第55話 王国事変の終わりと、新たな始まり
――翌日。
邪神との戦いで跡形もなくなっていた王城は、すっかり元の姿に戻っていた。
この場の『記憶』から完全に復元することなど、朝飯前だ。
「……ルシアン殿とそのご一行よ。瘴気を払うだけでなく、その根源を断ってくれたと聞いた……」
俺――ルシアンはソニプロフェン王国の城、その謁見の間で王の目の前に立っていた。
「悪しき者によりザイモスは殺害され、邪神が復活したと……」
「まあ」
そういうことになっている。
俺の分身体がやったことなので、マッチポンプと言われればその通りだが。
「(『悪しき者』さんはルシアンの魔法で塵一つ残さず消滅、いいわね!)」
「(わかってるよ)」
「(余計なこと言わないようにね! また追放されちゃうわよ!)」
昨晩ミラたちと一緒になって考えた言い訳。
せっかく未知の現象を目の当たりにしたのに、この言い訳を覚えさせられることを優先させられたのだ。
「(ちょっと! もう少し顔に覇気を込めなさいよ! ただでさえ眠そうな顔なんだから!)」
「(実際に眠いんだから仕方がない)」
俺は少しボサボサのアッシュグレーの髪を掻きながら、昨夜のマールとの熱い夜に思いを馳せる。
『特異点』と名付けたあの黒い塊はなんだったのか、どういう条件で発現したのか。
いかん、またウズウズしてきた。
こんな謁見、早く終わらせて――
「ついては我が国への多大なる貢献を認め、そのルシアン殿を『救国の大賢者』および『特級公爵』に叙する!」
「結構だ。話が終わったのなら失礼する」
「んなぁっ!?」
くだらない話など飽きた。飾りにもならない爵位もいらん。
どうせ国に縛り付けようと言う魂胆だろうしな。
「まっ! 待ってくれ! 伯爵では不満か!? それなら――」
「いらん。俺たちは国を出ていく」
「そんなぁ……頼む、頼むから出て行かないでくれぇぇぇ……」
王の言葉を無視し、踵を返す。
長く列をなす人の群れの中に、王女セシリアンナの姿を見つけた。
「……ルシアン……」
「セシリィ、案ずるな。気が向いたらお前の所には戻ってこよう」
「……ん。待ってる」
次期女王である彼女がこの国をどうしていくのか見物である。
「(ほんっとーに! 女の子に甘いんだから!)」
「(そうだろうか? そんなことはないはず――)」
「(後ろを見て見なさいよ! 女の子ばっかりじゃない! あんなに楽しそうにして……!)」
凛とした顔が美しい、アイリス。かつての悲壮さは微塵もない。
里の風習のせいで半魔人化したマール。彼女を縛る鎖は、とうに砕けている。
元ダンジョンのコアちゃん。無表情だが、心に芽吹いているものは確かにある。
森の至宝、エルフのミュリエラ。『冷鉄』などとはとんでもない、彼女の真実は愛だ。
「(ここにはいないけど、忘れてないでしょうね! 他にもたくさんいるんだから!)」
「(もちろんだ)」
ロルウェンナにラビラビィにユリエナ、そしてセシリィ。
彼女たちのことも大切だ。
そして――。
「(……なによ。私まで見なくっていいってば!)」
毛玉にして、俺の最愛の人、ミラ。
彼女の体を取り戻すまで俺の旅は終わらない。
「(いいや。相変わらずだと思ってな)」
「(何よ! どういう意味!?)」
「(そのままの意味だ)」
ミラに頬をペシペシされながら、王城の門を開け放つ。
「さぁ、次はどこに行こうか」
新たな禁忌の、その先へ。
◇◇◇◇◇◇
「……それじゃあ、私は行くから」
しばらく公爵領にてゆっくり過ごしていると、突然聖女ラビラビィの過ごす部屋に呼び出される。
そして彼女が思いつめた様子で別れを切り出してきた。
「(あー……これは……)」
「(ん?)」
「(いい、ルシアン! 私は別にルシアンの恋人を増やしたいと思ってないけど! だけど、女の子を不幸にするのはもっと許しません!)」
「(何を言って――)」
「(だから、選択を間違えないように!)」
「(――ミラ?)」
そしてミラは俺の肩から飛び降り、部屋を出て行ってしまった。
「ケガ人の治療や、魔人化したことへの精神的ショックの治療。既に私のできることは終わりました。なので……行きます……」
「……行く? どこにだ」
「そりゃあ……また教会に戻って、聖女としていろんなところに行って……」
……わかっている。
彼女が教会に戻る――それだけでなく、俺との関係を断つつもりなのだろう。
「……そうか」
「…………」
きっと、色々考えて悩んで、そして覚悟したんだろう。
強い目をしながら、俺を見据えている。
「これも全部……てめぇのせいだからな! 100年以上も聖女やる羽目になって!」
「……ああ」
「何人も何人も、たくさんの人を救ってきたんだ!」
「ああ」
次第に、彼女の目から涙が零れる。
「……あの時……魔王に殺されかけて……」
「……」
「命まで、救われて……お前のこと、考えない日なんて……なかったんだ……」
相当の覚悟をしてきたんだろうが、それすら涙と共に流れてしまったようだ。
「……責任とれっての……」
「……やれやれ、100年も聖女やってて遂に思考力が鈍ったのか?」
「はっ!? 何言って――」
「鏡を見てみろ」
姿見に写っているのは、真っ赤な目で大粒の涙を湛える――少しばかり成長した姿のラビラビィ。
「お前は22歳じゃなく、25歳になったぞ。たった今」
「…………」
「誕生日、おめでとう。よければ俺と――」
ラビラビィが、猛烈な勢いで抱きついてくる。
「……わかりにくいんだよバカ! 22歳と25歳なんてほとんど変わらないんだから!」
「お前こそ、それなら――」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! たまには黙って抱きしめやがれっ!」
俺は、空気の読める男だ。
そっと、彼女を受け止めた腕に力を込める。
「……悪かった。待たせたな」
「おばっ! おばえのぜいでなぁ~~~……えぐぅぅぅぅ! ふえええぇぇぇええええ~~~ん!」
ひとしきり泣きじゃくった後、ラビラビィは赤く腫らした目で俺を見上げた。
「さて! それじゃあ早速行くぞっ!」
「む? どこにだ?」
「決まってんだろ!? 婚姻届を出しにだよっ!」
思った以上に気が早かった。
「……それにな、教会にはちゃんと『辞める』って言いに行かないと……あいつら、私がいないと面倒なこと騒ぎ立てるから……」
……婚姻届については一旦脇に置くとして、話の本命はこちらだったようだ。
「ふむ。100年もこき使われた挙句、すんなり辞めさせてくれるような連中か?」
「……ううん。絶対に、一生教会の道具として囲い込もうとするはずだわ。今までもそうだったしね」
不安そうに俯くラビラビィの頭を、ポンと撫でる。
「なら、俺も一緒に行ってやろう。もしお前の門出を邪魔するようなら――その時は、あの堅苦しい教会ごと『概念』を書き換えてやる」
「……ふふっ。ルシアンなら、本当にやりかねないわね」
こうして俺たちは、ラビラビィの退職手続き(物理)のために、ポルカ教会の中枢へと足を向けるのだった。
第1部はここまでとなります。
明日
20時10分頃
いよいよルシアンが……!? な第2部が始まります!
ぜひぜひ読んでやってください!
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