルドから一定期間の低額での貸与もあるのだという。いや、至れり尽くせりではないか、『初心者講習』!! なんで誰も受けないのだろう……しかも、ミレイさんみたいな美人さんが講師というのに。ホント、あの人には頭が上がらない。
「ふぅ~、とりあえず一通りは片づけたかな」
買ってきたものをとりあえず整理し、部屋を見回す。六畳一間といった感じか。簡素なベッドが一つ、お手製の棚みたいなものが一つ、小窓が一つあるくらい。多少圧迫感はあるが、充分じゃないか、いや充分すぎる。
ベッドに腰を下ろし、ひと息つく。
「……さて、明日から『初心者講習』。そして俺も晴れて『冒険者』かぁ~」
……なんで?? いや、もう、なんで??
エレベーター降りたら雪国で、オークとゴブリンがいて、白狼に追いかけられて、氷の滑り台を滑り落ちて、とってもきれいな川で”水聖の少女”と……
「ようやく人里についたら、門番さんに”夜の街で働くのは大変なんだぞ”って諭されるし、男だと言ったら”そっち専門の??”って酷いこと言われるし……つい勢いで『冒険者です!』って」
あ、だから俺冒険者になってんの!? そんな理由!? ……まぁ、でもこの状況で、身分証と生活基盤を手に入れるためには、一番いい選択か。結果、ミレイさんに出会えて、安全な宿に泊まれてるし。
ミレイさん……正直、気に入られているんだと思う。何故かはわからない、わからないが、好意はひしひしと感じる。「”つば”つけとこー」なんて、思い出すだけで……はうっ……だ、だめだ!! まだそんなことにうつつを抜かしている場合じゃない。こんな良くわからない状況で!
「体洗って、寝よう……」
隣の水浴び場はいつでも使ってよいとのこと。さっき少し覗いたが、石造りの部屋の真ん中に井戸があり、そこでバシャバシャ男たちが水を浴びてた。水浴び場だね。洗濯もしてよいらしい。
ただ、ミレイさんに別れ際、怖いくらいに念を押された。
「いいですか、ユキアさん。水浴び場は、夜中に誰もいない頃を見計らって利用するんですよ。誰かに見られたら……見た者が不幸になるかもしれません……私がまだ見てもないのに……」
両肩をがっちりホールドされて、射貫くような視線を浴びせられた。怖かった、でも少しだけ、コーフン……ダメだ!
買い物などをしていてもうとっくに夜更けだ。にぎわっていた酒場も静かになり、みんな就寝のお時間だろう。
誰もいないことを確認し、水浴び場へ入る。薄暗いが、明るく光る石?みたいな物が天井に備え付けれれており、行動に支障はない。水聖様の川で身を清めたとはいえ、やはり日本人の感覚では毎日お風呂に入りたい。
脱衣所みたいなところで服を脱ぎ、いざ水浴び場へと思っていたら、鏡、全身が映る姿見があった。
「————誰っ!? うそっ!!」
………………いや、何となく、わかってはいたんだ。”お嬢ちゃん”とか”お嬢さん”って言われるし。ミレイさんもなんか、俺を見てキュンキュンしてたし。お肌も白くてハリがある。手足もほっそりして、スタイルもよさそう。15歳、若い。だが、ここまでとは……
”超絶”とか、”絶世の”って言われるほどではないと思う。でも充分すぎるくらい、その、”美少女”だ。いや、正確には”美少年”だ。だが、中性的というよりどちらかと言えば、美少女寄りだ。ぱっと見、いやそこそこ見ても、『お嬢ちゃん』って言われると思う。
亜麻色の少し癖がかった、でも絹のように手触りの良いショートヘアの髪。白皙の面立ちに整った鼻梁、淡い色の小さめの唇。
……確かに、ミレイさんの言うとおりだ。この容姿なら、悪い大人たちは悪いことを考えそうだ。いや、俺も大人なんだけど。
だが、ここは安全な日本じゃない。おそらく結構『切った張ったの世界』だ。門番のカルマルさんも、ミレイさんも、サルサさんも、結構というか、かなりいい人達だったけど、そんないい人たちだけの世界じゃないだろうし、それは日本でも同じこと。
冒険者か……こちらには魂位というレベルシステムがある。まずは暴力や理不尽から自分を守れる力を身につけなければ。だが、一朝一夕にはいかないだろうから……
「立ち振る舞いが大事だな……」
伊達に37年間生きてきたわけではない。表立っての暴力はないが、こちとら、同じくらい『切った張ったの世界』、『生き馬の目を抜く世界』、と言われる金融の世界で10年以上やってきたんだ。このよくわからん状況でも……やってやるさ。
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