第81話 神になった人間と、人間になった神
100万を超えていた天使たち――。
「結論:ちからこそ、せいぎ」
「『ゴーちゃん』機関銃、発射! これは下級天使の掃討を目的とした多段的継続的な高密度の魔素収縮エネルギーが標的をロックオンして――」
コアちゃんとミラ、そしてクレズマーが創造した鋼の巨人。
その両肩や腕に設置されているいくつもの小さな砲台から発せられる魔力弾により、無数の天使がバラバラの肉片となっていく。
「『跳躍』!」
アイリスが、そこが地上であるかのように空を駆け、天使を瞬殺していく。
この俺をもってしても残像しか見えないほどだ。
「『転移・エアブレイド』――アイリスよ、我の様に素材を大切に破壊せよ!」
マールが天使の頭部をきれいに切断していく。
先ほど派手さを自慢していなかったか……?
「マールさん、あのような者たちは跡形もなく処理した方が世界のためですよ。『アイスプリズン』『ローゼンウィップ』」
魂まで凍らせた天使を、巨大な蔓で粉砕していく『冷鉄の美女』リエラ。
「らららら~♪ わらわはぁ~、破壊の大天使ぃ~♪ ルシたまのぉ~、ベストパートナぁ~~~♪」
開き直ったのか、チャチャが先ほどよりも大きな声量と物騒な歌詞で歌を紡ぐ。
破壊的音波の前には、天使など存在すら許されない。
「…………」
次々と蹂躙される天使を前に、さしもの女神も言葉にならないようだ。
「……“殲滅”共よ、行け」
「コォォォ……」
「ガァァァ!!!」
意思を持たない醜悪な姿の破壊の権化、“殲滅天使”が召喚される。
身の毛もよだつ咆哮と涎をまき散らしながら、飛び立とうとするが――。
「キモッ! こんなお人形作るなんて、趣味悪いんじゃない!?」
「ギャッ!?」
「グギャッ!?」
ミラの拳が、まるでゴブリンを潰すように“殲滅天使”たちを殲滅していく。
彼女にとっては、天使も“殲滅”も、ゴキブリか大ゴキブリかの違いでしかない。
そして――。
「やはり、ルシアン様の隣は私がふさわしいみたいですね!」
「何を!? 我の方が右腕に相応しいぞ! なぁ、ルシアン!」
言葉通り、アイリスとマールが俺の横に並ぶ。
「あなたたちもまだまだね。時に横に、時に前に、時に後ろに。真のパートナーとはそういうものよ」
「わらわは、一緒にいれればどこでもいいのであーる!」
「結論:ルシアンのうえは、わたしの」
「さすが『ゴーちゃん』ですぅ! この調子で最後の1人もやっちゃいましょう!」
背後にはリエラとチャチャ・そしてさらに後ろには巨大ゴーレムに乗ったコアちゃんとクレズマー。
そして――。
「(……魔力、切れちゃった……)」
「(ふっ……張り切りすぎたな)」
人化の解けたミラが、毛玉となって俺の右肩に乗ってくる。
「さぁ、神よ。残すところ……いや、お前は1人だ」
「…………くくく」
何の感情も籠っていない瞳で、こちらを射抜くポルカ。
その口が僅かに歪む。
「雑魚共を蹴散らしていい気分か? 廃棄物処理の手間が省けたぞ……」
「見えないのか? 天使どもの死骸がそこかしこに転がっているが……そういえば、視力が衰えたおばあちゃんだったか」
「…………」
「違うか。ゴミに囲まれて過ごすのが好きなのだな? 腐った性根に相応しいものな」
「……黙れ」
冷たかった瞳が、憎悪に染まり、顔を醜く真っ赤に歪ませ、体を激しく震わせながら……ゴミ屋敷の主人が吠える。
「我以外不要! 我以外汚物! 我以外……消えてなくなれ!!!」
「ぬっ!?」
「『零』」
その瞬間、ポルカの体を中心に空間が削り取られ――“無”が広がっていく。
『全て零に』という概念が広がっていく。
「『加速』――ダメか」
意識を加速。
