第58話 聖なる教会と、地獄
ポルカ=トラム聖教国。
この世界で最も信仰されている宗教団体の総本山があり、そのまま国としての立場を取っているものである。
「こ、ここが聖教会の入口ぶひっ」
ライブラの町にやってきた、生意気な口を利いた神官。
彼の不愉快な言葉を少しでも中和させようと、語尾に『ぶひっ』を付けるように魂を書き換えてやった。
「案内ご苦労だったな」
「ぶっ、ぶひぃっ!」
役目は済んだと、逃げるように教会の中に入っていく神官。
治そうと思ったが……別にいいらしい。
「(……ねぇ、これって……)」
「(……ああ)」
教会の内部に蠢く魂は……実に懐かしいな。
しかもかなりの数がいるらしい。
「ルゥくん、まずは私が行って事情を説明してくるから!」
「……いや、一緒に行こう」
「……うん」
覚悟を決めた顔のラビラビィを先頭に、教会の扉を開ける。
そこには……待っていましたと言わんばかりの教会関係者が大勢いた。
手前側を教会の騎士――聖騎士たちが立ち並び、建物の奥の方には醜悪な顔と爛れた欲望を隠そうともしない豚どもが10匹ほど。
「ようこそおいでなさいました、忌まわしき禁忌魔法使いの魔術師殿。私は偉大なるポルカ=トラム聖教国、教皇のミヤビエムでございます」
「…………」
「(むっかーっ! いきなり腹立つっ!)」
謁見の間、その玉座に座っているひと際醜い存在。
言葉と視線と立ち位置が、雄弁に物語っている。『自分は威張ることしかできない卑しい豚です』と。
「先に1つ伝えておこう。聖女ラビラビィは俺の女となった。故に聖女の身分を返上する」
「何をバカな……聖女が勝手に辞められる訳がないだろう! 誰の許可を得て――」
「俺だ。他に誰の許可がいる? まさか、お前みたいな豚の許可が必要なのか?」
「……言わせておけば……!」
脂ぎった顔に着火しそうな勢いで顔を赤らめて立ち上がるが、意外にも奴は冷静さを取り戻して再び腰を下ろした。
「……ふん。強がっていられるのも今のうちだ。今に泣いて命乞いするだろう」
「俺が? お前に?」
「そうだ! そして我々は! 薄汚い貴様に汚された聖女を……貴様の目の前で浄化してやる! ありがたく思うがいい!」
「(うっげー……男って、どうしてこんなんばっかりなのぉ?)」
怒り――というよりは、性的興奮で顔を赤らめているようだ。
浄化というのは、要は強姦のことだろう。神の名を使う者どもがこれでは……世も末だな。
「お前、自分がきれいだと思っているのか? まるで茹で上がった豚をこん棒で何度も叩いたような顔をしているぞ?」
「きっさまぁ……!」
「しかも臭いまでキツいじゃないか。まるでスラム街の肥溜めのようなにおいがプンプンと……ここまで臭ってくる」
「……殺す! 貴様は殺す! 貴様の目の前で……ここにいる者全員で聖女を犯しぬいて! 惨めな最期を神の名のもとに遂げさせてやるぅぅッ!!!」
舌戦は俺の勝ちのようだ。教皇の正体見たり、だ。
ラビラビィを見ると、信じられないとでも言うように呆然としている。
「行けっ! 聖騎士たちよ!」
「はっ! 行くぞ――あれ?」
「か、体が動かない……!」
教皇の号令で、聖騎士たちが動き出す――が、その足が地を蹴ることはなかった。
既に魔法で体を縛っている。
「な、何だって!?」
「……そういえば、散々俺の魔法を薄汚い呼ばわりしてくれたな。ここらで1つ、汚物の除去にも役に立つことを教えてやろう」
「何を……!?」
「『真魂顕現』 そして……“去勢”」
この場にいる聖騎士を始め、教皇やその他の豚どもの魂から……性器を消し去る。
同じ男としては心苦しいが……性犯罪者には必要のないものだろう。
「おまっ!? お前なんてことを!?」
「おい!? おいいいいぃぃっ!!! アレの感覚がなくなってるぅぅ!?」
「ふざけんな! まだ1度も使ったことなかったのに……!」
「(ぷっぷー! ざまぁみろぉー!)」
聖騎士たちが喚くが……教皇の指示に従ったのだから同罪である。
「あ、慌てるな! 戦いが終われば我らの回復魔法で治せるはずだっ!」
「無駄だ。お前たちの魂から『生殖器』という機能そのものを消滅させた。貴様ら程度の魔法では、存在しないものは治せまい?」
「ふがっ!?」
仮に俺がこいつらと同じ状況になったら、何億年かけてでも治療法を探すがな。
「おのれ……しかぁぁぁしっ! こちらにはまだ秘密兵器が残っている!!!」
「……ほう?」
「聖騎士などよりもはるかに強力な存在! その名も神の使い――天使様たちだぁ!!!」
教皇の叫びと同時に、天使――背から翼が生え、金髪に金眼、美しい顔立ちを共通して持った者たちが奥の部屋から現れる。
その数、ざっと100体ほどか。
「どうだ! いくら貴様といえど天使様に会ったことなど――」
「懐かしいな。実に懐かしい」
「――へっ!?」
あれは……そう、150年ほど――もっとだろうか。
ミラに適した体を作るため、世界各地を回っていた時だったな。
「……天使様は『神の権能』を行使することが許された存在! 所詮人間の域を出ない貴様に勝ち目はない!」
「ほう? 貴様もたまには正論を吐くようだ」
「おっ!? 遂に負けを認めるか! ならばさっさと聖女を差し出せ!」
「『俺は人間』、その1点だけは正しい」
「……は?」
何を言っているんだと、教皇と同じような顔をしているアイリスや、マール。コアちゃんやラビラビィ。
お前ら……俺を何だと思っているんだ?
