第69話 王国を襲う天使の策略と、無関係の大賢者
「――ということがあったようだ」
大天使と思われる者たちとソニプロフェン王国の王との密談、記憶から再現したその場面をアイリスたちに見せる。
「そんな……! 罪のない人たちが危ない目に! 急いで助けに行きましょう!」
「まあ待て。既にこの場面は3日前、王国の民は蹂躙されつくしているだろうな」
「そんなっ!?」
アイリスだけでなく、ラビラビィたちも絶句している。
「……そして、これが今の惨状だな」
「……何よこれ! 国を預かる身でありながら……怯えてるだけなの!?」
そこには、部屋の隅で膝を抱えている王や臣下の者たち。
中には漏らしている者もいるようだ。
「そして、これが王都だな」
「ああ……民が……女性が!?」
そこには大量の天使たちが町や人々を蹂躙する姿が映し出されていた。
3日前に王と対面していた“武”の大天使などは、女性を犯しながら男性を引きちぎっている。
もちろん、局部は黒塗り加工だ。
「ひどすぎる……これが天使のやることなの……?」
「ひどい……あんまりです……!」
アイリスが顔を手で覆い、悲しむそぶりを見せるが……。
しかし指の隙間からこちらをチラチラ見ている。
「(チラチラ)」
「…………」
「(チラチラ)」
「…………」
「(ちょっとぉ、アイリスは正義感が強いんだから! からかうのはやめてあげて!)」
やれやれ、仕方がない。
アイリスの奴め、しっかり俺のことがわかっているようだ。
「――というのが、本来王国が辿るはずだった『神の定めた運命、あるべき姿』だ」
指をパチンと弾くと……蹂躙されていた人たちの姿が全てゴブリンに変わった。
もちろんこちら側の映像だけだが。
「『魂装幻夢』でゴブリンを人間に見せていた。天使たちは知らないうちにゴブリンを犯している、という訳だ」
「やっぱり! ルシアン様はお優しいですもんね」
「優しくはないぞ。王族共はそのままだ」
「……まあ」
さしものアイリスも、遂には彼らに同情することはやめたようだ。
「……国の女性を『どうぞご自由に!』なんて差し出すゴミクズども……ぜってぇー許さねぇ! だけどよぉ――」
「同感です。ですがルシアン様、家や畑など民の財産が傷つけられているのは事実。急ぎ救援に行くべきかと」
ラビラビィやリエラ言うことも一理ある。
が――。
「その必要はない。なぜ俺があの国の民などを助けねばならんのだ」
「ほん? 今度は何を企んでいるのだ?」
「…………」
「(ぷぷぷ! もうみんな『理解ってる』のね。ルシアンが素直じゃないってことが!)」
何も理解っていないが?
「……我が世界で採れた暗黒世界――とある果実を使った合成物をな、実験的に投与したのだ。現在セシリィ王女が中心になって避難している国民共にな」
「ほう! どんな効果なんだ!?」
「『あるべき姿の能力を極限まで高める』――つまり、めちゃくちゃ強くなる」
「なんと! 爆発は!?」
「しない」
『なぁんだ……』と呟き、興味を無くしたように下がっていくマール。
彼女は、自由だ。
「あくまでこれは魔術実験。それがたまたま自分たちで王国を守るかどうかなど……俺の知ったことではない」
次元の裂け目の向こうでは、ちょうど国民が王都に辿り着いたようだ。
人間とは思えない力で天使どもをねじ伏せ、人間とは思えない跳躍で空にいる天使をはたき落とし、人間とは思えない速度で天使を引きずり回している。
「すごっ! あれが一般の人間!?」
「武の心得がなくても、圧倒的パワーで倒していっています!」
「ほう! 天使たちが求める『あるべき姿』、その極地に辿り着いた人間に逆襲を食らうとは……なんとも皮肉なことだな!」
まるで闘技を観戦しているかのような彼女たちの中で、唯一そうでない者がいた。
「だけど! サザロックはとーっても強いのであーる! 人間じゃとても……」
「そうだな……しかし、関係ない」
「……むー! むー!」
かつては向こう側だったというのに、グルグルパンチをしてまで不満を訴えてくるチャチャ。
「こうなれば……わらわが助けに行くのであーる!」
「それは待て。あいつらのことだ、お前は『汚れた身』とか言って犯されるぞ」
「けど――犯されるってなぁに?」
「……この前、海に行ったときのこと覚えてるな。アレだ」
