↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハードボイルドな闇の支配者を目指した俺、悪役ムーブをするたびになぜか英雄として称賛される。違う、俺は恐怖されたいんだが?  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/23

第5話 「俺は、光を食らう闇だ」

「君を……、ここで殺す」


アシクセイが俺から距離をとる。剣を両手で握る。光が集まる。倉庫が昼間のように明るくなる。魔力が膨張していく。これほどの力を一点に集めれば、並みの冒険者なら近づくことすらできないだろう。だが俺は違う。ゆっくりと一歩一歩近づいていく。


やがて巨大な光の刃が生まれた。俺はその光を見上げた。天井へ届くほどの大きさ。これが勇者の奥の手。


倉庫がその魔力に耐えられないようだ。柱が軋み、天井から細かな鉄片が落ちてくる。これほどの力をまともに受ければ、S級冒険者であっても無事では済まないだろう。ていうか、俺以外ならだいたい死ぬな。俺自身も、ノーガードならさすがに少しくらいは傷を負うかもしれない。というのはさすがに言いすぎか。だがそれほどまでに凄まじい魔力だった。


「……最後に1つだけ聞く」


アシクセイが低い声で言った。


「名を名乗れ」

「……名前?」

「そうだ。僕を狙ってここまで来たんだろ。せめて、君が何者なのかくらいは知っておきたい」


俺は口元に咥えていた疑似タバコを外した。


「……知ってどうする?」


コメント欄が一気に流れ始める。


『ここで名乗るのか?』

『黒衣の男、ずっと余裕だな』

『勇者があれだけの魔力を出してるのに動じてない』

『アシクセイも怖い顔してる』

『この2人、現実に存在してんの?』

『映画みたいになってきた』

『ていうか本当に生配信?』


「勇者である僕をここまで追い詰めたのは、君が初めてなんだ。生涯忘れないことを約束しよう」

「…………」


なるほどそう来たか。さて、ハードボイルドは何と返すのが正解だろうか。ここは重要だ。勇者と対峙し、互いに命を懸けている。ここで凡庸な言葉を選べば、これまで積み上げてきた俺のハードボイルドが台無しになる。


コメント欄がさらに加速している。


『え、勇者が認めた!?』

『ここまで追い詰めたってマジかよ』

『アシクセイがこんなこと言うの初めて聞いた』

『黒衣の男、何者なんだ』

『名前教えてくれ!』

『これ絶対後で切り抜かれるぞ』


期待に応えざるを得ないな。そのとき、俺の脳内ハードボイルドコンピューターは完璧な回答をはじき出した。


「今夜、お前が覚えるべきなのは俺の名前じゃない」


俺は光に照らされたアシクセイを見据える。


「――恐怖だ」


コメント欄が一瞬だけ止まったように見えた。


『こいつ本当にこういうの好きだな』

『カッコいい……のか?』

『悔しいけどちょっとカッコいい』

『こういう台詞を真顔で言えるのメンタル強すぎ』

『名前聞かれて恐怖って答えるの何なんだよ』

『本人絶対カッコいいと思ってるだろ』

『でも実力が伴ってるから何も言えねえ』


「……そうか」


アシクセイが剣を握り直す。光がさらに膨れ上がった。


「なら、今後君のことは『謎の男』と覚えておくことにするよ」

「……好きにしろ」

「後悔するなよ」

「後悔?」


俺は疑似タバコを真横へ投げ捨てた。


「残念ながら俺は、その感情を持ち得ない。ゆえに理解できない。お前と違ってな。勇者アシクセイ」


コメント欄も、俺のセリフにさぞ震えていることだろう。


『絶妙にダサい』

『ラスボス前の雑魚が言うセリフ』

『勇者が主人公に見えてきた』

『嫌いじゃないよ俺はお前のこと』

『よく分からんけど、どっちも怖いので通報しました』

『アシクセイ、ここまで煽られてよく耐えてるな』

『いやもう既に勇者ブチ切れてるだろ』

『奥の手くるぞ。これで決まる』


「その余裕、すぐに消してあげるよ……」


次の瞬間、光が爆発した。


「聖光断界(ホーリー・ブレイカー)!!」


アシクセイが吠えた。だがよく見ると、光は剣の形をしている。巨大な光の刃が周囲の空気を震わせ、雨粒も倉庫の天井や壁も弾き飛ばしていく。


俺はその場で右手を伸ばした。そして親指と人差し指で光の刃を掴んだ。


「…………は?」


アシクセイが固まった。俺はそのまま握り潰す。


バキィン!!


