第66話 暗黒小悪魔と、暗黒物質(クッキー)
海から戻ってくると、飛びついてくる者がいた。
「コアちゃん、どうした?」
「……100ねん、たった?」
まだまだ……あと99年と362日はある。
とは言えず、黙って頭を撫でる。
「ふふふ、コアちゃんったら……ずっと『ルシアン、どこ?』って言ってたんですよ?」
「……そうか」
「(パパの顔になってる! 昨日は“性獣”の顔だったくせに!)」
世の中の男はみな、獣を経て父親になるのだ。
「コアちゃんよ、今からゴーレムを造るのだが……一緒にやるか?」
「肯定:ぐすん」
「(泣いちゃってる! きっとパパがいなくて寂しかったのね!)」
たった2日程度だったのだが……。
「では早速――と言いたいところだが、最後の仕上げを忘れていた」
「疑問:ぐすん」
「とりあえず、一緒に行こう」
「肯定:ぐすん」
森の奥へ――ついでにリエラも連れて行こう。
◇◇◇◇◇◇
「あ、ルシアン様とリエラ様! お久しぶりです!」
「ケケケ、久しぶりね! ルシアン様!」
1人は緑の髪に蝶の羽がついた、いかにも妖精な姿の少女。
もう1人は真っ黒な髪に蝙蝠の羽の生えた、いかにも小悪魔な少女。
「ふわぁ~……」
「この子は……?」
「こいつは……?」
俺の頭にしがみついているコアちゃんの周りを、コバエの様にぶんぶん飛び回る妖精たち。
「この子は『コアちゃん』。そして……こいつらは、とある植物に宿る精霊だ」
「初めまして! 私は世界――」
「とある植物の精霊だ」
「あ、察し」
小悪魔の方はどうやら察したらしい。
我が眼力に思いを込めただけはある。
「(コアちゃんに内緒で埋めた世界樹だもんね……)」
「(せっかくの情緒教育が無駄になってしまうからな)」
貰った2つの世界樹の苗木。
それをこの森と、アレの潜む森に植えて『加速』で成長を速めていたのだ。
今や若木ほどの大きさに成長した世界樹、いつの間にか精霊まで出現していた。
片方の妖精は……アレの影響で小悪魔になってしまったらしい。
「かわいい……疑問:おなまえは?」
「私たちに名前はないんですよ!」
「ケケケ! かっこいい名前を付けてくれてもいいぜ!」
「結論:『みっちゃん』『あっちゃん』」
「『みっちゃん』! “み”どりの“み”っちゃんですね! 素敵な名前です!」
「『あっちゃん』って……“あ”くまの“あ”っちゃんか!? いかすわね!」
彼女らは気付いているだろうか。
『ちゃん』までが名前だということに……。
「ルシアン様、『みっちゃん』の方は知っていましたが……『あっちゃん』は……?」
「……実はな、リエラにも内緒でとある場所に埋めていたんだ」
「まっ! まさかあそこに!?」
「ああ。行ってみよう」
森の奥――瘴気が渦巻く場所へと進む。
「……以前この辺りを散歩したときは……思わず引き返しましたが……本当に瘴気なんですね」
「ああ。その発生源は――お、いたぞ」
こちらを見つけたらしい、アレが駆け寄ってくる。
それは……まるで小人のような姿になった、30センチほどの邪神。
「……見たことがあるような……」
「邪神だな。“魔界の記憶”から復活させた」
「……やっぱり……危なくないんですか?」
「“攻撃する”という概念を無くした。ただただ動き回って瘴気を発生するだけの装置――要はペットみたいなもんだ」
悍ましかった鬼のような顔も、小さくなったことで何だか愛嬌がある。
「こぉー?」
首をかしげて不思議そうな顔をする邪神には、かつての面影など全くない。
「ケケケ! おい邪神! ちゃんと私の水やりは済ませたか!」
「こぉー!」
邪神の右手には、誰が用意したのか小さなジョウロが握られている。
あっちゃんのやつ、邪神を好き勝手使っているらしい。
「あっちゃんよ、いくらか貰っていくぞ」
「ケケケ! 私の体なんだから大事に使ってね!」
元の世界樹とは異なり、真っ黒な葉っぱや枝、果実。
こちらの方は暗黒世界樹とでも呼んでおこう。
「……世界樹をこのような場所に……と思わなくもないですが、実に興味深いですね……! 歴史的発見なのでは?」
「かもしれんな。何度枯れかけては蘇生させ、枯れかけ……幾度も繰り返した結果、なんとかここまで育ったのだ」
「ケケケ! ちゃんと見てたよ! ルシアン様!」
小悪魔の妖精が頬に口付けしてくる。
苦労したからか、随分と懐いたものだ。コアちゃんも似たような経験ができるといいが……。
◇◇◇◇◇◇
「さて……今度こそゴーレム造りだ」
「肯定:わくわく」
「まず、『絶縁黒鉱』と『世界樹の葉』の魂を融合させる」
「疑問:なにいってんだ?」
『絶縁黒鉱』はその名の通り、魔力を始め、あらゆる気体や液体、その他の影響を受けない、加えて非常に硬い真っ黒な鉱石。
そこに『世界樹の葉』を使うことで、魔力の祝福を授けさせる。
「表面は強力無比、内部は魔力伝導率に優れた鉱石の完成だ」
「考察:リエラのつくるクッキーみたい」
「(表面が黒焦げってことね……あの子、料理も下手なのかしら)」
コアちゃんによるリエラの暴露は止まらない。
一方でリエラもクッキーを焼いてやる程、コアちゃんのことをかわいがっているらしい。
「このままではクッキー同様硬いので、俺の魂を少々加える」
「疑問:なにいってんだ?」
「こうすることで俺の魔力の通りがよくなり、形を成型できる」
「考察:ルシアンは、あったかいミルク」
「(黒焦げクッキーを浸して食べたのね……!)」
実に微笑ましい光景である。
「こうして形を整えて……できた。ルシアン=ゼファウルゴス・MK-Ⅱだ」
「驚愕:ふぉぉ……!」
「次はコアちゃんもやってみろ。魂を含めて、素材は俺が用意してやる」
「興奮:ふんふん!」
「(鼻息荒げてはしゃいじゃって……かわいいわね!)」
その後……興が乗り、アイリスたちの魂までも使ったゴーレム造りはしばらく続いた。
途中で様子を見に来た彼女らが、呆れるやら恥ずかしがるやらで鬱陶しかったので別空間に移動……大量の制作物が出来上がった。
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