「……天使様よ、行けっ!」
「…………」
無言の天使軍団が教皇の合図とともに飛来してくる。
既に展開していた俺の障壁に手を触れ、その権能を行使する。
「天使様の――主神ポルカ=トラム様の権能はぁっ! 『対象をあるべき姿に』……つまり『神の定めた運命』に戻す能力だぁっ!!!」
やたら詳しいな。さすが教皇と言うことか。
しかしそれは既に知っている。
「……?」
「結界が壊れなくて不思議か? 悪いが、この結界に『不干渉』の概念を加えた」
「……?」
「わからないか。それもそうだな」
無表情……というよりは、本当に意思がないらしい。
無駄だというのに、それしかできないと言うように、ただただ結界に触れて権能を行使し続けている。
所詮神が作った人形――低レベルな権能だけを持たせて都合のいい使い捨ての駒でしかない。
「『概念変換・人形』」
「は――なななっ!? ててて……天使様が……人形にぃっ!?」
指をパチンと鳴らす。
その刹那、100体の神の使いは質量と熱を失い、乾いた音を立てて床に転がる石造りの人形へと成り果てた。
人形は、本物の人形に。まるで子どもの遊具のようにかわいらしい人形の出来上がりだ。
諸事情で天使の体には詳しいからな、変換することなど容易い。
「バカなっ!? 神の権能を持った天使様が!? 『対象をあるべき姿に』ではなかったのかぁぁっ!?」
「こっちの方がかわいいだろう? さて……もう終わりか?」
「なっ! い、いやぁ~……そのぉ~……」
終わりだな。
「では、お前らへの沙汰を下す」
「ま、待ってくらしゃい……おねがいしますぅぅ~……」
教皇が這い寄ってくる。他の者は身動きが取れないが、一様に泣き叫んでいる。
「貴様らのような醜悪な欲望を肥大化させた老害どもは……もう1度赤子からやり直せ」
「赤子!? あ、赤ちゃんプレイ……?」
「当然中身だけだがな。見た目は醜い豚のままだ。それでも好いてくれる女性がいるといいな」
「しょ、しょんなぁ~……」
いる訳ないだろうが。
ついでに、魂を半分に分けて……自身の肉体が悍ましい奇行をするところを眺めさせてやろう。
「では……『真魂顕現』」
「くそぉくそぉぉ! 勝ったと思うなよ! 神は言った! 貴様に更なる天罰を課すと! 大天使様が遣わされると! 貴様らに……この世界の居場所はない!!!」
なるほど、国の次は……世界からの追放らしい。
「貴様が惨めに這いつくばる姿を楽しみにしているぞぉぉぉ!」
「這いつくばるのは貴様らだ――さらば」
教皇たちの魂を半分に分け、さらに情報を書き換える。
少しして……どこからともなく『おんぎゃぁ』というしわがれた声が聞こえてきた。
「え? ……キモッ!」
「ラビラビィ様……さすがにそれは……」
「アイリスは大丈夫なの? あの面で赤ちゃんみたいに……あ、人形遊びし始めた」
「うげぇ――じゃなかった……いややっぱりごめんなさい、キモいです……」
赤子になっても、魂の汚れは落ち切らなかったようで……人形のスカートをめくるものがチラホラ。
「結論:ここが、じごく」
「違いないわね……」
「(夢に出てきそう)」
呆気にとられるコアちゃんたちを尻目に、最後の教皇の言葉を思い出し……笑みがこぼれてしまった。
「大天使か……解析のしがいがありそうだな……!」
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
明日の投稿は
20時10分頃
となります!




