第74話 最弱の大天使と、最強の大天使
「ふぅ……ふぅ……んっ。えへへ、今日もい~っぱい、出たね~♪」
ロルウェンナとこっそり温泉に入りながら、とある共同作業をしていた昼下がり。
出たのはもちろん、風呂に細工を施した泡のことだが?
「……む?」
「どうしたの? もっかいする?」
「する」
「やん♪」
◇◇◇◇◇◇
その後、拠点に戻り支度をする。
「アイリス、マールよ。行くぞ、ようやく奴らが来た」
「(結構前から来てたよね? その間何してたのかしら!?)」
「(お、お風呂……)」
「(ふーん!)」
来たことには気が付いていたが、世界の壁を破るために時間がかかると踏んでいた。
その証拠に、まだ奴らは外側にいる。
「……いよいよですね! 待ちくたびれました!」
「我も準備万端だ! なぁ、我ゴーレムよ!」
「我本体との連携成功率1%。問題ありません」
「(それ、問題しかなくない?)」
マールとマール・ゴーレムの魔法コンビネーション。特訓していたのは知っていたが……。
マールは当然のこと、その魂を分けたゴーレムも我が強そうだし仕方がないのか。
「0ではない限り可能性は無限大だぁ! 行くぞぉ!」
「マールさん!? 可能性は1%では!?」
アイリスの言うとおりである。
「(私は拠点に残ってるね!)」
「(む? 珍しいな)」
「(ま、万が一こっちに来たらみんなを守らなきゃだし!)」
「(……そうか)」
いつも右肩に乗っていたミラがいないと左右のバランスが取れずに魔術を失敗する可能性が……いや、弱音は吐かん。
「ルゥくん、無事でいてね……」
「わらわも応援しているのであーる! ルシたま、ふぁいとぉ~♪」
「ルシアン様、こちらのことはお任せください」
「ルシアンくん、待ってるから!」
ラビラビィたちの声援を受け、次元の扉を潜る。
そこには真っ黒な空間、何もない虚無が広がっている。
「……まだ来ていないようですね……!」
「次元の壁が破壊に時間がかかっているのだろう。仕方がないからこちらから迎え入れてやるぞ」
「おう!」
壁の向こう側には既に山ほどの天使が、まるで砂糖に群がる蟻のように蠢いている。
壁が壊されるのを今か今かと楽しみにしているのだろう。
「『次元破壊』」
次元の壁を破壊した瞬間、その蟻たちが突入してくる。
愚かなことに……ここがどこかも知らないで。
「“神敵ルシアン・エヴァーハート”よ! 貴様の命運は尽きた! 貴様の世界を突き止めた今、ここで我らを退けたとしても……何度でも襲い来てやる!」
あれは……確か“畏れ”の大天使シンセイヴだったか。
マヌケなことだ。
「ここがどこだか、まだわからないか?」
「……なに?」
「ここは俺の世界じゃない」
「はっ! 何を言うかと思えば……!」
「ちょうど家主がいなくてな。間借りしているだけだ」
「……何を言って……?」
大天使ども探すのが手間だからと、逆にこちらに来るように誘導することを思いついたのが先日。
そのためにわざと魔力の痕跡を残して追跡できるようにしたのだ。
とはいえ、害虫に自分の家を知らせる趣味はない。
そう、ここは――邪神の世界。その跡地だ。
「やっぱり……残された痕跡はわざと……罠だったんだ、ね……!」
「……ん?」
いつの間にか、俺の隣に見知らぬ女がいるのだが……。
「すぐにわかったよ……あんなにきれいな魔法陣を描く人が……痕跡を残すはずがない、って……!」
「あ、ああ……そりゃどうも」
しかも、俺たちに対する敵意が全くない。それどころか“畏れ”に向き合うように立っている。
恐らく天使……ではあるはず……。
「……クレズマー? そんなところで何やってる……?」
「か、かかか! かかってこーい! おまえらなんか……こわくないぞ、ぞぞぞ……!」
そしてブルブル震えながら――あまつさえ俺にしがみつきながら“畏れ”に敵対宣言してるのだが。
「……貴様、何を言っているのかわかっているのか?」
「ううううるさぁい! ボボボ、ボクは魔法が好きなんだぁぁぁ! お前らなんか……大っ嫌いだぁぁぁ!!!」
「……ならば! “神敵”と共に死ねェェェ!!!」
内輪揉めに巻き込まれた件。
「アイリス、マール! 悪いが――」
「はい! ルシアン様はそのかわいそうな子を守ってあげてください!」
「わはは! ルシアンは相変わらず女の子に甘いな! ここは我らに任せろ!」
「え?」
この子を守ることは決定してるのか?
そんなこと……この俺の目をもってしても――まじか。
「ふえええぇぇぇ~~~ん! 怖かったよぉ~~~!」
「そ、そうか……」
前向きにとらえれば、敵に抱き着いて鼻水つけながら大泣きするほどの怖い相手に立ち向かった勇敢な子とも言える。
普通に考えれば、『何だこいつ』である。
とはいえ天使を放っておく訳にも……。
「A班! 前へ! B班はそのフォロー! C班はルシアン様と女の子を守るように!」
「「「指示受諾、任務遂行開始します」」」
アイリス率いるゴーレム軍が次々と下級天使の群れを屠っていく。
一糸乱れぬ統率の取れた動きは、天上の羽虫共とは対照的で美しくもある。
「我よ!」
「了解、我本体よ。『転移』――失敗、爆発します」
「おおおお! いいぞ我ゴーレムよっっ!!!」
「損傷0。敵機10破壊。爆発は芸術。任務続行」
マールが相方であるマール・ゴーレムと互いに『転移』で位置を入れ替わり合い、次々に魔法を放っていく。
時折転移先でマール・ゴーレムが爆発するが、それすら攻撃に活用しているようだ。
「ぬぅぅ! 『人間どもよ! ひれ伏せ! 我が畏れの前に跪け!』」
「……? 何かしましたか?」
「――何っ!? 我が“畏れ”が……効かないだと!?」
「……?」
アイリスのきょとんとした顔とは対照的に、シンセイヴとやらの顔が真っ赤になる。
“畏れ”とは、圧倒的に優れた存在に対して、敬意や慎み深さを伴った『畏怖・畏敬の念』。
俺たちが奴を畏れることなど、ありえない。
「滑稽だな。1番偉そうなやつが1番の雑魚とは」
「ぬぐぐぐぐぅっ!!!」
しまった、聞こえてしまったか。うっかり『音声拡大』で言ってしまったらしい。
「いっけー! そこだー! やれやれー! わぁ! きれいな爆発だぁ! すごいね移動先の次元がずれることによって空間が歪んでその隙間を埋めるように魔素が急激に集まっちゃって――わぁ~~~!!!」
「…………」
そして、1番の強敵――問題はこいつである。
天使特有の金髪と整った顔。体は小柄で背中の翼とアンバランス。
ショートカットなのに前髪は目を覆うほど長く……隙間から覗かせた瞳を輝かせながらマールの魔法に魅入っている。
「かくなる上は……来い! “殲滅天使”たちよ!」
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