第5話 100年越しの正妻戦争と、胃袋を掴まれたロケット騎士
その日の晩。
リエラと約束通り、食事を共にしている。
なかなか高級な食材と工夫の行き届いた店の内装、店員の立ち振る舞いなどは、王宮でのそれと遜色ないものだ。
「ありがとう。こんな素敵な場所でごちそうになってしまって」
「い、いえ……たいしたことは……」
「いや本当に嬉しい」
まるで少女のように恥ずかしそうに俯くリエラ。
少女と言っても人間でいうところの20歳前後らしい。100年以上生きているが。
「そ、それで……あの……」
「ん~?」
ガイアドラゴン肉の濃厚な味わいと共に、彼女の恥ずかしがる様子を楽しんでいると、なんとなく店が騒がしくなったのを感じた。
というか知った魂の波動を感じる。
同時に、リエラの目が薄く細められていく。
「……何しに来たのかしら」
「…………」
まさに『冷徹の美女』、そう思わせる声を向けられたのは俺の背後。
アイリスだった。
あの後、彼女を宿に送り届けてそのまま彼女は眠ってしまった。
道中で彼女の体のことは伝えていたが……。
鎧姿ではなく、修道女のような控えめで少しくすんだワンピース。
後ろで1本に短くまとめられた水色の髪も、手入れが行き届いている様子はない。
薄々感じていたが、貧乏そうだ。
「……お、お食事中すみません……その……」
綻びを隠すように、指先をそっと重ねてうつむく彼女。
どうやら、自分の格好が場違いであることには気が付いているらしい。
「ル、ルシアン様に……お会いしたくて……」
ピキッと血管が切れる音がした。
発生源はもちろん『冷鉄の美女』、そのこめかみである。
「(むっきーーー!!! 何よこの女!)」
「(お前は事情を知っているだろうに)」
会いたくなった理由は恐らく、魔力の補充だろう。
彼女の魂と肉体を結びつけるための俺の魔力が少なくなってきた。
だからこうして……魂の結びつきを頼りにここまで来たのだ。
「あらあら、さすが年若い女の子。たまたま助けられたからと言ってルシアンに惚れちゃったのかしら? でも残念。彼は100年前から私と共に歩むことが決まっているの。わかったら、お邪魔虫さんはおかえりいただける?」
「(この女こそ何言ってるのかしら! ルシアンは私の物だって、もーっともーーーっと前から決まってたんですぅ!!!)」
どうやら、俺の人生は100年前に決まっていたらしい。知らなかった。
しかしミラよ、そのセリフは本人に言ってくれ。頬を羽でペシペシするのもやめてくれ。
「私は……私は既にルシアン様の物ですので……」
「はぁ?」
「ルシアン様の魔力がないと生きていけませんし……それに……」
「…………」
「いえ、それとは別に、命を救われた身。1人の騎士として生涯の忠誠を今ここで誓います!」
「……ふ~ん。100年待った私に、たった数時間の魔力依存で勝てると思っているのかしら。事務的に、そのおめでたい思考回路を焼き切って差し上げましょうか?」
「想いは時間ではないと、ルシアン様に教えていただきました!」
おー怖っ。
さっきまでうまかったはずのガイアドラゴンの味が全くしないわ。
「(リエラの睨みにも、アイリスって子全然引かないね……)」
「(それだけの思いを持ってくれていると考えれば、悪い気持ちはしないな)」
ということで、リエラには悪いがここは助け舟をだそうか。
「リエラ、すまないがアイリスは俺の魔力が必要で――」
「……はわわ……はっ!? はい、魔力……必要、です……! じゅるり」
「(ルシアン……この子意識の70%は食事にいってるわよ……?)」
アイリス……俺が助け舟を出してやろうと思ったのに、視線は既に卓上のディナーに釘付けになってやがる。
涎まで垂らして……残り30%の理性ではこの程度が限界らしいな。
これはお仕置きせねばならん。
「アイリス、近くに来い」
「は、はい――ふあっ!?」
「きいぃぃーーー!!!」
「(きいぃぃーーー!!!)」
突然の大声に、こちらに向けられる視線が増えた。
魔力の譲渡は気持ちいいらしいからな。
恥ずかしさと快楽で悶えるがいい。
というか別の叫びも聞こえたんだが……。
「~~~っ! ~~~!!!」
涙目で、唇を噛んで必死に我慢している様子のアイリス。
しかし我慢できなくなったのが、俺に抱き着いてきた。
「……いじわる、しないで――んっ」
「…………」
負けた……このルシアンが負けただと!?
彼女のロケットよりも先に俺のロケットが火を噴きそうだと!?
「(あんた大体の女の子からの誘惑に負けるでしょ!)」
「……こほん。アイリスよ、食べるか?」
ミラの言葉を無視するため、そしてアイリスへの罪悪感をごまかすために席を用意する。
「へ? い、いいんですか……?」
「いじわるした詫びだ。リエラ、すまないが――」
「はぁ~~~、いいですよ、もう! こうなる前に対処できなかった私の落ち度ですから!」
既に『冷鉄』の仮面は脱ぎ去ったようで、頬を膨らませてぷりぷりしながらも、アイリスにパンを分けてやるリエラ。
どうやら彼女にも受け入れられたらしい。
「(受け入れたって言うか、諦めたんじゃない? あんたの女癖の悪さに!)」
「ははは!」
「(笑うなばかぁー!)」
いやいや今の笑いはごまかしの笑いじゃない。
アイリスの食べっぷりがハムスターみたいでおかしくて……。
「アイリスさん、好きに食べていいから落ち着いて……ほら頬にパンくずが――ふふっ」
「はむもぐはむもぐはむはむ――あ、ありがとうございます……! こんなに柔らかいパン生まれて初めてで……!」
「あらそう……ボーイさん、この子に最高級のお肉を持ってきてちょうだい」
リエラも、身内には甘いからな。
俺とミラ以外に甘くしているの見たことなかったけど。
ドラゴンのレアステーキを泣きながら頬張るアイリス、彼女をうっすらと目を細めて見つめながら、リエラが尋ねてくる。
「……それで、明日はどうするんですか?」
「明日か……」
少しだけ気になることがある。
「アイリスが『暗黒の月』を渡しに行くのについていこうと思っている」
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20時10分頃
となります




