第53話 追放されし男、追放する
空を包む瘴気は晴れ、王都に光が差す。
だがまだ終わってはいない。
「王城の下、そこに“胴体”があるな。今も再び瘴気が発生している」
『万象反転・瘴魔転生』の効果範囲外だったか、もしくは――。
「(何者かに守られていたか、だな)」
「(もうわかってんでしょ! あんたの分身体よ!)」
再び毛玉の姿に戻ったミラが肩に飛び乗ってくる。
言われなくてもわかってる。
「ユリエナたちは引き続き、王都内の人間の保護を頼めるか? まだ隠れている奴がいるかもしれん」
「わかりました!」
少ないながらも、あちこちでそれらしき魂を感知している。
そちらはエルフたちに任せよう。
「さて……俺たちは王城に向かうが……1つだけ約束してもらえるか?」
「なんでしょう」
リエラが代表して答える。
「手出しはしない、と」
「……というと?」
「待ち構えている者どもは漏れなく俺への挑戦者だ。ならば俺だけで受けて立つのが道理だろう?」
「……わかりました」
アイリスたちも同様に頷いている。
マールの奴は多分飛びつきそうなので、コアちゃんのお守りを任せよう。
「行くぞ」
王城へと続く階段を登る。
重たい門を無理やり開け放ち、王城で最も広い場所――謁見の間へと進む。
そこにいたのは――。
「これはこれは……誰かと思ったら、無能なルシアン君じゃあないか……」
「ザイモスか。愉快な変装だな」
全身を真っ黒な瘴気に侵され、立派な角を2本生やしたザイモスだった。
まるでオーラのように、自らが瘴気をまき散らしている。
魔人化が完了しているのにもかかわらず、理性を保てているようだ。
「見たまえ。君が恐れをなして逃げることのできなかった“暗黒の力”。大賢者たる私にかかれば、完全に掌握し利用することなど容易いのだよ」
「…………」
「どうだ? 恐ろしくて声が出ないだろう?」
「…………」
「時に貴様、随分美しい女どもを連れているな……くっくっくっ、どうだ? その女のうち1人でも我に寄こしたら……楽に殺してやるぞ?」
「…………」
「それとも、貴様をいたぶった後で……目の前で全員犯し尽くしてやろうか?」
「…………」
「何とか言え! 無能の口先だけのごみカス野郎が!」
「……すまんな。あまりにも見当違いな、そして下衆すぎる発言に言葉を失っていた」
「(ほんとね。返事する気さえ起きないわ!)」
ミラの言葉に頷きながら、右手を魔人化して見せる。
漆黒の黒、しかも瘴気を一切漏らさない完全に制御した魔人化だ。
「なっ!? 貴様も!?」
「魔人化は魔力を扱うという点で見れば効率的な体だ。俺が身に着けていないとでも?」
「……だが! お前は右手だけ――」
「何を言っている。お前相手に魔人化など必要ない」
再び自分の右手を通常の状態に戻す。
完全な掌握とは、不可逆なものではないということ。ザイモスはどうだろうな。興味はないが。
「戻った!? い、いや! その傲慢さが貴様の命取りなのだ! そして迂闊な自分を呪うがいい! 『唯我独尊我是絶対神』!!!」
ザイモスが叫んだ瞬間、床に刻まれた魔法陣が光だす。
ふむ、悪くない。
「この領域内は! 我が許可した魔法――基本属性の魔法しか使えないッ! 禁術に頼ってばかりの貴様は何もできず――」
「そんなに“禁忌”が怖いのか?」
「――あ?」
「謎、発見、挑戦、喜び、絶望、希望。その果てに築き上げてきた魔術師の叡智。なぜ『ダメだ』と言われねばならん」
「…………」
「なぜ、何も知らない者が一方的に禁止する。なぜそれに甘んじる。俺には理解できない……それは魔術師に――人間に対する冒涜だろうが!」
「……ご高説、ご苦労。何にも響かんがね」
確かに、どうかしていたな。ザイモスなどに自分を語るとは。
