第68話 【悲報】神敵の捜索に焦った天界、ルシアンを追放した王国を“ついで”に滅ぼすことに決める
※視点が切り替わっておりますのでご注意ください。
――天界。
雲が幾重にも重なって白い大地を形作り、空気は澄みきっていて清らかな温もりを帯びている。
風が吹くたび、遠くの雲海がきらりと揺れ、光の粒が舞い上がる。
天頂から降り注ぐ光は、温かく、優しく、落とす影すらも柔らかい。
「……神敵、ルシアン・エヴァーハートが消えた?」
この世界の主、女神ポルカ=トラムが……世界の様相とは真逆に、冷たい声と目線で目の前に跪いている2人の配下を射抜く。
「……は。数か月前から全く足取りがなくなりました。ただいま下級天使を総動員して手あたり次第捜索しているところです」
“畏れ”の大天使、シンセイヴが代表して報告する。
その足は微かに震えていた。
「……ならば、彼奴にゆかりのある場所をいくつか滅ぼすがいい」
「よろしいのですか?」
「多少の犠牲は構わぬ。他の者共の見せしめにもなるしのう……」
さして興味がないように、女神が自身の子どもたちの築いた砂の城を壊すように指示する。
「何よりも優先すべきは、“神敵ルシアン・エヴァーハート”の完全消滅。他の人間どもの命など、些事に過ぎぬ」
“畏れ”の大天使は理知的な天使である。
個性の強い大天使の中にあって、公正公明を信念とする彼としては人間への慈悲の想いも強い。
だが、その想いも女神の前では露となって消える。
「かしこまりました。手始めに――奴が長く滞在し、最終的に救国するまでに至ったソニプロフェン王国を滅ぼしましょう。この国の危機を知れば、雲隠れしている“神敵”も出てくるはずです」
「好きにするがええ」
再び、興味のないように承認を下す女神。
微妙にズレた評価をされているが、それでもルシアンをおびき寄せる餌のため、ここにソニプロフェン王国の滅亡が決まった。
「我が主、ポルカ=トラム様。1つよろしいでしょうかい」
「何だ……」
“畏れ”の背後にて跪いていた、“武”の大天使サザロックが口を開く。
その口元は……いやらしく歪んでいた。
「我ら大天使の内の1人、“歌”のチャチャが……“神敵”の手に落ちたそうです」
「……おお、確かに1人足りなかったな……」
自身の配下にすら興味を持っていなかったように、1人足りないことに今気が付いたポルカ=トラム。実際はもう1人、“魔法”もいないのだが……。
それには気が付かず、サザロックが言葉を続ける。
「もはや、チャチャは我らの同胞とは呼べないかと。既に“神敵”に汚され堕ちた身……いかがしましょう」
「好きにしろ」
「……ありがたく」
ニチャリと聞こえてきそうな笑いを浮かべ、サザロックが舌なめずりをする。
天使とは思えぬ濁った欲望を隠そうともせず、整っているはずの顔が醜く上気している。
それに対して、この日初めてポルカ=トラムが表情を変えた。
「(我が造物でありながら悍ましい。人間の心を取り入れ過ぎたか……)」
自身の代わりに世界の秩序を守るために創造した配下たち。
人間の世界を正すために必要かと取り入れたが、失敗だったと内心で毒づく女神だった。
「……用が済んだのなら、行け」
「「「はっ!」」」
◇◇◇◇◇◇
――ソニプロフェン王国にて。
「今言った通り、3日以内に“神敵ルシアン・エヴァーハート”をここに連れてこなければ……この国を滅ぼす」
「ま、ままま! 待ってくだされ!」
“畏れ”が王の執務室に突如として現れ、突きつけた要求に、王は震えながらも答える。
「できるものならそうします! 我々も奴には煮え湯を飲まされ――」
「できないと?」
「で、ですから……見つければ差し出します!」
王は震えながら“畏れ”の前に跪き、懇願し始めた。
“畏れ”は鬱陶しそうに、自身の金の長髪をかきあげ、整った顔を苛立ちで歪ませる。
「やれ。国が大事ならな」
「は、はい! 国の総力を挙げて探しますればっ!」
「3日間の猶予は、慈悲ではない。ルシアンを誘き寄せるただの餌だということを忘れずにな」
「ははぁっ!」
王の言葉を聞き、“畏れ”と入れ替わるように“武”が口を開く。
「おうおう! こちとら待たされるんだ! この国の女は好きにさせてもらうぜぇ!」
「……へ?」
「わからねぇか? この俺様が直々に抱いてやるって言ってんだよっ!」
「も、もちろんです! よろしければ我々がご用意――」
「はっ! いらんわ! その辺歩いて……いい女見つければ抱くからよぉ!」
「わかりました! どうぞご自由に!」
こうして……再び、ソニプロフェン王国に災厄が訪れたのだった。
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