第77話 悪だくみするマスコットと、力を望む幼女
“畏れ”のシンセイヴとやらを追い返した後、拠点に戻った俺たちを残りのメンバーが出迎えてくれる。
「ルシたま! お疲れ様なので……あー……る……」
「あ……」
“歌”と“魔法”の大天使が、出会った。
「……ども……」
「どどど……どうもぉ~……」
「…………」
「…………」
人見知りか。
俺の背後に隠れるようにクレズマーが、そして俺の前面に隠れるようにチャチャが。
遠くて近い。
「……ルシたま! わらわのお歌で癒されるのであーる!」
「ひさしぶりの再会だろう? もっと話すことはないのか?」
「……はっ!? そういえば!」
ようやく何かを思い出したかのような声をあげるチャチャ。
「この人! “魔法”の大天使! 敵なのであーる!」
「それはお前もだろう」
「むー!? むー! むー!」
言葉にならない怒りを乗せたグルグルパンチが俺を襲う。
痛くない。
「ルシたまはひどいの! わらわをこんな体にしたくせにぃ!」
「……こんな体!? チャチャさんはどんな体に変えて貰えたの!?羨ましいなぁルシアン・エヴァーハートに直接体を“書き換え”してもらったんだ!?ボクにも見せてよ一体どこをどんな風に変えられたんだろうもしかしてそのおっぱいが爆発しちゃったりするのかなそれともポニョポニョのお腹に何か細工でも仕掛けられているのか――ひゃぶっ!?」
「うるさいの!」
クレズマーの顔に思いっきりビンタ……あれがチャチャの本気か。
「…………」
しかし、こういう時パタパタうるさいマスコットがいないのは、やはり寂しい。
「ミラはどこだ?」
ミラの居場所を尋ねたところ……何やらリエラが言い淀んでいる。
「え、え~っと……」
「何だ!? ミラの身に何かあったのか!?」
そんなことあるはずが……。
もしや魔力切れ――いやそんなはずはないミラに必要な大量の魔力供給はこの世界を構成する時にまず最初にクリアした課題、そのためのミニ邪神を作り出したのだから――。
「いえ……家の裏にコアちゃんといます……ですが、今は……」
「ミラ!」
逸る気持ちを抑えることもせず、全力で家の裏に向かう。
そこにいたのは――。
「きゅーきゅー……」
「……むりょく……」
「きゅー……」
「……ちから……ない……」
めちゃくちゃ落ち込んでいる2人だった。
「……ミラ? コアちゃん?」
世界樹の苗木の前でしゃがんでいるコアちゃん、その横で落ち込むように力なく羽を垂らしているミラに声をかける。
しかしどうやら、ミラの身に異変が起こった訳ではなさそうだ。
「きゅ? きゅー!」
「のわっ!?」
「(ばかぁっ! ルシアンの……ばっかぁー!!!)」
「な、なんだ一体……」
突然顔めがけて飛んでくるミラ。
何やらご立腹の様子。
「(何でもない! とにかく……とにかく、ばかぁー!!!)」
「な、何なんだ一体……」
訳も分からず文句を言われるが、とりあえず一安心だ。
「ルシアン・エヴァーハート! もしかしてこのトマト爆発――あれ? このふわふわの毛玉……天使?」
「ん? ああ、このマスコットはミラと言ってな……この体は昔天使の体を元に俺が作り出した、いわば人造天使だな」
「ふぉぉぉおおおおおお!? 見たい! 触りたい! 調べたい!」
「(ちょっとルシアン!? 何で大天使と戦いに行ったのに女の子が増えてる訳!?)」
状況がカオス。
いったんクレズマーは黙らせよう。
「クレズマー、後でその時の資料を読ませてやるから静かにしてろ」
「んーー! んーーー!」
口を真一文字に結び、前髪に隠れた瞳が隙間から輝いているのが見える。
本当に魔法や魔術が好きなんだなぁ。
「ミラ、この子は元“魔法の大天使”クレズマーだ。うちで面倒見ることになった」
「(あんたって奴はまた――“魔法”?)」
「(ああ)」
「(ふーん。今回は許す)」
珍しい、いやかつてなくあっさり許された。
そしてミラは俺の肩を飛び降り、クレズマーの頭の上に飛び乗る。
「きゅー! きゅっきゅきゅー?」
「え? 次元を超える魔法? もちろん――」
「きゅっ! きゅー!」
「え? 教えろって? 別にいいけど――」
「きゅっきゅー!」
「え? 内緒にしろって? んーー!」
何やらクレズマーを巻き込んだ悪だくみが始まるらしい。
コアちゃんが落ち込んでいるのにも関係あるのだろうか。
「コアちゃん、どうしたんだ?」
「……ちからが……ほしい……」
「……そうか」
また物語の悪人みたいなことを……。
◇◇◇◇◇◇
「あらあら、ミラさんに振られちゃったみたいですね」
仕方がないので、農作業をしているリエラを眺めつつトマトを齧る。
日差しがあたたかくて気持ちがいい。
先ほどまでの、害虫退治で疲れた体に染み渡る。
「そうなのだ。新しく来た女に、嫁と娘が奪われた」
「まあ! でしたら、ルシアン様も別の女性と浮気しちゃいます? ここに、100年前からあなたのことを愛している都合のいい――」
「お前のことを都合がいい女だと思ったことはない。なぜなら……愛する女性の1人だからな」
「――んっ」
リエラを抱きよせ、その口を塞ぐ。
「――ぷはっ……ルシアンさまぁ……」
「リエラの汗の味だ」
「……もう。ルシアン様こそ……ファーストキスは、トマトの味でした」
「はは、それはすまなかったな」
「はい。ですので、もう1度……ちゅ」
彼女とも結ばれる日が近いことを感じながら……たどたどしくも、100年の想いをぶつけてくるかのようなリエラの唇を味わった。
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
いよいよ最後の戦いが……! な明日の投稿は
12時10分頃
20時10分頃
となります!




