第64話 芽吹く世界樹の苗木と、慈しみの心
「の、乗り心地は……いかがでしょうか」
「結論:わるくない」
根負けし、コアちゃんをその背に乗せたグランタイガーの後について森の奥を進む。
フロラディーネはマールを追いかけて行ったし、残りのウッドトロルは黙々と後ろを付いてきているだけ。
このまま順調にいけばいいが……。
「わっはっはっはー! お前の血は何色だー!? その蔓の下には何が隠れてるんだー!」
「やめっ……これ以上は……死んじゃう……!」
「大丈夫だぞ! 死んでもルシアンが治してくれるぞ! 安心して実験台にされるがいい!」
ダメそうだ。
前方から、いかにも拷問しているだろうマールの声が聞こえてくる。
「マールさん!? その方……もうほとんど人間の体だけじゃないですか!?」
「おお、アイリス! 遅かったなっ!」
「ええ、遅すぎましたとも! かわいそうに……」
アイリスの懇願するような目に応えるように、フロラディーネを回復してやる。
まったく……命を粗末にするとはけしからん。
「(あんたに似たのよ! さっきまでもっとひどいことしてたじゃない!)」
「(…………)」
さて、フロラディーネのケガも治ったようだし先に向かうか。
「何だルシアン、実験はダメか?」
「こいつら世界樹まで案内してくれるんだと。歯向かってこないなら、見逃してやろう」
「そうだな! 歯向かってこないならな! わっはっは!」
「ははは!」
「(やってることが暴君だわ……)」
わかってはいるが……どうしようもない。
俺だけでなくマールまでもが同じことをしていたとは……もう笑ってごまかすしかない。
「へ、へへ……」
「要望:ふるえるな」
グランタイガーが何かを思い出したかのようにガクガクと震えながら進み始めた。
その後ろで黙ってばかりのウッドトロルだったが……ようやくその口を開いた。
「人間よ……」
「ん?」
「……世界樹を手に入れ、何を望む?」
「ふむ……」
このトロル、見た目はいかにもマヌケそうだが……虎や植物人間よりもさらに知性を感じるな。
ここはごまかさずに伝えておくか。
「正直に言おう。俺の世界を守護するガーディアンを造るための素材に使う」
「守るため、か……」
「ついでに植樹する」
「……ん?」
「植樹して、俺の世界にいる人たちに恩恵を分けてもらうつもりだ」
「……なんと……」
正直に答え過ぎたか。まあいい、邪魔をするなら――。
「着きましたよ」
「ん? おお、これが世界樹か……立派な木だ。生命力も内包する魔素も桁違いに大きい」
考え事をしていたため気が付かなかったが……目の前には視界いっぱいに広がる巨大な幹。
見上げれば生命力に富んだ青々と茂る葉。
「……人間よ、望むのは世界樹の苗木だったな」
「ん?」
ウッドトロルが会話を続ける。
後ろを見ると、フロラディーネや虎がウッドトロルに頭を下げている。
どうやら、このウッドトロルが世界樹の番人だったようだ。
「くれるのか?」
「ああ。私の姿を見て侮らないほどの知性のある人間は久しぶりだ。苗木を渡すことは構わない」
随分太っ腹だ。しかし裏がありそうだな。
「その心は?」
「世界樹は……苗木までは、種の持つ生命力で問題なく育つ。しかしそれ以上は、生命力と魔素が潤沢にある場所でないと育たんのだ」
「なるほど、手に入れたとて育てられるかは別と言うことか」
だが、問題なさそうである。“狭間の世界”は魔界から拝借した魔素が潤沢にあるからな。
「責任をもって立派な世界樹に育てると誓おう」
「……であれば、何も言うまい。いくつ必要だ?」
「1つで十分だが……」
「……それだけでいいのか? 苗木は……たくさんあるが」
何だ、やけに押し付けたがるな。
貴重な世界樹ではなかったのだろうか。
「(家庭菜園経験者のミラちゃんにはわかるよ! せっかく芽吹いたのに、育てられる環境がないからもったいないんだ!)」
「(……なるほど?)」
ミラの言うことはいまいちわからんが、要は苗木は余ってるということか。
「ならば3つほど貰おう」
「……わかった」
心なしか嬉しそうに、苗木を取りに向かっているウッドトロル。
まあ……貰えるものはありがたく貰っておくに越したことはないな。
「持ってきたぞ。今は成長が止まって休眠中だが……植えてしばらくすれば育ち始める……はずだ」
「わかった。何から何まですまないな」
「構わない。我の弟や妹を……頼むぞ」
そう言うと……ウッドトロルは光の粒子となり、世界樹に飲み込まれていった。
◇◇◇◇◇◇
「さて、埋めるぞ」
「懇願:まかせろ」
コアちゃんの手には、子ども用のスコップがしっかり握りしめられている。
場所は……以前コアちゃんがダンジョンを掘ろうとしていたところだ。
その時は1時間ほどで作業をやめてしまい……既に数日が経過している。
本人曰く、『ちょっと、きゅうけいちゅう』とのことだったが……ちょうどいい穴があるのを使わない手はない。あと5倍は掘らないといけないが。
「ここに埋めていいな?」
「同意:ダンジョンよりも、えいえんのいのち」
「……そうか」
永遠の命は既に手にしているようなものなのだが……今回は植物を育てることで慈しみの心を養うことが目的だ。
ということで、貰った苗木のうち1つはここ――家の裏に植えることに。
「(どんどん親ばかが加速する……!)」
「(ミラもだろう?)」
「(……ちょっとだけね!)」
ミラは以前、コアちゃんを妹みたいなものと言っていたが……まあ似たようなものだろう。
「解析:つ……かれ……た……」
「よし、変わろう」
「懇願:…………」
既に喋ることもできないコアちゃんに代わり、サクサク掘る。
たまには魔法を使わない作業も悪くはない。
「……よし、このくらいでいいだろう」
「同意:いよいよ……!」
「ああ。永遠の命、その第1歩だ!」
掘った穴に苗木を置き、土を被せる。
その瞬間、まるで感謝と喜びを伝えるかのように苗木が淡く光り出した。
「ふわぁ~……」
「コアちゃんよ、植物には水が必要だ。これから毎日あげられるか?」
「同意:できる!」
よしよし、順調だ。
無表情ながらも、どこか楽しそうに水をあげるコアちゃんの頭を撫でる。
「疑問:いつおおきくなる?」
「ん? そうだな……100年後くらいか?」
「……たのしみ」
しゃがみこんでジッと世界樹の苗木を見つめ始めるコアちゃん。
「(ふふふ、かわいいね)」
「(……あの熱意が、今度はいつまでもつかな)」
「(またそんなこと言って!)」
しかし俺は甘かった。
これからことあるごとに、『100ねん、たった?』と聞かれることになるとは……。
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となります!




