第51話 醜い願望と、些細な約束
「……ということがあってだな。今回の事件を引き起こしたのは分身体ナンバー30011だと思われる」
応接間での話し合いを終え、俺は宛がわれた部屋に信頼できる者たちを呼んで過去のことを話す。
「その分身体さんは……一体何を目的で?」
姿を消した後のことは知らないが、奴の考えていたことと、この状況から推測するのは簡単だ。
「邪神の体を手に入れるためだろう。全く持って嘆かわしい」
「そんな……許せません! 何人もの人が巻き添えに……!」
アイリスが体を震わせながら、握った拳に力を入れる。
巻き込まれて魔人化した者たちを思ってのことだろう。
俺の嘆きは、残念ながらそこではないが。
己の器を広げる努力を怠り、他者の器を奪おうなど……俺の分身を名乗るのもおこがましい。
「珍しいですね、ルシアン様なら『ミラのおやつにちょうどいい』と言いながら“胴体”を処理してたとしもおかしくないかと」
『長距離念話の指輪』の向こう側で、リエラが疑問を上げる。
「俺とて鬼じゃない。既に多くの人がいる中で邪神を呼び起こすことで生じる――今回のようなことはやらん」
さすがに国民全員を魔人化させてまで、たかがおやつを用意するはずがない。
「疑問:なんで“どうたい”? ほかのからだは?」
「……予想だが、“胴体”は基本的な部分、つまり最も魔力の器が大きい。分身体とはいえ、そこそこの魔力はあるはずだから、それを収めることができる器が欲しかったのだろう」
「結論:やはりルシアンは……じゃしん……!」
「最早それが言いたいだけだろう」
『ぶくぶく』いいながら抱きついてくるコアちゃんを撫でる。
「……それで! 魔人化した人たちをどうするの!? どうせあんたのことだから解決策あるんでしょ!」
「国を預かるものとして、お願いします……どうか国民をお助け下さい」
「……ルシアン、こればっかりは本当にお願いだよ……お願いします」
この場にラビラビィや王妃と王女、それに公爵まで呼んだのは他でもない。
まさにその『国民を助ける』ための手伝いをさせる訳だ。
「魔人化の解除、それは聖女の十八番だな」
「そうだけどさ! あんまりたくさんは無理だよ……魔力がもたないし、完全に魔人化してる人は無理だし……」
「それを応用した魔道具を用意する。魔力さえ練れれば誰でも使え、魔人化の解除に特化したものだ」
いわゆる『お手軽誰でも魔人化解除セット』だな。
どうせ聖女のことだから『禁忌だ禁術だ』とか騒ぐに違いない。
「……さすが、そんなものまで作れるなんてね……」
「ん? 禁忌だなんだ言わないのか?」
「そりゃ禁忌だし聖女の立つ瀬がなくなる代物だけど……それよりも罪のない人々を助ける方が大事でしょ!」
「ほう」
意外だ。
こいつも100年の聖女生活で丸くなったと見える。
「例えば……そうだな、わかりやすくこんなものでどうだ?」
聖なる光を放つ灯、それをランタンの形の容器に入れた魔道具を作り出す。
やはり無から有を作るのは疲れる。
「ちょっ!? そんな簡単に作れるの!? しかも私の全力より濃い聖の波動なんですけどぉっ!? っざっけんなてめー!?」
「おお……思わずひれ伏したくなるような神々しさ……! ありがたやぁ~……」
「やっべ、歴史が変わる瞬間見ちゃったくね?」
ラビラビィが口汚く罵り、公爵が拝み始め、セシリィが訳の分からない言葉を使う。
セシリィは肝が据わっているとも言うな。
「んでさぁー、私たちは?」
「我々にできることは……さすがに戦うことは難しく……」
気だるげ王女と人妻王妃、ついでに公爵の役割は簡単だ。
「俺たちが王都に侵入し、瘴気を払いながら国民を魔人化から戻す。そいつらをこの公爵邸に『転移』させようと思っている」
「……つまり?」
「ここに飛ばされた人間を保護しろ」
ちょうどマールがいいタイミングで研究を完成させた。
師としてありがたく使わせてもらおう。
「マールよ、お前の編み出した『転移』を活用させてもらうぞ」
「そんなことよりもだなぁ……みんな気が付いていないのか!?」
「(あんなに熱心だった研究をもう『あんなもの』呼ばわりなんて……)」
「(研究者なんてそんなもんだ)」
しかし……マールの奴プルプル震えてどうしたというのか。
「30011体の分身体だと!? 我など1体も作れんぞ……! それを30011体だと!? しかも時間を無限に圧縮――いや加速か!? 訳が分からんぞ!!!」
「(その割には嬉しそう)」
「(新たな研究対象が見つかったようだな)」
それでこそ我が弟子、どこぞの分身体とは大違いだ。
「ルシアンよ、期待して待っていろ! 我が分身できた暁には……!」
「暁には?」
「……両側から挟んでやるからなっ!」
「……楽しみにしているぞ」
「(はいアウトー。マールさんアウトー)」
「(分身しなくても、母娘で――)」
「(それ、言ったらガチのマジでアウトだからね?)」
わかってる。
「うむ! しかし……ルシアンの強さの理由がわかって……尚のこと遠のいた気がするの……」
「私もです……一体どれほどの想いがあれば、無限の時の中で……ミラさんが羨ましい」
マールたちが言っているのは、ただただミラへの想いだけで無限の時間を研究していたことだろう。
もちろんミラに直接関係のある魔術だけでなく、全ての分野の研究と特訓と実験をしていたのだが。
「(たっはー! 参っちゃうなぁ~、こんなにも愛されちゃって! でもさ……どうしてそんなに……? 嬉しいけど……)」
「(何だ、覚えてないのか?)」
「(えっ、ご、ごめん……私大事なこと忘れちゃった……?)」
「(いいや、大したことじゃない。気にするな)」
「(……本当にごめんなさい……)」
珍しく本気でしょげているミラを、壊れないようにそっと撫でる。
そんな顔をする必要などないと言うのに。ただ、今お前がいると言う事実だけが重要なのに。
「(謝るな。実際、達成されているしな)」
「(……そっか。頑張って思い出すから……待ってて!)」
「(ああ)」
俺が口を滑らすのが先か、ミラが思い出すのが先か。
どちらでもいい、結果は変わらない。今も昔も、この先もずっと。
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次話の投稿は
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20時10分頃
となります!




