第65話 海の聖獣と、人の性獣
「さて、海に行くぞ」
「海、ですか……?」
目的は1つ。ゴーレム製作に必要な鉱石を採取するためだ。
決して……新型機能搭載の水着を着て欲しい訳ではない。あくまで、素材集めのためだ。
「海! ルゥくんと行ってみたいっちゃ♡」
「わらわも行ってみたいの! 天界から見るだけで行ったことないのであーる!」
「海かぁ~、私も行ってみたいな♪」
目論見どおり、ラビラビィとチャチャ、ロルウェンナは興味を示した。
他のメンバーは……。
「わ、私は……しばらく海はいいです……」
「私も今回は遠慮しておきますね。森の様子が気になりますので」
「結論:……ぶくぶく……」
前回痛い目にあったアイリスとコアちゃんは不参加。
それとリエラはこちらの作業を優先してくれるらしい。
「我も前回行ったし――」
「お前は強制参加だ。新しい魔道具を見せてやる」
「本当か!? ならば行こうではないか!」
よし、マールが単純で助かった。
「(怪しい)」
「(何がだ?)」
「(全員、おっぱいが大きい)」
「(たまたまだろう?)」
「(なんだか怪しげな紐、作ってた)」
「(ひ、ひもは……ひもだぞ?)」
「(怪しい)」
何を言っているのだろうか。
それに全員大きいというが、ミラは違うだろう。今も、真の姿も。何がとは言わないが。
◇◇◇◇◇◇
――港町、ブルーセルミの宿の一室にて。
「あの、ルシアンくん……これ……」
「ルゥくん……あまり他の人に見せたくないよぉ……」
「わ、わらわの純情を弄んだのね!? やっぱりあなたはひどい人!」
「ルシアンよ……わかってはいるが、さすがに恥ずかしいぞ……」
「(デッッッ!!!)」
でっか。
何がとは言わないが。
「安心しろ。えろ――似合ってる」
水着――ほぼ紐で、ほぼ隠されていない美しい体を披露してくれるラビラビィたち。
実に、いい。
「で、でもぉ~……」
「『魂装幻夢』――要は他の者には普通の服を着ているように見えているから問題ない」
「ほ、ほんとぉ~?」
なおも信じられない様子のロルウェンナ。
気持ちはわかる。ほぼ隠れていないからな。ピンクの輪っかがはみ出ている。
「母上、その点に関してはルシアンは信頼できるのだ! 普段から我の下着が見えないようにしているからな! だが――」
「それでも、恥ずかしいよね……」
「その通りなのだ……」
恥ずかしがる姿、それもまたいい。
「ルゥくんは?」
「ん? 俺は普通の水着だが――」
「えーずるいー♡ ルゥくんも脱いで♡」
「あっ! おい!」
恐ろしい速度――アイリスにも引けを取らない俊敏さで、あっという間に水着を脱がされる。
「きゃっ♡」
「まあ♡」
「ル、ルシアン……!」
「……わ、わらわは!? ほ、ほえええ!?」
「(ちょっとルシアン!? 早く逃げなさいよ! みんな興奮して――雌の顔してるぅ!!!)」
その日は結局、海には行かなかった。
一応言っておくが、本番はしていない。
◇◇◇◇◇◇
――翌日。
結局俺の用意した紐の上に、新たに水着を購入して海に入ることに。
「すっごい魔道具……100年世界を回ったけど、こんなもの見たことない……」
最近では珍しくまじめな顔で、ラビラビィがまじまじと紐を見つめている。
「『絶対防御』と『環境調整』――要は深海30000メートルでの戦いを想定して作ってある」
「あはは! これがあれば私でも邪神が倒せそうね!」
「倒せはしないだろう。死にもしないが」
「……あ、死なないんだ……」
倒すためには火力が足りないだろう。
「しかも今回は視覚や感触面でもこだわった一品だ。つまり――いろいろと省略するが、本当に水の中を泳いでいる感覚を味わえているだろう?」
「そうね……本当に不思議。水の中にいるのに、呼吸もできるし泳げるし……会話もできてるし」
マールやロルウェンナなんかは既に自在に泳ぎ回っている。
自由の遺伝子は母親譲りだったらしい。
「チャチャはどうだ? 初めての海――」
「ふんだ!」
昨日のアレ以降、こんな感じである。
嫌われてしまったか……。
「(いやぁ、あれは……大丈夫じゃない?)」
「(そうだろうか? 彼女とはまだ出会って日も浅いし……)」
「(試しに後ろから抱きしめて『唯一神に感謝を捧げるとするならば、それはお前を作り出したことだ』って言ってみ?)」
「(はぁ?)」
なぜそんなバカみたいなことを……。
前にも同じようなことをさせられたなと思いつつも、楽しそうに頬を叩く羽が鬱陶しいので言うとおりにしてみる。
「チャチャよ……」
「きゃっ!? は、離して――」
「唯一神に感謝を捧げるとするならば、それはお前を作り出したことだ。俺が神に挑むのは……他の誰でもない、お前のためなのだ」
「(何で足した!?)」
なんとなく。
しかしラビラビィの時とは違って、何の反応もない。
「……チャチャ?」
「あひぃ~……」
「(……死んでる……!)」
気を失っているだけだ。
「さて、そろそろ見えてくるかな」
「へ? 何が?」
視線を海の底へ向けると……闇の中に薄っすら光っているものを見つけた。
見える大きさから、まだ何十キロも離れていそうだ。
「『転移』で向かう。全員近くに寄れ」
「はぁ~い!」
「ちょっ母上! ルシアンに引っ付くな――ああ……」
右腕でチャチャを抱え、左腕はロルウェンナにしがみつかれ……。
転移の先にいたのは、人造聖獣の『アビちゃん』だ。
「(……む? 人間の賢者――ルシアン様か……)」
「ちょ!? もしかして聖獣!?」
「(いかにも……貴殿は人間の聖獣か?)」
「(私の場合は聖女って言うの。ルゥくんの聖女)」
ラビラビィのやつ、まじめな顔して何を言ってんだ。
それよりも本題に入らないと……またこのクジラが変なことを言い始めるだろう。
「アビちゃんよ、これに見覚えはないか?」
「(……む? それは……)」
手の平に乗せた真っ黒な黒鉱を見せる。
光を一切反射しない、空間に穴が空いたような漆黒の物質だ。
「人間の世界では『絶縁黒鉱』と呼ばれている」
「(……ふむ、恐らくだが知っている)」
「本当か?」
「(うむ。我は時折……胃袋の中の異物をすり潰す目的で海底の鉱石を飲み込むのだが、その中にやたらと硬い物がある。恐らくそれだろう)」
生物の中にはそういう習性を持つ者がいると聞く。
というか、もしや“邪神の右足”を飲み込んでしまったのもそれが原因か?
「ならばちょうどいい。たくさん集めて来てくれ」
「(……)」
「俺らはこの辺で遊――魔道具の性能調査をしなければいけないからな」
「(……やれやれ、汝の指示はいつもめちゃくちゃだ)」
なんだかんだ言いつつも言う通りにしてくれたアビちゃんのおかげで、大量の鉱石――『絶縁黒鉱』が手に入った。
「次はいよいよ……ゴーレムの製造だ」
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