しかし“無”の広がりは止まらない。ゆっくりとだが虚無が広がっていく。
このままでは……成す術もなく全世界が――ミラたちが消滅してしまうだろう。
「……やれやれ、できれば“これ”はやりたくなかったのだがな」
突然だが。
俺は『人間であること』を大事にしてきた。
アイリスたちにすら人間扱いされないことも多かったが、そのたびに『俺は人間だ』と答え続けてきた。
禁忌魔法――理を外れた魔法を使う俺にとって、そこだけは忘れてはいけないラインだと思って。
「だが、最早どうでもいい。彼女たちを守るためならな」
答える者は、誰もいない。
だが言葉などなくても……彼女たちは、共にいると言ってくれるだろう。
「『真魂顕現』。俺よ、『否定を否定する概念存在』――神と成れ」
消滅には、存在で応えよう。
不可能を、可能にしよう。
『ダメだ』と言う言葉に、拒絶を突き付けよう。
「『万象反転・無夢転生』」
虚無の空間が、元の――いや、俺の望む空間に作り替えられる。
空間そのものが消滅に抗うように、黒を白に塗り替える。
「『加速』、解除」
「消えろォォォ――おおお!?」
「消えろなんて、寂しいこと言うなよ」
「何を!? なぜ我の『零』が消えて!?」
「『否定を否定』しているだけだ」
『零』が逆に……白に飲み込まれるように、ポルカを包む。
「我が究極の技がなぜっ――はっ!? 貴様神になったか!?」
「その通りだ、大先輩さん。だがすぐに先輩じゃなくなるがな」
指をパチリと弾く。
その瞬間、ポルカの体が書き換わり、人間と同じものになっていく。
「ぬぐぅぅ!? 何だこれは!? 体が……熱い!? 力が入らぬ!?」
「お前から神の権能を剥奪。その体を人間と同じものにした」
大先輩と違って、俺は存在を否定しない。
散々見下していた人間にしてやっただけだ。
「戻せない!? 『あるべき姿』に戻れない!? 我が……我が人間に!? ふざけ……ふざけるなぁ! なぜそのような汚らしい存在に――」
「案外人間も悪くないぞ。時に神に成れるし、神を超える」
「ふざ……ふざけるなぁぁぁ!?」
どうやら、人間の姿は心底いやらしい。
仕方がない――。
「なら……そうだ、うちにお前と同じような存在がいたな。友達になってくれ」
「何を言って――ぐああああああ……あ」
再び指を鳴らす。
そこには30センチほどの大きさとなった、まるで人形みたいにかわいらしいポルカが。
きれいな顔立ちはそのままに、多少顔を丸くしたり目や頭を大きくしてかわいらしさを強調したミニ女神。
「まあ! ミニ邪神ちゃんにお似合いですね!」
「……! ……!」
「あはは、ぽかぽか叩いてきますけど、全然痛くないです!」
「……!」
「何言ってるかわかりませんけど、何だか嬉しそうですね! 本当はこうなりたかったのかも!」
「……!!! ……!!!」
アイリスに抱えられ、反抗とはいえない反抗を繰り出すミニ女神。
既に人間の言葉すら発声することができなくなってしまった。
「そうかもな。先ほどよりも愛嬌があってかわいいではないか」
あんなに憎たらしかった顔も、こうなってしまうとかわいいとさえ思えてしまうのが不思議だ。
本人は屈辱の極みだろうが。
「(さ! 終わったわね! 帰りましょう!)」
肩に乗っているミラが、当たり前のことのように言う。
きっと、彼女はいつまでも……“いつかの交わした約束”のように、傍にいてくれるのだろう。
「……そうだな。帰ろう、俺たちの家に」
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
次話は、いよいよ最終回です!
20時40分頃
投稿します!




