第47話 2人の森の至宝と、姉妹丼の兆し
『ユリエル』の村に結界を張った後、少しばかり野暮用を済ませて戻ってくると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「(お、おじいちゃんたちが巻き割してる!)」
「(あちらでは民家の壁を釘打ちしているな。老人が)」
パワフルなご老人方だ。
どうやら移住の際に真っ先に声を上げていた『慎み深い老人』たちのようだが……。
「みなさま、肩こりや腰痛が治ったから、今までの詫びだと……」
肌がつやつやしていて、前にもまして美しい女性エルフ――ユリエナが声をかけてくる。
「ルシアン殿……さすがにこれほどの効力の結界が、初級魔法程度の魔力で……?」
「本来はそれも必要ないが――いや、それよりも大事なことがある」
「ええっと……?」
俺の背後に隠れていた、リエラ――ミュリエラが顔を出す。
野暮用の1つは、リエラを連れてくること。
「――お姉さま!!!」
「久しぶりね……最後に会ったのはまだ――」
「お姉さま! お姉さま!!! ごめんなさい! 本当にごめんなさい! あの時お姉さまを助けられなくて……!」
大粒の涙を流しながら、リエラに飛びつくユリエナ。
「何言ってるの。あの時はまだ4歳くらいだったでしょう?」
「それでも……それでもぉ~……うわぁぁぁ~ん……」
「あらあら、体は大きくなったのに、心はまだあの時のままなのね」
ユリエナの本当の願い。
それは、果たして里のトラブルの解決だたのだろうか。いいや違う。
「(きっと、お姉さんに見せたかったのね。新しい里を……)」
「(ああ。100年越しに、謝りたかったのだろう)」
片や老いたものたちは、利権と伝統にしがみつき。
片や幼子は、姉を奪った悪しき風習をなくすために、必死に生きてきたのだろう。
しばらくは2人っきりにしておこう。
「懇願:たすけろ」
里を歩いていると、聞き覚えのある声がした。
視線を向けると、たくさんの女性エルフに抱えられ撫でられすりすりされ……おもちゃのようにかわいがられているコアちゃんと目が合う。
「懇願:たすけろ」
俺が野暮用を済ませる間、この里で待っていた彼女たち。
マールとアイリスを探すと、エルフの人と魔法の見せあいや剣術を披露しあっているのを見つけた。
「懇願:……たすけろ……」
さて、俺はどうするかな……と思っていたところに声をかけてくる者が。
「どーも! 私のこと覚えていますか?」
「ん? ああ、お前は……」
例の里の秘宝をおもちゃ呼ばわりしていた、ユリエナの仲間だ。
「ルシアンさんってやっぱりすごいですね! 里の問題も解決しちゃうし、こんなに快適な結界まで!」
「大したことはない。ユリエナやお前たちの苦労を考えればな」
「うふふ! 謙虚さんなんですね~! そこも素敵です!」
「その通りだ」
「(謙虚な人間は、自分を謙虚だなんて言わないんだよ?)」
ミラは何を言っているのだろうか。
自分の力に満足せず、常に新しい魔術や俺の知らない法則を探し続けているこの俺に対して……。
俺ほど謙虚な人間は見たことが無い。
「(自身の特性を理解することは、成長する上で欠かせないことだぞ?)」
「(“正しく”理解できていればね!)」
ミラの奴……何だか機嫌が悪いな。なぜだ?
