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『禁忌魔術を極めすぎて追放された賢者、死んだ最愛の女性(毛玉)を蘇生させるついでに世界を蹂躙する~「ダメ」と言われるほど、俺の魔術は加速する~』  作者: たゃんてゃん
第5章 小さな胸に抱きし愛

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第54話 孤独が生み出す闇と、絆が生み出す闇


 30011は孤独な数字。

 あいつに研究させていたのは“認識阻害”に関する魔法だった。

 だからバルトスの時もコアちゃんの時も簡単には正体を掴むことができなかった。


「少し本気を出せば造作もないのだがな……出て来いよ」


 城の地下深く。

 眠る“胴体”と、融合しているそいつを無理やり魔力で引っ張り上げる。


「な、何……!?」

「地響きが!? 城も崩れちゃってますよぉ!?」

「地下から無理やり“胴体”を引っ張り上げてる」


 城は崩れるだろうが、まあ後で直せばいい。


「それよりも下の魔法陣から出るなよ? さもなくば瘴気に侵されるか城に潰されるぞ」

「出るか!」

「懇願:たすけろ……ぶくぶく……」


 俺に引っ付いているコアちゃんをアイリスに引き渡しながら、邪神の浮上を続ける。

 もしかしたら、俺とて本気を出さなければならない相手だ。


「来るぞ!」


 城を崩壊させながら地の底から現れたのは、城よりも巨大な邪神の“胴体”、そして胸の部分から顔だけを出したそいつだった。

 どうやら邪神の“左手”も手に入れていたらしく、左手も生えている。


「……あんまりな起こし方じゃないか、俺よ。俺の元本体よ」

「いつまでも引きこもっているのが悪い。30011番よ」


 俺の顔にそっくり――だが、その眉間に刻まれた(しわ)と昏い瞳が、明確に俺とは違う道を歩んできたことを物語っている。


「無様な姿だな30011番よ。それがお前の望んだ姿か?」

「……その名で俺を呼ぶな……」

「ん……?」

「俺は……俺は既に邪神を取り込みつつある! 俺はもうお前ではない! 俺の名は……ルシアン=ゼファウルゴスだ!!!」


 ゼファウルゴス……邪神の名か。


「死ねっ!!!」

「きゃあっ!?」


 左手から、かつてないほどの瘴気の炎を浴びせてくるゼファウルゴス。

 結界が軋むのを感じる。


「ふむ、威力は悪くない」

「当たり前だ! 俺は邪神――ルシアン=ゼファウルゴスだぞ!!!」

「だが、その程度だ。『万象反転(リバースワールド)瘴魔転生(ミアズマジック)』」

「なっ!?」


 ゼファウルゴスの放つ瘴気の炎を、そのまま魔石に変換。おやつを用意してくれるとは……久しぶりの再会に気の利くやつだ。


「バカめ!」

「む?」


 正面の瘴気を変換していると、いつの間にか四方から瘴気の炎に襲われていた。

 結界が悲鳴を上げ、遂にはヒビが入る。


不可視の瘴気炎インビジブル・ネファルブレイズ!!! 気付かなかっただろう!」

「『認識阻害』で魔法を展開していたか」

「その余裕も終わりだ! 出力……最大ぃぃぃ!!!」

「……悪かった」


 そして認識を改めよう。


「終わりだぁぁぁ……なっ!?」

「ザイモス用の結界じゃ持たなかったな」

「結界が……元に!?」

「認めよう、お前はザイモスよりは上だ」

「ぐ、ぐぬぬ……!」


 結界に込める魔力を少しばかり増やす。

 それだけで結界は元通りだ。


「1つレクチャーしよう。切り札を切る時は……確実に相手を倒せるように、出し惜しみするな」

「何を言って――」

「『魂装幻夢(ファンタズムヴェール)聖光(ホーリーレイ)』」

「――ぎゃあああああ!?」


 ゼファウルゴスの周囲に展開していた、姿を隠した聖なる光線を放つ魔法陣。

 奴には見えていないだろうが、その数はちょうど100。


「な、何が起こって――なぜ見えない!? ぐぁぁぁ!?」

「『認識阻害』の一種だな。聖の光線の味はどうだ?」

「そんな!? 俺の……俺の!!!」

「お前のではない。この俺が、更に発展させたものだ」

「――っ!?」


 あいつにとっては、唯一誇れる分野――俺より上だと自負していたのだろう。

 痛みに耐えながら驚愕(きょうがく)の表情を浮かべている。


「くそ……もう少し時間があれば……」

「お」


 興味深い発言が聞こえたので聖光(ホーリーレイ)を解除する。

 まだ何か隠し持っていたようだ。

 

