第19話 【緊急配信】学院最強の生徒会長を預かった
放送が学院全体へ響き渡る。
「取り戻したければ、俺を追え」
俺は低い声で言った。
体育館にいる生徒たちだけではない。学院中に設置された魔導スピーカーを通じて、俺の声は校舎の隅々にまで届いている。俺の言葉を聞いているはずだ。
イザベラが驚いたように俺を見る。俺は構わず、言葉を続けた。
「だが、覚えておけ」
一拍置く。ここが重要だ。悪役の宣言というものは、最後の一言が大切なのだ。ただ脅すだけでは足りない。聞いた者の頭から離れない、意味深で、少し恐ろしく、それでいてハードボイルドな格好いい言葉を残す必要がある。
俺は長年憧れてきた闇の支配者を思い浮かべる。
夜の街。黒い衣装。誰も寄せつけない孤独。圧倒的な力。そして、敵を前にして淡々と告げる一言。俺がずっと憧れていたものだ。
ならば、今こそそれを口にする。
「闇を追う者は、闇に喰われる」
言い切った。放送が途切れる。静寂が落ちた。俺は満足した。完璧だ。今度こそ、誰も俺を英雄とは呼ばない。学院最強の生徒会長を攫い、学院全体へ宣戦布告した謎の男。
これ以上ないほど悪役らしい。
しかも、俺はミスターXとしてついさっきまで学院を救っていた。その直後に生徒会長を誘拐する宣言をしたのだ。学院のやつらの精神状態を一気に絶望へと叩き落とした。
俺はイザベラを抱えたまま、軽く床を蹴った。
身体が浮かび上がる。そのまま屋根を突き破り、学院の外へ飛び出した。
風が黒いコートを大きく揺らす。俺はそのまま空を駆けた。
完璧な悪役ムーブだ。これならさすがに、英雄扱いされることもないだろう。俺は上機嫌だった。
イザベラを連れて学院から離れる。イザベラが何かを言っていたので、魔法で眠らせた。
俺たちは学院から離れた場所にある小さな部屋へ入った。少し前に借りた部屋だ。
人目につかない場所。窓はない。明かりも最低限しかない。部屋の中には必要最低限のものしかなく、外の音もほとんど聞こえない。
薄暗い。静かだ。完璧な悪役のアジトだった。
こういう場所に憧れていた。俺はイザベラを部屋の中央へ運んだ。
「ここでいい」
俺は彼女を椅子へ座らせる。そして、逃げられないように拘束した。もちろん、怪我をさせるつもりはない。
ただ、演出として必要なのだ。悪役が人質を自由にしているわけにはいかない。
イザベラは目覚め、拘束された自分の手元を確認すると、顔を上げた。
「……何をするつもり?」
鋭い目だった。さすが学院最強の剣士。こんな状況でも、恐怖に取り乱すことなく俺を睨みつけている。
「さあな」
俺は低く答えた。
「お前が知る必要はない」
決まった。我ながらいいと思った。こういう台詞だ。悪役なら、一度は言ってみたかった。
「私をどうするの?」
イザベラが尋ねる。俺は答えなかった。そのまま部屋の奥へ歩いていく。イザベラからすれば、何をされるのか分からない状況だろう。
だが、俺の目的は別にある。俺は魔法PCを起動した。小さな画面が淡く光る。続いて、配信用の機材を取り出す。
カメラを設置。位置を調整。
照明を置く。画角を確認。
音声入力も確認する。
問題ない。
俺は一度、部屋全体を見回した。狭くて暗い部屋。拘束された学院最強の生徒会長。その前に立つ黒い衣装の謎の男。
そして今回は、サングラスをかけてみるとしようか。鏡で確認する。うん、悪くない。俺は満足して頷いた。
「……ようやくここまで来た」
イザベラが俺を見る。
「どういう意味?」
配信の準備もできている。あとは始めるだけだ。
「……イザベラ」
「なに?」
「お前には、これから俺の配信に付き合ってもらう」
「配信……?」
「ああ」
俺は椅子に座った彼女を見下ろす。
「学院最強の生徒会長が、正体不明の男に誘拐されたことを全世界に知らせる」
俺はゆっくりと言葉を続けた。これなら、誰がどう見ても悪役だ。学院最強の生徒会長を拘束し、その姿を全世界へ公開する。
英雄がやることではない。正義の味方がやることでもない。
悪役のやることだ。
ようやく、俺の理想に近づいた。俺はイザベラの反応を確認する。彼女は何も答えない。ただ、鋭い目で俺を見ている。その視線には警戒が滲んでいた。
当然だろう。
突然誘拐され、知らない部屋へ連れてこられ、拘束されたのだ。警戒するのが普通だ。むしろ、この緊張感こそが重要なのだ。
俺はカメラの前へ立った。
襟を整える。疑似タバコを取り出そうとして、今回はやめた。配信中に火を使う必要はない。今は言葉だけで勝負したい。
「……今夜、世界に教えてやる」
俺は低い声で言った。
配信のタイトルはどうするか。
【緊急配信】学院最強の生徒会長を預かった、でいいか。
「闇に生きる者が、どんなものなのかを」
俺は配信開始のボタンへ手を伸ばした。指先が触れる。画面に表示された開始ボタンを見つめる。
ここからだ。ここから俺は、世界中の人間に自分が闇の支配者になる者だと知らしめる。誰にも理解されなくていい。恐れられれば、それでいい。
「……やあ諸君、ミスターXだ」




