第62話 畑の爆弾と、新たなダンジョン(5センチ)
「風が……気持ちいい……」
足を踏み入れた瞬間、肌をなでる風は元の世界よりも少しだけ密度が濃い。
魔界の残滓を純化して構成した、俺だけの理が支配する世界だ。
「畑がたくさんありますね! 懐かしい……私、畑仕事大好きだったんですよ!」
「こうも手つかずの自然が広がっていると……体が疼きますね」
一軒家の前、道を挟んで向かい側に広がる畑。そして少し遠いところに群生している木々。
それらを見て、エルフであるリエラだけではなくロルウェンナも嬉しそうにしている。
「避難ついでに、ロルウェンナとリエラに整備を頼めるとありがたい。さすがにその辺の知識はさほど持っていない」
「いいんですか!?」
「いいわねぇ~、腕が鳴るなぁ!」
受け入れて貰えたようで一安心である。
いくら避難のためとはいえ、やることがないのも辛いだろうしな。
「ルシアンにもできないことがある、だと……?」
「そりゃあるさ。『転移』だってそうだったろう?」
「……あれも、まじめに取り組めばできてたのでは……?」
まじめに取り組めない研究だった、ということだ。
『位相転移』で間に合ってしまったのが1番の問題だったのだろう。
「ルシアン様、お家の中を見てもいいですか?」
「アイリスよ、遠慮するな。既にそこはお前の家でもあるんだ」
「……ルシアン様……嬉しい!」
慎ましく、顔を赤らめるアイリス。
その横を、遠慮の『え』の字も知らない犬系魔人が通り抜け、家の扉を開ける。
「おお! やはり内部は空間が広がっておるのだな! 見た目よりずっと広い! ところで我の部屋はどこだ!?」
「特に決まっては――」
「ならば! 我は1番広そうで最も入口に近いここにする!!!」
「(居間じゃん)」
「(居間だな)」
座敷犬としては……正解なのかもしれん。
「さて、内部については各自で適当に割り当て合ってくれ。先に畑の収穫物を見に行こう」
チャチャの空腹を訴える顔も見飽きた。
そろそろ本題の実験――野菜の味を確かめよう。
「畑、の割には雑草さんがたくさんですね。野菜もなってますが」
懐かしむような顔で畑の雑草を何本か抜いたり、土を口に含んだりしているロルウェンナ。
彼女もまた、お腹が減っているようだ。
「うむ。雑草の生命力だけを奪う“書き換え”は非常に手間だったのでな」
「わかります! 次から次へと生えて大変ですよね!」
「そうなのだ。この畑に植えた物は自然と『加速』がかかる。その魔法陣を施す前に雑草の存在を死滅させておくべきだった」
「まあ! 雑草さんも生きてるんですから、そんなこと言っちゃダメですよ! 優しくヌキヌキしてあげましょうね♪」
「……ああ」
他意はない、他意はないはずだ。
雑草を抜く手つきもやらしい気がするが、ただの気のせいのはずだ。目が離せないが。
「ほれ、チャチャ。採れたてのトマトだ」
「た、食べれるの……? さっき『加速』がどうとか……」
「問題ない。肥料も土も最高級の物だ」
元は邪神が生み出した魔界の瘴気を“書き換え”たもの。
肥料も土も、俺が魔術的に精製した最高級の物だ。不純物は一切排除しつつ、彼の世界の瘴気特有の“特性”だけは凝縮してある。
その“特性”は魔術の向上においても重要なものであるから……さぞや極上の野菜ができているはずだ。
「……ま、いっか――まっっっずぅぅぅ!?」
「バカな!?」
「エグみがエグい! 酸っぱすぎて舌が痺れる! まるで泥の味! しかも口の中で何かが爆発しているのであーる!」
最後の言葉を聞いた瞬間、マールがトマトを口に含み……嬉しそうな顔で『爆発だぁっ!!!』と言っている。
「これは、トマトの形をした毒物ではないのですか?」
「……マールは喜んで口にしているが……?」
「考察:たべもののかんそうではない」
「(“爆発”を喜んでいるだけね……あーあ、私も食べてみたかったなぁ! この体じゃ食べられないからなぁ!)」
ミラの完全蘇生を急ぐと改めて誓う。
「ルシアンくんったらダメよぉ……ちゃんとお野菜の声を聞いてあげなきゃ……」
「土もひどい有様ですね。栄養バランスどうこうの前に……まるで憎しみと殺意が渦巻いています」
「さっき土の味を確かめたけど、その通りね。肥料も似たような感じかしら……」
「そうでしょうね。栄養というよりは、怨念を足しているようなものかと」
その“特性”はダメだったか……。
……畑に関しては、リエラとロルウェンナの農家のおば――失礼、若々しきお姉さんコンビに任せよう。
「ルシたま……?」
「ん?」
「そんなものを……わらわに食べさせたの……?」
「…………」
だから『試しに』と言ったのだが。
そう言ってしまえば、さすがにこの能天気ムチムチ歌姫からの信頼がゼロになりそうだ。
「……すまない。一応自信作ではあったんだ。それを……最初に食べて欲しかったのだ。何よりもお前に、な……」
「ル、ルシたま……!」
「本当にすまなかった。お前の美しい顔を苦痛に歪ませることになってしまって……」
「ううん! そんなことない……わらわが間違っていたの! ルシたまのトマト、おいひー! もぐもぐおえーもぐもぐ」
「(チョロ)」
何はともあれ、腹は満たされたようで何よりである。
「さて……」
それから少しして……それぞれ気になる場所に向かい始めたようだ。
アイリスとラビラビィとチャチャは家の中へ。
マールとリエラ、ロルウェンナは森の方へ。あまり奥に行くとアレを見ることになるが……リエラがいれば問題ないだろう。
「ん? コアちゃんはどこだ?」
「(あっちの方で何か掘ってるみたいだよ)」
ミラの羽が差す方を見ると……家の裏側にて、枝で何かを掘っているコアちゃんを見つけた。
「コアちゃん、何をしているんだ?」
「結論:ここに、ダンジョン、つくる」
「(手で掘って!?)」
およそ5センチメートルほどの穴。
その姿は……子どもが遊びで地面を掘っているようにしか見えない。
「結論:ルシアンのせかいと、わたしのちから。きっと、たのしいダンジョンが……できる」
「……そうか」
「懇願:できたら、あそびに、きて」
「……もちろんだ」
「(パパの顔! パパの顔になってるよルシアン!)」
誰だってそうなる。
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
明日の投稿は
20時10分頃
となります!