「もう少しで魔界との門が完全に開いて……俺が完全な姿になれたと言うのに……!」

「……ああ」


 魔界の門、か。


「そうすれば――はっ!?」

「(ちょっとルシアン!? 何で魔界の門を開いたのよ!?)」

「(……何のことだ?)」

「(しらばっくれるな!)」


 ちょうどいいタイミングで魔界の門が開いた、そういうことにしておこう。

 “胴体”と同じ大きさの歪が、赤と黒の世界を覗かせる。


「くくく! 天は……神は俺に味方した! いでよ邪神の“頭”! そして完全な姿を取り戻せぇぇぇ!!!」


 どうやら魔界に“頭”が封印されていたらしい。

 まるで長い間“お預け”を食らっていた犬のように、邪神の“頭”が“胴体”の元に――。


「……くくく……はーっはっはっはっはっ! これで……これで俺は完全体! ルシアン=ゼファウルゴス・トゥルーフォームだ!!!」

「…………」

「今度こそ死ね! 全て消え去れぇぇ!!! 『総て吞み込む虚無(ザ・ワン)』!!!」


 頭が戻ったことで、足りない四肢すら回復。

 そして巨大なゼファウルゴスの何倍もある瘴気の塊。

 それに触れた王城の瓦礫が分解されているのが見える。


 しかし『全て消え去れ』とは。やはり……30011、孤独な者だったか。


「…………」

「――え?」


 指をパチンと弾く。


「き……消えた?」

「後ろを見て見ろ」

「後ろ……」


 そこにはあるのは、先ほど開いた魔界への門。

 そこから見えるのは、『転移』したゼファウルゴスの魔法。


 魔界の地に落ちた魔法は確かに強力な威力だったようで、様々な物を消失させながら爆発した。

 既にこちらとのつながりは切っているので、見えるだけだが。


「……そんな……ばかな……俺の最高の……」

「お前は……だから『ダメ』なのだ」

「――ッ!?」

「お前は所詮、自分のことしか考えていない。独りだ。それじゃあ何も生まれない。発展しない」

「俺は……俺で在りたくて……」

「見ろ。今からお前を滅ぼす魔法。これは俺の弟子が編み出した魔法だ」


 邪神の肉体を端から、少しずつ魔界へと『転送』する。細かく、刻むように、ゆっくりと。

 向こう側(魔界)で、邪神のバラバラの肉片が積み重なっていく。


「や、やめろ……! 俺は……俺だって必死に研究したんだ! お前……ザイモスにも言っていただろう! “譲れない誇り”は評価すると!」

「ああ、言ったな」


 “両足”の転移、完了。


「――だ、だから見逃してくれ……! 頼む!」

「……お前は研究した結果、諦めた。他人の肉体を簒奪(さんだつ)し、魔術師であることを――研究者であることを放棄した。他人の成果を盗むだけの寄生虫に成り下がった」


 “両腕”の転移、完了。


「なっ――」

「お前は、何者でもない。ただの『敗北者』だ」


 頭部の転移、完了。


「やめろ……せめて――せめて俺を吸収してくれ! じゃなきゃ俺の人生が無駄に――」


 30011番の言葉を最後まで聞かず、奴が寄生した“胴体”を『転移』させる。

 そして、魔界の様子を映し出すだけの次元の門の先に奴が出現した。

 何か喚いている様子だが、全く聞こえない。


「これが……マールの研究を俺がさらに発展させた、今の俺の最強の技だ。多次元から魔素を極一点に収束させ、臨界点を超えた空間ごと――跡形もなく爆発、霧散(むさん)させる」


 魂の欠片すら残さぬ完全消滅。

 そう確信して、俺は指を弾いた。


「『ネクサス・ディメンシアブレイク』」


 ――だが、起こった現象は、俺の予想を裏切るものだった。


「…………なっ!?」


 爆発など起こらなかった。

 収縮された魔力は……光さえも飲み込む漆黒の球体へと凝縮され、周囲の空間、大気、そして邪神の巨体までもが、紙屑のように1点へと吸い込まれていく。

 爆発的な“拡散”ではなく、絶対的な“収縮”だ。


 一瞬にして飲み込まれたであろう30011。

 しまったな……やはり奴と魂の共有をしておくべきだったか……未知の体験ができて羨ましい。


「……消えた……」


 数秒後、漆黒の球体は音もなく弾けて消え、そこにはただ、何も存在しない『虚無』だけが取り残されていた。


「……見ろマールよ! これは予想外だ! 全エネルギーを解放して吹き飛ばすはずが――むしろ逆か!? 質量が飽和して、空間そのものが崩壊し吸い込んでいったぞ!」

「見た……今のは……今のは一体!?」


 未知の現象だ。マールが編み出し、俺が発展させた術式が……想像を超えた結果をもたらした。


「わからん……計算外だが、これだから魔術は面白い! まだまだ知らないことだらけだ! マールよ、永遠に俺についてこい! この深淵を共に解き明かすぞ!」

「もちろんだ! ……え?」

「(ちょっと! どさくさに紛れてプロポーズしてんじゃないわよ!)」


 ん?


「も、もちろんだぞ……! ふ、夫婦仲良く……永遠に研究しよう、な!」

「ルシアン様、マールさんだけずるいです! 私も永遠にお供します!」

「100年待たされた後は永遠……最高です!」

「結論:わたしも……」

「(ちょ、ちょっとあんたたち! 私のルシアンに群がらないで! (まと)わりつかないで! 私を押しつぶさないで!)」


 騒がしくなった周囲を見渡し、俺は首を傾げる。


「(……そうか『永遠についてこい』って、そういう……)」

「(気付いてなかったの!? あんたのそういうところ……ほんとっ!)」


 意図していなかったのは確か。

 だが俺はデリカシーのない男ではない。


「当然だ。お前らは既に俺の――大切な人だからな」


 まるで祝福するように、完全に瘴気の晴れた空から、黄金色の夕日が差し込んだ。

誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!

★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!


次話の投稿は

20時10分頃

20時40分頃

となります!

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