第57話 100年戦争と、真の勝者
「ルゥくん♡ 今日こそぉ、おセッセッするっちゃ♡ ちゅっちゅ♡」
聖女ラビラビィである。
どうやらピンク色なのは髪の毛だけでなく、脳内もそうらしい。
そして、そんな彼女がもたらすのは、アイリスたちへの悪影響である。
「失礼ですが、ラビラビィ様。物事には順序というものがあります」
「はぁ? 何よあんた」
「ルシアン様と……その、アレするのはミラ様が最初、そして次はこのアイリスと決まっているのです! 出会った順番的に!」
「……ふぅん」
今まではミラを立ててくれるアイリス(まじめ)とマール(アホ)だけだったから問題なかった俺たちの関係。
そして『だだ甘』リエラはギルドにいるから……と思っていたのだが。
「……確かに、出会った順番ってのは大事よね」
「わかっていただけましたか。では今すぐルシアン様から離れて――」
「出会った順なら、ミラの次は私だから」
「な、何を――」
「100年以上前に出会ったの、私とルゥくんは」
「そんな……!」
ところで、その『ルゥくん』呼びは続くのか……?
「……いえ、まだこちらにはリエラさんがいます! あの方が最初のはずです!」
「……ふぅん」
「(アイリスったら……何の勝負になってるんだろうね)」
「(……わからん)」
わからないが、確実に言えることは、リエラが勝っててもアイリスは負けているということである。
「じゃあ、そのリエラって奴に挨拶しとこうかな。ね、ルゥくん♡」
「……それは……そうだな……」
ラビラビィも俺の女になったからには、ちゃんと会わせなきゃいけない。
頭ではわかっていたこと。しかし今まで避けていたことである。
「(『冷鉄の美女』改め、『だだ甘』と見せかけて『激重しゅきしゅき使い』の年増エルフに会わせなきゃね! 楽しみだなー!)」
「(他人事だと思って――)」
「(逆だよ?)」
「(逆?)」
「(そう、逆)」
それっきり、何も話さなくなってしまったミラ。
仕方がないのでリエラに会いに行くか……。
◇◇◇◇◇◇
『転移』でライブラの町にやってきた。
あまり乗り気じゃない俺のことなど知ったことかと言うように、アイリスが意気揚々とギルドの扉を開ける。
「リエラさんいますか!」
「あらアイリスさん……どうしたのかしら?」
「実は――」
事情を説明するアイリス。
聖女ラビラビィが新たに仲間に加わったこと、そしてミラの次に古株なのは誰なのか、ということ。
「……ふぅん」
しかし、アイリスの話が終わった後にリエラが向き直ったのは、俺の方だった。
「また、増えたのです? 女の子」
「(いいぞーリエラー! もっと言ってやれー! この年中発情期の禁忌使いを懲らしめろー! 惚れた男が女の子を増やすことについて、もっと言ってやれー!)」
肩の毛玉がひどい件。
『リエラに会わせるのが楽しみ』と言っていたのはこの展開を予想していたからか……。
「私からしたら、いつの間にか増えてたのはあんたらの方だけどね」
「これはこれは……ラビラビィ様と言ったかしら?」
「そうよ。100年以上も前からルゥくんのこと想ってたんだけど?」
「あらあら、これは奇遇ですね。私も――『ルゥくん』……?」
「(あ、ダメそう)」
リエラの顔から、どんどん『冷鉄』さが失われ……あっという間に涙目。
もう『冷鉄』の名は無理だ。
「ルゥくんだなんて……そんな! ずるい! しかもそんなに色っぽい体で……!」
「ルゥくんはルゥくんだし。ね、ルゥくん♡」
「…………」
正直、嫌だ。
「思考の解析:羞恥20%、拒絶感50%、その他30%……結論:ルゥくん」
「お! それはいい呼び方だな! 我も『ルゥくん』と呼ぶから、ルゥくんは『マァちゃん』と呼べ!」
「いやだが?」
そしてコアちゃんの解析の結論が、なぜ肯定を示すのか。理解できない。
「……それに、同じ100年前って言うけど、多分私の方が先にルゥくんに会ってるわよ?」
「そ、そんなはずは……!」
「だって、私と会った時エルフの女の子なんていなかったもの」
「(あちゃー、バレそうだね)」
ミラの奴、ちゃんと覚えてて……それでもリエラに攻撃させようとしたのか……?
