第79話 ポルカ=トラムと、禁忌魔術師
少し離れた森で、次元の扉を開く。
平穏で優しい夜の闇を切り裂くように、眩しい光が侵入してくる。
「…………」
扉の先には、万を超えるであろう天使の集団が待ち構えていた。
「目標補足、“神敵ルシアン・エヴァーハート”と確認、排除――」
耳障りな声の発生元を、音もなく崩壊させる。
1歩進むごとに、周囲の害虫を『あるべき姿』に還してやる。
崩壊して砂となった天使たちが、風に巻かれてキラキラと輝く。
それはまるで、客人を歓迎するかのような花吹雪のようで……死してもなお俺のために舞台装置を演じるとはな。健気なことだ。
「…………」
やがて近づいてくる天使もいなくなり、遠巻きにブンブンとやかましい羽音を立てるのみとなった。
「……下級天使程度を倒して、満足か?」
ひと際派手で悪趣味な建物、その部屋に……まるで彫刻の様に美しく、冷たい表情の女――ポルカ=トラムがいた。
「いや、歓迎の装飾が物足りなかったのでな。花吹雪を自前で用意しただけだ」
「……ふん」
「ああ、それと俺はアウトドア派なんだ。悪いが――」
天使と同じように、この悪趣味な建物を砂に還す。
残ったのは、キャンプには不格好な……女神が座っている派手な椅子だけだった。
「――ああ、すっきりしていいじゃないか。少し虫臭いが」
「……気が利かずに悪かったな。どれ、我も消すのを手伝ってやろう」
ポルカが右手をかざすと、俺の体内の情報が『あるべき姿』とやらに書き換わっていくのを感じる。
「ところでだ。てっきり、お前の方から俺の世界に来てくれると思っていたのだが……」
その“書き換え”――『存在してはならない』という神の定義を、『存在し続ける』という俺の論理が上書きする。
「なぜ? なぜ我が人間の元へ赴かんといかんのだ」
右手を降ろさないまま、ポルカが応える。
「そりゃあ、大層お怒りだったようだしな。俺のお土産、嬉しくなかったか?」
お返しに、『万象崩壊』――体を崩壊させながら。
「怒る? なぜ我が矮小な人間などに腹を立てねばならん」
ポルカも同様に、足を即座に『あるべき姿』に治しながら。
「ん? 忘れたのか? トマトをぶっかけられて不細工な面を晒したことを。長生きしすぎて記憶能力に支障が生じてしまったのか?」
「…………」
「その後何て言ったっけ? ああ、そうだ、確か……」
『この場の記憶』を表出させる。
現れたのは、色々な意味で顔を真っ赤にしながら『おのれ! ルシアン・エヴァーハート……許さぬッ! 絶対に許さんっ!!!』と叫んでいるポルカ。
「人間に腹を立てないと言っていたはずだが……記憶能力の限界が近いようだ」
「貴様……!」
「――もしくは、神というのは……数秒前の自分の言葉も忘れてしまうほどの知能なのか?」
「貴様だけは絶対に……絶対に許さんッッ!!!」
ポルカが立ち上がり、両手をかざしてくる。
絶え間なく押し寄せる『消去』の波。瞬き一つする間に、俺の心臓は数千回も存在を否定され、そのたびに俺の論理がそれを『維持』へと繋ぎ止める……150年前の俺なら、対峙した瞬間に魂ごと霧散していただろうな。
「『極大炎球魔法』×100!」
正直“書き直し”に手いっぱいで、この程度の魔法を使う羽目になる。
さすがは、神。
「ふっ! どうした? この程度の炎、明かりにもならんぞ!」
「視力まで落ちてるとは……神の座を降りたらどうだ?」
「ぬかせ!」
ポルカが『極大炎球魔法』に手を向けると、一瞬で消え去る。
だが気を逸らせたことでこちらの“書き直し”は完了だ。
「『魂装幻夢・瘴気!』」
「……不快! 汚らわしい!」
見えない特濃の瘴気はお気に召さなかったようで、周囲ごと見えない瘴気を消し去られる。
「我自らゴミは処分してやろう! 『神の大いなる千の慈悲』」
巨大な手の平が――やつの言葉通りなら1000の手が、俺をめがけて飛んでくる。
権能の範囲を手に集中させることでより効果的なのだろう。
これに触れるとさすがにまずそうだ。
「『絶対防御・不壊』」
『不壊』の概念を刻んだ障壁が千手を阻む。
止まったところから存在を解析し、『万象崩壊』に組み込んで崩壊させていく。
「ほう? これを防ぐか。ならば――『神が導く百の言葉』」
「――むっ」
100の口が現れ、不気味な合唱が始まる。
障壁を超えて耳から侵入する呪詛が、再び俺を書き換えようとするが――。
これは効かない。
「あいにく歌は間に合ってる。お前よりもかわいらしい天使が近くにいてな」
「“歌”か。ならば――」
「次は俺の番だ。こい、ゼファウルゴス・MK-Ⅲ」
“武”との戦いを経て強化された俺のゴーレム、その数10体。
「ほう、ちょうどいい。我も呼ぼう。『十の神罰騎士』」
ポルカの呼び出した白銀の騎士たちとMK-Ⅲたちが激突する。
『絶縁黒鉱』の機体が消滅し、白銀の鎧が崩壊する。
数はたまたまだろうが……全て同時に消滅してしまった。
「……ルシアン・エヴァーハートよ、そろそろ終わりにしようではないか」
「……そうだな。おばあちゃんの相手はもう飽きた」
一瞬の静寂。
「…………」
「…………」
そして――。
「『我、唯一神』」
「『加速』」
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いよいよ最終決戦!
明日の投稿は
18時30分頃
20時10分頃
20時40分頃
となります!