「ところでぇ~! ルシアンさんって、恋人募集中だったりしますぅ~?」
「いや、あいにくな。一夜の恋人は大歓迎だが」
「え~? じゃあ毎日それに立候補しちゃおっかなぁ~♡」
「(やっぱりね! この人の目、ずーっとハートだったもん! あーやだやだ! ルシアンにはこのかわいいミラちゃんがいるってのに!)」
ああ、そういうことだったのか。
ミラの奴、かわいいことを言うじゃないか。
「ならばそこの物陰で――」
「ルシアン様?」
突如として、冷たい空気が流れてくる。
俺の背後には邪神の劣化体とは比べ物にならない存在がいるのだろう。
どうして彼女が……妹と久しぶりの再会を喜び合っていたはずだ。
いつの間にか、『毎日一夜の恋人』の姿もない。
「……リ、リエラ……? どうしたんだ……?」
「人の愛しい人を狙う雌の匂いがしましたので」
「……ははは」
「おほほほほ」
まるで所有権を主張するように、俺の腕に自身の腕を絡ませてくるリエラ。
そのまま歩き出して……里を見て回るようだ。
正直周囲の景色を楽しめる余裕はない。
「……む!? 貴様は……」
「あら……?」
里の端っこにて、何するでもなく集まっている老害――老人共の塊を見つけた。
本当に何もしてないな。
「あの時の娘か……美しく育ったな。その薄汚――」
1人の老人が口を開き、そして口をパクパクとし始めた。
どうやら10日間は、この不愉快な声を聞かなくて済みそうだ。
他の老害共に目をやると……同じように、口をパクパクとしている。死にかけの魚のようで、この上なくマヌケな面だ。
「(もしかして……もう全員何かしらの悪口言ったの!? あれから1時間も経ってないのに!?)」
「(どうやら最後の1人も、他の者が喋れなくなった結果、たまたま無事だったようだな)」
「(ひどすぎる……!)」
リエラ不思議そうな表情をしているが、彼女は事情を知らないから当然だ。
「どこのどなたか存じませんが、あなた方に美しいと言われても悍ましいだけですわね。2度と私に話しかけてないでください」
「…………」
「ルシアン様、行きましょう」
さらに見せつけるように、無い胸を押し付けながら腕を組むリエラ。
だんだんと締め付けが強くなっている気がしなくもない。
いや痛い。
「リエラさん?」
「……何か?」
「……何でも」
おかしい、彼女に心を読む魔法は使えないはずだが。
「(乙女の勘ってやつね! 最強の感知魔法よ!)」
ならばお手上げである。
「ルシアン殿!」
すると再びユリエナが駆け寄ってきた。
「少し考えたのですが……」
「ん?」
「里の問題を解決してくれた上にこのような結界までいただいたこと! この里を代表してお礼をしたいのですが何分何もない村でして、とてもルシアン様が満足できるものは用意できません、つきましては私を、この里の族長である私をあなた様に捧げようと思った次第でございます!」
早口で一気にまくし立てた後、リエラと反対側の腕にしがみついてくるユリエナ。
どうやら姉よりはあるらしい。
「(……は? 何この女……!)」
「ちょっとユリエナ!? 何言ってんの――」
「お姉さまこそ何を言っているのですか! 姉妹揃って同じ方に嫁ぐと言うことはお姉さまとも一緒にいれると言うこと! これぞ一石二鳥の御礼方法!」
姉妹丼。
人類の夢でもあり、儚い希望でもある。
それが目の前にあると言うのであれば……魔術師としてその楽園の扉を開けない訳にはいかない。
「(ちょっと! あんたも何言ってんのよ! ぶっ叩くわよ!?)」
「た、確かに……それも悪くない、かも?」
「そうですよお姉さま!」
1人陥落。残るこの毛玉は俺に任せろ。
「(ミラよ、里の入口に飴玉が落ちていたぞ。食べに行ったらどうだ?)」
「(何言ってんの! 飴玉なんかで釣られる訳ないでしょ!)」
ダメだったか。
「――あ、あれ……? 里の入口に見覚えのあるものが……」
ユリエナが、先ほどまではなかったものを見つけて狼狽えた声を上げる。
野暮用の2つめに、遂に気が付いたようだ。
もちろん、飴玉ではない。似たようなものだが。
「邪神の“左足”だな。半分聖獣化させた。里の守護獣として飼ってやってくれ」
「はえええ!?」
「アビちゃんのように完全に聖獣化させても良かったんだが、2つの性質を持っている方が面白いかと思ってな」
「おもしろいからって理由で!?」
重要で立派な研究理由の1つじゃないか。
「……邪神と言えば……」
尚も慌てふためく妹の横で、リエラが深刻そうな顔で呟いた。
「……ソニプロフェン王国に『100年聖女』が行ったそうですよ。ですが――」
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