第76話 【悲報】色とりどりの夏野菜は、女神さまのお気に召さなかったようです
――天界にて。
「…………」
女神ポルカ=トラムの目の前には、“畏れ”のシンセイヴが震えながら膝を付いていた。
「も、申し上げます……ポルカ=トラム様……」
「…………」
「こ、此度の“神敵”討伐の任ですが……その……」
「…………」
「し、“神敵”の卑劣な罠によって……」
「…………」
続く言葉などわかっている。
既に女神の頭の中では、この“失敗作”をどう処分するか考えていた。
「……敗走を余儀なくされ……ました……」
「…………」
右手を上げて“畏れ”を消そうとしたその時、ようやく女神は気が付いた。
“畏れ”の背後にいる、醜い存在を。
「なぜ“殲滅”共がこの場にいる」
「は? それはもちろん、我々と同じく天上の民、その一員ですから!」
先ほどまで震えてばかりいた“畏れ”が、まるで別人のようにハキハキと告げる。
その表情には笑みすら浮かんでいた。
「……“殲滅”のようなゴミをこの場に連れてくるなと言っていたはずだが?」
普段の冷たい視線や言葉とは異なり、実際に物理的な破壊を伴う魔力を込めながら“畏れ”を睨みつける。
美しく整えられていた部屋の装飾は砕け、絹の様に白い床には亀裂が入る。
しかし、“畏れ”はどこ吹く風とでも言うように……逆に笑みを深めて続けた。
「我々は――ふふふ! ポルカ=トラム様、我々は! あなたへのお土産なのです! ふふふふ!」
「は……?」
「ご覧ください! このトマト! 真っ赤に熟しててとてもおいしそうでしょう!」
「……なぜ……?」
いつの間にか、“畏れ”の手の上にはトマトが乗っていた。
それだけではない。
“殲滅”たちの手にはキュウリやナス、そしてゴーヤなどの野菜が。
「…………」
「『せっかく採れたが……俺たちの口には合わなかった。せっかくだから貰ってくれ』だそうですよ! いやぁー、ははは! ルシアン様は気前がいいですなぁ!」
「何を……」
「ああ……ルシアン様、あの方は……あの方こそが真の救い……うふふふ、あはははは!」
“畏れ”の顔は最早笑顔を通り越し、あたかも慈愛に満ちた主君に仕える忠実な部下のような、恍惚とした表情を浮かべていた。
その対象は当然、女神ではなかった。
「……貴様――」
「さささ、どうぞどうぞ――おや?」
“畏れ”が手にしたトマトを差し出そうとしたその瞬間、全ての野菜が弾け飛んだ。
真っ赤な汁が、青臭い匂いが、鼻を突く苦い汁と実の破片が、女神の部屋をこれでもかと汚す。
そして、あろうことか――
「……き……さまぁ……!」
「やや! ポルカ=トラムの顔に飛び散ってしまいましたねぇ! うぷぷ! いつも澄ました顔が真っ赤になって――あーっはっはっ! ですがさすが女神! 真っ赤になってもお美しい! お似合いで――」
「死ね」
「ひゃぶっ!?」
しかし、女神が“畏れ”を消す前に――“畏れ”の頭が弾け飛んだ。
その様は先ほどの野菜同様、女神の顔に真っ赤な化粧を施す。
「あびゃ」
「ぐえ」
「おぼっ」
“畏れ”の爆発を合図に、“殲滅天使”たちも同様に弾け飛ぶ。
否、この場にいない、『彼の世界に許可なく足を踏み入れた者』たちが一斉に爆発していた。
ルシアンが用意した、本物の“お土産”だった。
「……おのれ……」
目を血走らせ、血が出るほど歯を噛み、手を震わせながら……実に1万年ぶりに、女神が大声を上げた。
「おのれ! ルシアン・エヴァーハート……許さぬッ! 絶対に許さんっ!!!」
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
明日の投稿はお休みです!
次話の投稿は
29日20時10分頃
となります!