「…………行かない」
賢明である。
それに、奴らの目的は俺らを誘い出すことだろう。ならば意地でも行かん。
「ほれ、見てみろ」
「むー……あ、あれは……?」
「ルシアン=ゼファウルゴス・MK-Ⅱだ」
コアちゃんと一緒に作り上げたゴーレム人形。
その1番最初のゴーレムが、今なおゴブリンと交尾している“武”の前に立ちはだかった。
「ちょうどいい、MK-Ⅱを通して向こうとこちらとの音声を繋げよう……あー、あー聞こえるか、そこの物好き天使?」
「ん……? お前……何者だ?」
「貴様のようなド変態物好き天使に名乗る名はない」
「はっ! 悔しかったら俺を止めてみろ!」
挑発するように、腰を振る速度を増す“武”。
これは……絶好のタイミングを見計らうしかないな。
「ふははは! 我が子種を受け取るがいい! んはぁぁぁ――あ、あれ……?」
「ゴッブン♡」
「お、おい……おいいいぃぃぃいいいい!?」
絶頂を迎えそうな瞬間、『魂装幻夢』を解除する。
その瞬間、奴の下半身と結合していたゴブリン(雄)が姿を現し……恍惚の表情を浮かべながら、サザロックを見つめていた。
「何だ!? どうなっている!? 俺は……俺はまさかぁぁぁああああ!?」
「何匹ものゴブリンを抱いて……そんなにゴブリンが好きか?」
「ああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
「くくく……あーっはっはっはっ! これは傑作だ! まさに天にも昇る気持ちだっただろう!?」
「(あっははは! さいっこーね! ゴブリンも嬉しそうだし、みんなハッピーね!)」
実に心地よい絶叫である。
しかし……俺とミラだけは腹を抱えて笑っていたが、アイリスたちは目を背けているようだ。
こんなもの、数百年に1度あるかないかの笑いものだぞ。
「……コロスゥ!」
「はは、まるでゴブリンのような片言だな。だが俺に八つ当たりしたところで、ゴブリンを愛した事実は消えんぞ?」
「シネェェェェエエエエエエエ!!!」
さて、果たして“武”の本気の攻撃を耐えられるか。
まじめに実験開始だ。
「オラァァァ!!!」
「――ッ!」
ガキンという耳をつんざく音が響き、“武”の拳がMK-Ⅱの頬を殴りつける。
「――い、いてぇ……」
「ふむ」
「な、何で痛いんだよぉ~……俺様の……『神の権能』を乗せた拳がよぉ~……!」
「……どうやら、効いていないようだな」
MK-Ⅱの守りは、当然鉱石だけの硬さではない。
魔力を内包する部分に『不壊』の概念が書き込まれてある。
俺ではない声で『損傷:0。戦闘継続に支障なし』と解析して見せるMK-Ⅱに、サザロックとやらも呆然としている。
「……とはいえ、さすがに無傷とはいかないと思ったが……」
「――!? 黙れ! 黙れ黙れダマレダマレダマレェェェェ!!!」
“武”の拳や蹴りによるラッシュ。
掠った瓦礫が砂のように粉砕されているのを見ると、確かに驚異的な威力らしい。
MK-Ⅱは無傷だが。
「……もう十分だ」
「まだまだだぁぁぁあああ――アギャ!? アギャギャギャギャ!?」
サザロックの顔面を掴み、締め付け上げる。
すると彼は、遂には涎を垂らしながら、ゴブリンのような悲鳴を上げ始めた。
「た、たしゅけ――」
「『万象崩壊』」
「俺様が……最後が……ゴブリン……と……」
かつてダンジョンの壁を掘り進むのに用いた魔法。
対象を一瞬で分解する強力な魔法だが、準備に手間取るもの。
しかしゴーレムにあらかじめ付与しておけば即座に発動が可能のようだ。
「『右腕の損傷確認。戦闘及び救助の続行に影響なし。指示を待つ』
とはいえ、MK-Ⅱの右手――いや、右腕までも崩壊してしまっているな。
出力調整を誤ったか、あるいは素材の強度が大天使の魂の崩壊エネルギーに耐えきれなかったか……。
いずれにせよ、多用はできなさそうだ。
さて――。
「――これにて、実験終了」
「(ついでに王国も、また救っちゃったね!)」
チャチャにはしなかった、実際に大天使を“分解”して得られた情報もある。
「まだまだ実験台が足りないな。他の大天使とやらを探しに行くか」
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