第75話 純粋な好奇心と、純粋なお土産(悪意)
「来い! “殲滅天使”たちよ!」
“畏れ”の声と共に現れたのは、天使とは思えない造形の者たち。その数10体ほど。
体は赤黒く異様に膨れ上がり、頭には目元まである兜のような装置が付けられている。
「ブルルルル!」
「ゴァァ! ガァァア!!!」
「シュー……シュー……」
口元から涎を垂らし、次の指示を待っている様子は……まるで知性を感じられない獣のようなものにみえる。
「ででで、でたぁ~~~!? “殲滅天使”だぁ!? ふえええぇぇぇええん!!!」
「泣くな鼻水を付けるな。“殲滅天使”とは何だ?」
「ズズズ……奴らは、天使の失敗作、です……強すぎる権能と引き換えに……怖くって……!」
つまり、過剰に力を与えられた結果知性を失った天使ということか。
「行け! “殲滅天使”たちよ!」
「アギャギャギャーーー!」
「ゴォォァアア!!!」
まるで空腹の肉食獣が数日ぶりの餌を見つけたかのように、アイリスやマールに迫る“殲滅天使”。
そのような野蛮な存在、彼女たちに近づくのは許せんな。
「『真魂顕現』」
「わわわ~! やっぱりきれいな魔法陣!“殲滅天使”の魂を強制的に表出させて――ああ情報を書き換えているんですね!?そんな魔法があるなんて――はわわ早すぎて何を書き換えてるのかわかりません!けどあまり変えてないような気もするしっていうか何で10体全部同時に書き換わってるんですか!?意味わかりませんわからないけど凄すぎます!はわわわわぁ~!」
この間、0.5秒。
この天使の権能は“早口”に違いない。
「……“殲滅天使”たちの目的を『天使たちへの攻撃』に書き換えた」
「そんなことが!?」
「見ろ、天使たちを攻撃しているぞ」
「……わぁ~……」
悍ましい風貌の“殲滅天使”たちが、天使たちに向き直り……体を引きちぎったり、嚙みちぎったり、頭を殴り飛ばしたり……。
突如として仲間から襲われる一般の天使たちにも、意志が希薄ながら混乱が生じているな。
「何だ!? どうなっている! 言うことを聞け“殲滅天使”ども!」
「マヌケなやつだ。戦いにおいて意思がどれほど重要かわかっていないようだ」
「何ッ!? まさか……“神敵”! 貴様の仕業か!?」
「ようやく気が付いたか。マヌケめ」
「ぐぬぬぬぬ……!!!」
“畏れ”が悔しさに顔を歪めている間にも、アイリスやマール、それに“殲滅天使”たちによって害虫の数はどんどん減っていく。
「……撤退だ! 総員、退けーーー!!!」
ここでようやく、“畏れ”が撤退を決めたようだ。
当初よりも大きく数を減らした天使を率いて次元の向こう側へと逃げていく。
「あ! 逃げるな卑怯者! 最後まで戦えー!」
「お前が言うな」
「ルシアン・エヴァーハート! 追わなくていいの?」
「問題ない。天界に土産も必要だろうしな」
当然のように、“早口”の大天使――クレズマーと呼ばれていたか、そいつはついて行かないらしい。
『追わなくていいの?』はこちらのセリフである。
「……お前、どうするつもりだ?」
「……わかんない」
「はぁ?」
「だってぇ……」
“早口”はどうした。もしやこいつ、自分に興味のあること以外喋れないタイプだな?
「ルシアン・エヴァーハートを見たら……素敵な魔法を生み出す人だって……それで……」
「……気がついたら、こちらに来ていたと?」
「…………」
無言で頷くクレズマー。
やれやれだ……。
「ルシアン様! 予定通り、追い返しましたね!」
「見たか! 我の華麗なる爆発魔法を!」
アイリスとマールが戻ってきた。
2人とも、そしてゴーレムたちも無傷である。
「ああ――」
「見てたよあなたの魔法!すごかったねぇ空間の歪をわざと増幅させて爆発させてたんでしょ!?しかも自分を狙って近づいてきた天使たちを巻き込むようにして!なんて無駄のない魔法だろうって感動してたんだよ!それに魔術式もとってもきれいだった――」
「お? お、おお!」
あのマールが押し込まれている。
やはりこいつは……ただの魔法大好きな研究者タイプの天使らしい。
「……話は後でにしろ。お前はクレズマー、だな?」
「あ……うん。ボクは……“魔法権能天使”、だよ……」
“早口”ではなく“魔法”だったか。
そういえばチャチャが“魔法”もいると言っていたな。ほとんど会ったことが無いらしいが。
「来るか? 一緒に」
「……いいの?」
「……お前には、俺の服を台無しにされたからな。働いて返してもらわねばならん」
「あ、あうぅ~……」
大量につけられた鼻水、当然とっくに『自動洗浄』できれいになっているが……黒い服だからわからんだろう。
「それと、敵対しないように魂の情報を書き換えさせてもらう」
「あ、うん……そうだよね……」
「『真魂顕現』」
魂を表出させ、とある部分を書き直す。
「クレズマーさん、安心してください! 本当は『この世界に許可なく足を踏み入れた者に施した危険な“書き換え”』を治してるだけですよ!」
「え? どういうこと?」
「アイリス、余計なことを言うな」
「ふふふ、照れ屋なルシアン様ですね!」
アイリスの奴め、何を見当違いなことを言っているのか……。
一応本当に安全策も盛り込んではいるのだが?
「……“書き換え”終了。戻るか、俺たちの本当の世界に」
「はい!」
さてさて。神の奴は受け取ってくれただろうか。
俺が用意した素敵な土産――『この世界に許可なく足を踏み入れた者に施した危険な“書き換え”』を。
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
明日の投稿は
20時10分頃
となります!