どうやら久しぶりに『ダメだ』と言われて頭に来てしまったようだ。
「負けた時の言い訳は終わりか? ならば始めよう! 真の大賢者の証明を!」
「最後に1つ教えてやる。俺の最も得意な魔法は禁術ではない。ごく一般的で基本的な魔法だ」
「『極大炎球魔法』」
「『加速』」
初級魔法、加速。
対象を加速する、ごくごく初歩的な魔法。
本来は足が多少速くなる程度のもの。
「(ミラの蘇生のために、とにかく時間が足りなかった。ミラの魂にとっても、俺の能力にとっても、身体能力や魔力の器としての肉体も)」
故に、加速した。加速して加速して加速して……。
いつしかほとんど時が止まった世界で、自分だけが動けるようになった。あまりにも加速し過ぎたため、時間を置き去りにしたんだ。
「ザイモスよ、お前の魔法は悪くない」
当然、返事はない。
奴は今、手の平から極大の火の玉を生み出しているところで止まっている。
「だが……これほど複雑な魔法陣、抑えられる許容上限が相当低くなっているな。これでは俺にとって何の障害にもならん」
『真魂顕現』でザイモスの角を8本ほどに増やしながら、どうしたものかと考える。
奴自身の性格はゴミ――ゴミに失礼なほどの矮小でドブのように濁り切った汚物そのものだが、魔術に対する姿勢は悪くない。
「この魔法陣の術式構成も、基本属性のみの使用許可――俺への対策をとりながら、あくまで魔法勝負に持ち込もうとした。“譲れない誇り”、そこだけは評価に値する」
だからこそ、どうするか。
「まずは魔法陣を“俺が許可する魔法”だけに書き換えて、加えてザイモスの体を霊体化しておこう。そして――いや、後は本人に直接説明してやろう」
準備が整ったため、自分の『加速』を解除する。
再び時が元の動きに戻る。
「――死ねルシアン! ……あれ?」
「『加速』中に魔法陣を書き換えといたぞ。俺の許可する者以外魔法が使えないようにな」
「何をバカな……『極大炎球魔法』『極大炎球魔法』……『破星降臨』『暴風大殺陣』……なぜだ……なぜだぁぁぁ!?」
やれやれ、理解力が足りないようだ。
そんなだから、その程度の魔法しか使えないんだ。
「言っただろう『俺の許可する者以外魔法が使えない』とな」
「ま、まさか本当に……!?」
「それよりも、自分の体を見てみたらどうだ?」
「何を――なぁぁっ!?」
ようやく、自分の体が半透明になっていることに気が付いたようだ。
頭の角は……まあいいか。
「そして……お前をこの箱に閉じ込める。中が異空間になっていて捕らえたものを決して逃がさない箱だ」
「何を!?」
「自尊心の強いお前だ。これからは誰にも見られることのない、狭い空間で独り過ごすがいい。なあに、中は意外と快適だ。死にもしない」
「や、ややや……やめろぉぉ……やめてくれ……!」
「ふむ?」
「頼む! お願いだ――お願いします! どうかこの通り助けてくれ! お願いします!」
「断る。今度は、俺がお前を追放する番だ。この世界からな」
「やめっ!? やめてぇぇぇぇぇぇえええええええ~~~~~ああああああああああ――――………………」
手の平サイズの箱がコトリと落ち、ザイモスの収容を完了する。
最後まで醜いやつだったな。
「……一瞬、でしたね。あんな大口を叩いていたのに」
「いやいや……アイリスにはわからなかっただろうが……ルシアンの圧倒的実力を見せつけられた……」
おお、マールは何となくだが理解しているのか?
師としてこれほど嬉しいことはない。
「これで……終わったんですね……!」
「いいやまだだ。肝心な奴が残っている」
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