転生先に、同志?
「「あなたも、転生者?」」
声が重なった。お互いの目が丸く見開かれ、お互いを映している。
「…………」
「…………」
沈黙。
私は扉を閉めた。
そして、もう一度開けた。
「こんにちは」
「こんにちは」
よし。幻覚じゃない。
「……いやいやいやいや!」
私はトランクをその場に落とした。
「転生者!?」
「そっちこそ転生者!?」
私はごくりと唾を飲み込み、恐る恐る口を開いた。
「……ゲーム名は?」
「フォーマリ」
お互いに指を差し合う。
どういうことだ。
ソヨジア・アンバー。
ゲーム内でマガレッタの隣に立っていた、もう一人の取り巻き。
ソーヨレッタ・レコットと同じく、彼女もまた『そうよそうよ係』。
「……推しは?」
ソヨジアが水色の目を半開きにして聞いてきた。
「初恋はレオ様、最推しはルシアン」
それを聞いた彼女は真顔でガシッと私の手を掴んだ。
「アデル担。BL可」
私もそれを聞いた瞬間力一杯手を握り返す。
「同志よ……」
固く握り合った手を、ぶんぶんと上下に振る。
「まさか異世界で同志に会えるなんて……」
「私も。オタク耐えフラストレーションたまってたんだよね」
固い握手。
初対面とは思えないほど、私たちの心は一つになった。
「ところでソーヨレッタ。ルシアン推しってことは、眼鏡好き?」
「違います」
即答だった。
「ということは?」
「声と、過去と、あのズボンのスリットから覗く足首が」
「業が深い」
「うるさい」
ソヨジアはくすくす笑った。萌葱色の髪がふわふわと揺れる。
「でも、よかった」
「何が?」
「この世界で、オタク丸出しで話せる相手がいること」
「……それは、まあ」
確かに。
前世の記憶が戻ってからというもの、ずっと一人だった。
家族にも、リンちゃんにも、当然ながら話せない。
まさか同じゲームを知っている人間が、この世界にいるなんて思わなかった。
「じゃあ、これからよろしくね。ソーヨレッタ」
「うん。よろしく、ソヨジア」
私は笑って手を差し出した。
ソヨジアも笑って、その手を握る。
――これで私の学園生活も、少しは安心できるかもしれない。
そう思った。
その直後。
「ねえ」
「ん?」
「一つ確認したいんだけど」
ソヨジアの顔から、すっと笑みが消えた。
「私の知ってるゲームでは、ソーヨレッタとソヨジアって――」
そこで言葉を切る。
「……卒業パーティーで断罪されるよね?」
「…………」
私は固まった。
「うん」
「…………」
「…………」
握手したまま、二人で遠い目をする。
「方向性としては、“キャラに近づかない”、“目立たない”です」
「意見が一致した。できなければその都度調整しましょう」
私たちは、再び固い握手を交わした。
――こうして。
悪役令嬢の取り巻き二人による、同盟が組まれたのである。
(そういえば、師匠もアデル担だったな)
荷物を片付けた後、私はソヨジアと晩御飯を食べにカフェに向かっていた。
その瞬間。
廊下から、甲高い声が響いた。
「まあソーヨレッタ。こんなところにいたのね」
聞き覚えのある声。
私はゆっくり振り返る。
廊下の向こう。
薄紫の髪を優雅に巻き上げた少女が、こちらへ歩いてくる。
「寮のお部屋は離れてしまいましたのね。残念。これから四年間、仲良くいたしましょう?」
にっこりと笑った。
マガレッタ・サジタリウス。
私の死亡リスク原因リストの、トップに君臨する女。
「…………」
「…………」
私とソヨジアは顔を見合わせた。
そして。
「「無理ーーーーーー!!!」」
寮中に、悲鳴が響き渡った。