「そんな……私の唯一のアイデンティティが……!」
「同意:さらにリエラどうよう、『個体名:ラビラビィ』も『しゅきしゅき使い』」
「……うぅ……私に勝ち目はないの……?」
「否定:ラビラビィも、はいぼくしゃにはかわりない」
「「……え?」」
「(え?)」
リエラとラビラビィ、ついでにミラも同時に間の抜けた声を上げる。
内心では俺も、コアちゃんの言わんとしていることがわからずに首をかしげているのだが。
「結論:しんのしょうしゃは――」
「あら、ルシアンくん! 帰ってきたんだぁ♪ おかえりなさ~い」
「かのじょ、ロルウェンナ」
「んん? なぁに、コアちゃん……あ、ルシアンくんまた女の子増やして……ダメだぞっ♪」
人差し指で軽く鼻をつつかれる。
この余裕、完全に1人勝ちである。
「…………」
「む? 母上、ルシアンは子どもじゃないんだぞ!」
その瞬間、1人を除いて全てを察したらしい女性陣が――顔を見合わせ、頷き合った。
「ルゥくん! 肩揉んであげるっちゃ♡」
「ルゥく――ルシアン様、先日極上のコーヒー豆を手に入れまして。ぜひ飲んでいただきたいので持って来ますね」
「ルシアン様! 何かして欲しいことはありませんか!? なければ……お、おっぱいでも……」
「提案:なでろ」
「む!? よくわからんが……おっぱいなら我の方が好きだろ!? なぁ、そうだろう!?」
「(きーっ! みんなして何よ! ルシアンは私のものなのにぃっ!)」
1人の圧倒的ボスを前に、結託することを選んだようだ。
これで一件落着だな。
ラビラビィに聖なる肩もみをされながら、香り高いコーヒーを飲み、アイリスに腕をしがみつけられ、反対の手でコアちゃんを撫でながら顔に思いっきり巨乳を押し当てられ、その隙間にミラが挟まってることを残念に思いながら一安心している俺――を微笑ましく見つめているであろうロルウェンナ。
「…………」
だが、こういう日常も悪くない。
複数の女性から向けられる好意――そして何より鼻腔をくすぐる甘い香りと柔らかな感触に、賢者の理性がいまにも禁忌を犯しそうになる――。
「もし、ルシアン・エヴァーハート殿でよろしいか?」
しばらくなすがままにされていたのだが。
この平和な日常に介入してくる無粋な存在が現れた。
「……そうだが」
よくもまぁ、この状況に割って入ろうとしたものだ。
声の主を見ると……ポルカ=トラム聖教会の神官のようだ。
「貴様に、禁術使用と禁忌魔法研究の容疑、そして聖女様を汚した罪により……聖教会教皇様からお呼び出しがかかっている。おとなしく我々についてこい! この薄汚い禁術使いめ!」
「何よあんた……急に現れて!」
俺の代わりに、聖女ラビラビィが怒りの声を上げる。
「聖女様こそ、そんな薄汚い男から離れてください! あなたは教会の、ひいては我ら神官たちにとってなくてはならないものなのですぞ!」
「なっ!?」
この末端神官め……俺の女を“もの”だと言い放ったな?
いいだろう。部下の教育不行き届きはトップの責任……俺が教育し直してやる。
「貴様の飼い主に伝えておけ。呼ばれなくてもこちらから向かってやるから首を洗って待っていろ、とな」
俺がそう呟くと同時に、使者の足元の床が、まるで恐怖に震えるように砂へと姿を変えた。
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