光が砕け散った。


「そ、そんな……」


勇者は腰を抜かして尻もちをついた。


『…………』

『え?』

『今、何した?』

『掴んだ?』

『光を?』

『素手で?』

『待って待って待って』

『勇者の必殺技を片手で止めたぞ』

『指2本や』

『握り潰したんだけど』

『勇者、腰抜かしてる』

『さっきまで完全に勇者側が勝つと思ってた俺を殴ってくれ』

『S級冒険者の奥義だぞ!?』

『黒衣の男、マジで何者なんだよ』




俺は起き上がれない勇者の前で立ち止まる。勇者が震えている。残念なことに、お漏らしまで。これじゃ、勇者の面目丸つぶれだな。


俺はゆっくりと拳を握った。


「感謝する。いいダシになってくれたことを……」


軽く。本当に軽く拳を振った。


ドゴォォォン!!


アシクセイの身体が吹き飛んだ。壁を突き破る。そのまま奥の部屋の木箱へ突っ込んだ。


バキバキバキッ!!


木箱が次々と砕け散る。

そして中身が床へぶちまけられた。


白い粉が大量に舞う。

何だ、これ。粉か。孤児院への支援物資にしては、妙なものが入っている。小麦粉だろうか。パンでも作るのか。パンは強力粉だっけ。何でもいい。俺には関係ない。


『勇者が吹き飛んだああああああ!!』

『壁抜けたぞ!?』

『拳一発!?』

『今の軽く振っただけなんだが!?』

『アシクセイ生きてる?』

『誰か救急呼べ!!』

『いや、ここどこだよ!!』

『白い粉なんだこれ?』

『薬品?』

『これ何かヤバいやつじゃない?』

『誰か詳しい人いないの!?』


アシクセイは粉にまみれて倒れている。気絶しているようだ。俺はその姿を見下ろす。なかなかに強かった。だが、俺には届かなかった。それだけだ。


これで俺は、勇者を倒した男として世界中に知られる。恐怖の象徴になる。闇の支配者へ間違いなく近づいた。今まで俺のことを「ミスターX」と呼んでいた連中も、明日からは「恐怖の男」あるいは「凶器の男」とでも呼んでいるだろう。俺を見れば震え、俺の名を聞けば顔を青ざめる。そんな未来が、もうすぐそこまで来ている。


「フッ……」


視聴者数は、すでに数万人に達していた。コメントが凄まじい速度で流れている。


『歴史的瞬間を見てる気分だ』

『勇者を一撃で倒した男』

『これ明日のニュース確定だろ』

『黒衣の男、最後まで余裕すぎる』

『ミスターX説、かなり濃厚じゃね?』

『絶対ただ者じゃない』

『この人、何が目的なんだ?』

『勇者を倒して何をするつもりなんだよ』

『怖すぎる』

『でも、なんで犯罪現場みたいな場所にいたんだ?』

『白い粉、マジで何なんだ?』

『誰か通報してくれ』


全てのコメントは読み切れない。流れるのが速すぎて読めないのだ。俺は満足していた。配信も成功。明日には俺の存在が世界中へと広がる。


誰も俺を軽く扱えなくなる。恐怖され、畏れられる。


さて、配信を終える前に、最高にカッコいいハードボイルドで締めくくるか。渋い顔を作って斜めに立つ。


「光が強ければ強いほど、闇は深くなる」


一拍置く。


「俺は、光を食らう闇だ」


完璧。俺は満足してコメント欄を見る。


『これ、ドラマの撮影かなんか?』

『確かに、リアルでこんなこというやつおるわけない』

『めちゃくちゃ悪役っぽい』

『さすがにネタとして本人楽しんでるだろ』

『勇者倒してこの台詞は強すぎる』

『こわ面白い……』

『明日のニュースが楽しみだ』

『ところで白い粉は何なんだよ』

『もう警備隊が動いてるだろこれ』


そこまで読んで配信を停止した。


俺はさっそうと倉庫を後にする。雨の中を来た時と同じように同じ歩幅で歩く。そう、勇者を処す程度のこと、俺にとっては一服するのと大差ないのである。




このときの俺はまだ、床一面に散らばっていたあの白い粉のことを知らない。あの商人っぽい男や武装した男たちは何者だったのか。アシクセイが倉庫で何をしようとしていたのか。俺は知らない。


もちろん、翌朝になってこんなニュースが流れるのも知らない。


『昨夜、街外れの倉庫にて大規模な違法薬物取引が発覚しました!』

『現場では、国外から密輸された大量の違法薬物が押収され――』

『取引の中心人物として、S級冒険者にして勇者、アシクセイ容疑者が拘束されました!』

『そして、この取引を偶然にも突き止め、現場を制圧した謎の黒衣の男――』

『現在、彼の正体を巡って世界中から注目が集まっています!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。