第63話 世界樹の祝福と、えいえんのいのち
狭間の世界にみんなを連れて行った後、俺たちはとある場所にやってきた。
「ここはどこだっ!?」
「通称“世界樹の森”だな」
マールの奴め、ちゃんと事前に伝えていたはずだが……。
「疑問:せかいじゅ……?」
「いい質問だ。古くは生命の源、母なる存在として信仰されていたこともある木だ。その伝承に違わぬ生命力と魔素に満ち溢れた大樹であり、葉や枝は魔道具の素材としても、薬の原料にもなる。さらに果実に至っては“永遠の命”を授けるとまで言われている伝説の存在だ」
「(マールとコアちゃんへの対応の差がひどい。まだ『パパ』なの?)」
パパではないが……。
「考察:えいえんの、いのち……」
「そうだ。まあさすがに誇張だろうが――」
「推測:ずっと、いっしょ……いれる?」
そんなこと言いながら抱きついてくる子に対して優しくしてしまうのは、誰だって仕方がないのでは。
「ふふ、コアちゃんたらかわいいですね。よしよし♪」
「ん……」
アイリスも優しい顔でコアちゃんの頭を撫でる。
神との戦い中だとは思えないほど穏やかな昼下がり。
今日はこのメンバー、アイリスとマール、コアちゃんとミラで森林浴を洒落込むわけである。
「マールのためにもう1度言うが、今日はとある物――ゴーレム作りのための素材を採りに来た」
“狭間の世界”は、リエラとロルウェンナが中心になって環境整備を進めることになったのだが……人手が欲しいと言われてしまった。
つまり人手不足の解消、ついでに警護を担ってもらうためのゴーレムである。
「それは聞いてたぞ! ルシアン特製の禁術ゴーレムだろう! 我も手伝わせてくれ!」
「もちろんだ。早速行くか」
昼だというのに、薄暗い森の中を進む。
しかし気分が滅入る感じがしないのは、ここが“世界樹の森”だからだろうか。
「しかし、それほどの力を持った世界樹を……どの国も独占しようと思わないのでしょうか?」
「ああ、それができないように番人がいるのだ」
「番人……?」
アイリスの疑問に答えるように、目の前の空間に手を伸ばす。
瞬間、ガラスが割れるような音が響いて目の前の景色が変わった。とはいえ、深い森に変わりはないのだが。
「今のは……?」
「幻覚を見せる結界だ。こうして招かれざる侵入者を排除している訳だな」
「な、なるほど……全然気が付きませんでした!」
アイリスは魔法の適性がさほど高くはない。
そうでなくても、高位の魔術師でなくては見破れないだろう。
「我は気が付いておったぞ!」
「ほう、素晴らしい。普段から魔力探知を癖にしている証拠だな」
「そうだ! 褒めろ!」
「よしよし♪」
「アイリスでは……なーい!」
楽しそうで何よりである。
「騒ぐのはいいが、そろそろ来るぞ」
「む! これはモンスターか!?」
「ああ。結界を壊されたことで、番人が差し向けたのだろう」
なかなかの魔力強度のモンスターたちが、こちらに向かってくるのがわかる。
やがて姿を現したのは――。
「グランタイガー、フロラディーネ、それにウッドトロルか……?」
5メートルほどの虎、女性の上半身にバラのような蔓を持ったアルラウネの上位種、3メートルほどの巨人。
少し自信がないのは、そいつら全員の瞳に知性の光が宿っているからだ。
本来は知性と品性の欠片のないトロルですら、そうだった。
「人間よ……大人しく去れば危害は加えない」
「と、虎が喋った!?」
「……我らは世界樹の恩恵を与り、そして世界樹を守護する者。無益な殺生は好まん」
「世界樹の恩恵……!?」
そういうことだ。
このモンスターたちに知性を与えたように、世界樹は様々な祝福をもたらす。
そのために世界樹が必要なのだ。
「ほんの1株だけ世界樹を貰ったら帰るが?」
「……その1株を育てるのにどれだけの年月がかかるかわかっているのか?」
「知らん。人間の世界には伝わってないからな」
「そういうことだ。欲深い人間に世界樹を渡す訳にはいかない」
やれやれ、あまり戦いをする気分ではないのだがな……。
「我は人間ではなく魔人だぞ!」
「む?」
「魔人だぞ! 愚かでもなければ欲深くもないぞ!」
「……確かに、その目が宿すのは単純な――いや、知的好奇心の光のみ……よし、通れ」
「(いいの!?)」
マールの奴……。
「待て。バカ虎、いいわけないだろう。我らの任務は、結界を破りし不届き者への処罰だ」
「む……フロラディーネよ、そなたに従おう」
「そういうことだ、そこの魔人。足を止めろ――止まれ――おい! バカ止まれ――走るなどこへ行く!?」
『わっはっはっはー』と高笑いしながら走っていったマール。
彼女を止めることなど、誰にもできまい。
「疑問:おまえらたおせば、とおれる?」
「む? お前……人間の子どもか……? こんなところにまで連れてこられてかわいそうに」
「肯定:わたしは、にんげん。えいえんのいのちを……よこせ」
「ぬっ!? この幼子、外見に反して業が深すぎる!?」
コアちゃんは唯一、人間じゃないはずなのだが……言ってることも、物語で出てくるような欲深い悪人そのものだ。
「……ならば、死ねっ!」
「う、うあー!?」
グランタイガーがコアちゃんに襲い掛かってくる。
「うちの子を脅かすな!」
「ぎゃぷっ!?」
「(うーわ、やっちゃったねぇ~……)」
しまった、つい……頭を吹き飛ばしてしまった。
この辺は魔力が濃いから、ついつい出力が上がってしまうな、うん。
「(ただの親ばかパワーでしょ。無益な殺生はやめなさい!)」
ミラの言っている意味が分からんが……仕方ないから蘇生させておこう。
「――い、今のは……?」
「結論:ルシアンは、じゃしん。かかってこい、ざこ」
「……言わせておけば……!」
再び襲い掛かってくるグランタイガー。
「うあー!?」
「何度も言わせるな!」
「ぎゃぴっ!?」
しまった――蘇生しとこ。
「結論:おまえらは、ざこ」
「なにをー!」
「貴様!」
などというやり取りをもう3回ほど繰り返したあと、快く道を譲ってもらった。
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